1.出会いは派手に、唐突に
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1-2
「いや、助かりました。本当に!」
ふかふかのソファーに座ったまま、パンっ!と音が鳴るぐらい勢いよく手を合わせて私は頭を下げた。私の足の裏は丁寧に消毒がされ、しっかりガーゼが張られている。ついでに膝小僧にもおっきな絆創膏。
私が座っているソファー以外は机とか椅子とか必要最低限のものは置きました、と言うような部屋は私の部屋ではない。
「俺が言うのもなんだけどよい、お前さん危機感皆無だな」
パタンと救急箱を閉めながらながら溜息をつくのはマルコさん。私を助けてくれてしかも手当までしてくれたここの部屋の住人。
白ひげカンパニーに勤めているサラリーマンだと聞いてすごくびっくりした。白ひげカンパニーと言えば世界的に有名な大きな会社だ。私にも少しだけ関係する会社なので、本気で不審者に間違えられなくてよかったと思う。
「こうやって初対面の男の部屋にも入っちまうし、お前ぇさんの危機管理どうなってんだい」
「これは手当してくださる、と言う好意に甘えただけですよ」
「連れ込まれて何かされるんじゃねえかぐらい考えろい」
マルコさんの言い分も分かるが、マンションのエントランスに入り、明るいところで見た私の足のケガが割とひどかったせいか、マルコさんから「……気にしねぇなら傷を見てやる」と言ってくれたからお言葉に甘えたのだ。お願いしますと即答したのはちょっと反省するが。
いい大人が初対面の異性の部屋について行く、と言うのはあまり関心できることではないかもしれないけれど派手に転んでボロボロの私に声をかけ、さらに追われていることに気付いて手を差し伸べてくれた人をだれが悪い人だと思えるか。いや誰も思えない。そう言えばマルコさんはまた溜息をついてしまったけれど。
「だいたいストーカーなら素直に警察行けよい」
もっともな言い分にさすがに私は苦笑い。笑ったのがまずかったのかマルコさんはますますしかめっ面。
そう、私がなにから全力疾走で逃げていたかと言えば、ちょっとばかし私のことが好きすぎる人、曰くストーカーさんだ。少し前からあったのだけれど、今日は少しだけ怪しい雰囲気だったので全力疾走で逃げていたのだ。
「いや、前まではこんなにひどくなかったんですよ」
「前からあったならなおさらだよい」
弁解するもますます眉を寄せるマルコさんが、いかにストーカーが面倒かを延々と語ってれるので適当に相槌を打っていれば、「真面目に聞け馬鹿野郎」と言われてしまって。
バカと初対面の人に言われるほどに私はなってしまったらしいとちょっぴり悲しいが、本気で警察に行くのを進めてくる様子にこの人いい人だなあ、とのんきに思った。
適当に笑って相槌を打てば打つほど、マルコさんは私に言い聞かせようと言葉を重ねるのでめちゃくちゃ面倒見のいい人だな、とも思った。「そうやってお人よしな態度をとるからストーカーが付くんだい!聞いてるかよい!」と言われるが、仕事から帰ってきたところで、見るからに厄介ごとである女を拾ってしかも手当までしてくれたマルコさんの方がよっぽどお人よしだ。
説教を受けるのが久しぶりで、世話を焼かれている感覚に不謹慎にも居心地の良さを感じてしまいずっと聞いていてもよかったのだが、ちらりと腕時計で時間を確認してさすがに自重した。22時45分。このままでは寝る時間を削らせてしまう。私はちょっと残念だなあと思いつつひらひらと手を振って見せた。
「まあ、まあ。ストーカーさんにも感謝ですよ、こうやってマルコさんとも初めましてができたわけですし」
「もっと落ち着いた初めましての方が俺はありがたかったけどねい」
「いやあ、忘れられないいい出会いじゃないですか」
のらりくらりと会話をして、再度怪我のお礼と迷惑をかけたことにすみませんでしたと謝って席を立てば、マルコさんも時間に気付いたようで溜息一つだけまた落として玄関へ案内してくれた。そこでも念を押されて私は笑ってしまったのだけれど。
「さっさと警察に行け、放っておけば放っておくほど面倒になるよい」
「あらまあ、経験済みのようにおっしゃるので」
「ふざけた口はそいつかい」
ぐにっと頬をつままれてちょっと驚く。先に軽口を叩いたのは私なので嫌悪はないが。ちょっぴり意外。マルコさんの雰囲気はザ、真面目って感じだったからそんなに異性に軽く触れるとは思っていなかった。
私がぱちぱち瞬きしたので、マルコさんもそこではっとしたのか「すまん」と謝られたが、そこは見た目通り真面目なのだなと思わずぷっと笑った。
「……笑うない」
「いや、だって……気にしませんよ、驚いただけです」
「おっさんはセクハラだって言われんのが怖ェんだい」
真面目な顔で口をとがらせて言うのでますます私は笑ってしまう。そんなことを心配するなら、いくら怪我がひどかったからとはいえ女性を部屋に入れた時点でアウトでしょうに。
お人よし。こういう人がいるから自分はまだ。
「今度お礼しますね」
「いらないよい。俺が好きでやったことだ」
ドアに手をかけ、そうですか、と言いつつ私は鞄の中からメモを取り出すと一枚破ってマルコさんに差し出した。条件反射のように受け取ったのを確認して私は素早くドアを開けた。
「たいしたお礼はできませんけど、一杯おごりますよ。暇な時連絡ください」
「……ナンパ男のセリフかよい」
「はは!では、誘いに乗ってくれると嬉しいです」
渡したのはメアドが書かれたメモだ。お礼を押し付けることはできないがさすがに何もしないのは気が引ける。もしかしたら命の恩人かもしれないし。何より……ちょっと楽しかったから。
だめだな、ちょっと疲れてるのかも。
マルコさんから気が向けばな、と返事をいただいて「では、また」とドアを閉じた。
私の部屋はこの一つ下の階だから、階段でゆっくりと下った。
かつ、かつ、かつ。逃げるときは脱いでいたヒールが鳴る。そのたびに擦れた足の裏が痛かったけれど、痛みと同時に柔らかなガーゼが当たる感触もして、まあ悪くはないかなと息を吐いた。
月がきれいな花金の晩に、静かに杯を傾けるわけでもなく全力疾走するはめになったがなかなか刺激的な初めましては少しだけ私の心を満たしていて。
ぴろん、とスマホの着信音。差出人はアドレス。
件名を見て、私はやっぱり真面目な人だ、と笑った。
「いや、助かりました。本当に!」
ふかふかのソファーに座ったまま、パンっ!と音が鳴るぐらい勢いよく手を合わせて私は頭を下げた。私の足の裏は丁寧に消毒がされ、しっかりガーゼが張られている。ついでに膝小僧にもおっきな絆創膏。
私が座っているソファー以外は机とか椅子とか必要最低限のものは置きました、と言うような部屋は私の部屋ではない。
「俺が言うのもなんだけどよい、お前さん危機感皆無だな」
パタンと救急箱を閉めながらながら溜息をつくのはマルコさん。私を助けてくれてしかも手当までしてくれたここの部屋の住人。
白ひげカンパニーに勤めているサラリーマンだと聞いてすごくびっくりした。白ひげカンパニーと言えば世界的に有名な大きな会社だ。私にも少しだけ関係する会社なので、本気で不審者に間違えられなくてよかったと思う。
「こうやって初対面の男の部屋にも入っちまうし、お前ぇさんの危機管理どうなってんだい」
「これは手当してくださる、と言う好意に甘えただけですよ」
「連れ込まれて何かされるんじゃねえかぐらい考えろい」
マルコさんの言い分も分かるが、マンションのエントランスに入り、明るいところで見た私の足のケガが割とひどかったせいか、マルコさんから「……気にしねぇなら傷を見てやる」と言ってくれたからお言葉に甘えたのだ。お願いしますと即答したのはちょっと反省するが。
いい大人が初対面の異性の部屋について行く、と言うのはあまり関心できることではないかもしれないけれど派手に転んでボロボロの私に声をかけ、さらに追われていることに気付いて手を差し伸べてくれた人をだれが悪い人だと思えるか。いや誰も思えない。そう言えばマルコさんはまた溜息をついてしまったけれど。
「だいたいストーカーなら素直に警察行けよい」
もっともな言い分にさすがに私は苦笑い。笑ったのがまずかったのかマルコさんはますますしかめっ面。
そう、私がなにから全力疾走で逃げていたかと言えば、ちょっとばかし私のことが好きすぎる人、曰くストーカーさんだ。少し前からあったのだけれど、今日は少しだけ怪しい雰囲気だったので全力疾走で逃げていたのだ。
「いや、前まではこんなにひどくなかったんですよ」
「前からあったならなおさらだよい」
弁解するもますます眉を寄せるマルコさんが、いかにストーカーが面倒かを延々と語ってれるので適当に相槌を打っていれば、「真面目に聞け馬鹿野郎」と言われてしまって。
バカと初対面の人に言われるほどに私はなってしまったらしいとちょっぴり悲しいが、本気で警察に行くのを進めてくる様子にこの人いい人だなあ、とのんきに思った。
適当に笑って相槌を打てば打つほど、マルコさんは私に言い聞かせようと言葉を重ねるのでめちゃくちゃ面倒見のいい人だな、とも思った。「そうやってお人よしな態度をとるからストーカーが付くんだい!聞いてるかよい!」と言われるが、仕事から帰ってきたところで、見るからに厄介ごとである女を拾ってしかも手当までしてくれたマルコさんの方がよっぽどお人よしだ。
説教を受けるのが久しぶりで、世話を焼かれている感覚に不謹慎にも居心地の良さを感じてしまいずっと聞いていてもよかったのだが、ちらりと腕時計で時間を確認してさすがに自重した。22時45分。このままでは寝る時間を削らせてしまう。私はちょっと残念だなあと思いつつひらひらと手を振って見せた。
「まあ、まあ。ストーカーさんにも感謝ですよ、こうやってマルコさんとも初めましてができたわけですし」
「もっと落ち着いた初めましての方が俺はありがたかったけどねい」
「いやあ、忘れられないいい出会いじゃないですか」
のらりくらりと会話をして、再度怪我のお礼と迷惑をかけたことにすみませんでしたと謝って席を立てば、マルコさんも時間に気付いたようで溜息一つだけまた落として玄関へ案内してくれた。そこでも念を押されて私は笑ってしまったのだけれど。
「さっさと警察に行け、放っておけば放っておくほど面倒になるよい」
「あらまあ、経験済みのようにおっしゃるので」
「ふざけた口はそいつかい」
ぐにっと頬をつままれてちょっと驚く。先に軽口を叩いたのは私なので嫌悪はないが。ちょっぴり意外。マルコさんの雰囲気はザ、真面目って感じだったからそんなに異性に軽く触れるとは思っていなかった。
私がぱちぱち瞬きしたので、マルコさんもそこではっとしたのか「すまん」と謝られたが、そこは見た目通り真面目なのだなと思わずぷっと笑った。
「……笑うない」
「いや、だって……気にしませんよ、驚いただけです」
「おっさんはセクハラだって言われんのが怖ェんだい」
真面目な顔で口をとがらせて言うのでますます私は笑ってしまう。そんなことを心配するなら、いくら怪我がひどかったからとはいえ女性を部屋に入れた時点でアウトでしょうに。
お人よし。こういう人がいるから自分はまだ。
「今度お礼しますね」
「いらないよい。俺が好きでやったことだ」
ドアに手をかけ、そうですか、と言いつつ私は鞄の中からメモを取り出すと一枚破ってマルコさんに差し出した。条件反射のように受け取ったのを確認して私は素早くドアを開けた。
「たいしたお礼はできませんけど、一杯おごりますよ。暇な時連絡ください」
「……ナンパ男のセリフかよい」
「はは!では、誘いに乗ってくれると嬉しいです」
渡したのはメアドが書かれたメモだ。お礼を押し付けることはできないがさすがに何もしないのは気が引ける。もしかしたら命の恩人かもしれないし。何より……ちょっと楽しかったから。
だめだな、ちょっと疲れてるのかも。
マルコさんから気が向けばな、と返事をいただいて「では、また」とドアを閉じた。
私の部屋はこの一つ下の階だから、階段でゆっくりと下った。
かつ、かつ、かつ。逃げるときは脱いでいたヒールが鳴る。そのたびに擦れた足の裏が痛かったけれど、痛みと同時に柔らかなガーゼが当たる感触もして、まあ悪くはないかなと息を吐いた。
月がきれいな花金の晩に、静かに杯を傾けるわけでもなく全力疾走するはめになったがなかなか刺激的な初めましては少しだけ私の心を満たしていて。
ぴろん、とスマホの着信音。差出人はアドレス。
件名を見て、私はやっぱり真面目な人だ、と笑った。