7.優しい秘密が知りたいの
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7.優しい秘密が知りたいの
7-1
船に乗せてもらって数日たった。生活させてもらって思ったのは、海賊と言ってもこんなに親切なんだなってことと、船の生活はそこまで不便ではないということ。前者についてぽろっとこぼしたら、イゾウさんには「うちは家族を大事にするからな」と返ってきたけれど、私は家族ではないと思う。良くて客人、はっきり言えば居候。
もう少し邪険に、と言うか空気のように扱われるものかと思っていたけど、ナースのお姉さまはもちろん隊長さんたちや、名前は覚えきれていないが世話好きなクルーさんたちがみんなこぞって親切にしてくれ、逆に私が挙動不審らしくめちゃくちゃ笑われている。
もっと気を楽にしろ!とか、お話しましょ!とか言われて促されるままそうしてるけど果たしてこれでいいのか……。判断に困ってイゾウさんを見ても、いつものようににいっと笑っているだけでなにも言わないからたぶん間違ってはいないのだろうけど。
さすがに穀潰しにはなりたくないから、洗濯や料理の下ごしらえなど雑務はやらせてもらっているけど、微々たるものだし甘やかされているのはひしひしと感じているから、これでいいものか。
今日は島に停泊するから服を買いに行くぞ、とイゾウさんに言われ、女の服は女同士の方が楽しいだろうと、リサさんも一緒に島に降りたまではよかった。リサさんも楽しそうで私は嬉しい。私は遠慮したけど、あれよこれよと言う間に服やら下着やら雑貨屋らを買い込まれたのもまあ、仕方がない。けれど……この人たち体力ありすぎだ。
「あらユリトちゃんもう疲れちゃったの?」
「すみません……」
リサさんはもう、と言ったがこの人たちは朝から今しがた、つまり昼時までずっと歩きっぱなしだった。イゾウさんはともかくリサさんはその細い体のどこに体力が入っているのかはなはだ不思議である。疲れたなら担ぐぞ、とイゾウさんは言ったが丁重にお断りさせていただいた。断ったのにすいっと腕が伸びてくるから失礼ながらも叩き落とした。本気でやめてくれ。
もともと、「陸に降りている間は袂を掴め」ときつく言われて子どものようにそうして歩いていただけでもかなりの恥だというのに、担がれて歩かれるなどしたら死んでも死にきれない。言っておくが私は成人女性で、子どもではないのだから。
「担がれるか引きずられるかどっちがいい?」
「その二択しか選択肢がないのはおかしくないですか?」
普通に休んでいます、とベンチを指させばイゾウさんはつまらないなと言うように肩を竦めた。いや、つまらなくないし。選択肢から選べと言うなら私は3つ目を選ぶ。自分で作ればいいのだから。
それに疲れたと思っているのは私だけではない。
「あの人たちすげェな……」
「本当ですよね……」
結局ベンチで休んでいるから二人でどうぞ、と別れ、二人が買い物しているのが見えるショーウィンドウを私とともに眺めるのは16番隊の隊員のヴァントさん。
イゾウさんが「荷物持ちな」と船に降りる間際にひょいとつままれてついてくることになったとてつもなく不憫なクルーさんだ。買い物は私の服だと聞いていたから、歩いている時にこっそり謝ったら気にするな、と笑ってくれたから彼はいい人だが、本当に申し訳ない。
女の買い物はなぜこんなにも時間がかかるのか……。そう言ったらヴァントさんに笑われた。お前も女だろー?と言われたが、私は女性らしい女性は苦手だから、リサさんとはすこーしだけタイプが違うのだと首を振った。
ショーウィンドウの中で、ああでもないこうでもないといいあっているのか楽しそうに服を選ぶイゾウさんとリサさんが見える。二人ともきれいな人だから純粋にお似合いだなあ、と思った。リサさんを筆頭にナースのお姉さま方はみんな美しい。イゾウさんの黒髪と、リサさんのブロンドの髪はお店の照明すべてを吸い込んで輝いているように見えるほどできれいだ。
「しばらく帰ってこなさそうだなー」
「そうですね」
「お前、ユリトだっけ」
「はい」
「お前の血って変なのか?」
ヴァントさんに突然尋ねられ、私はパチリ。
「変、らしいですよ」
「らしいってなんだよ」
隠すこともないのだけれど、反復するように返せばヴァントさんは口を尖らせた。もっとはっきり言えよ、と顔に書いてあるから笑ってしまう。でも、だって尋ねられたということは、つまり隊長さんたちから私の血の話は聞いていないということは示していて。
どうして話してないのだろうか。それこそ、隠すことではないはずなのに。
ちらりとショーウィンドウの方を見ればまだ二人は服を見ていた。イゾウさんのすっと通った鼻筋と、彫刻のようなあごのラインがきれいだ。
「どんな血だと思いますか?」
普通に答えてもいいのだけれど、暇だし興味本位に聞いてみればヴァントさんは思いのほか真剣に悩みだし、少し濃い眉をぐっと寄せて、むむむっという効果音が似合うほど考えるものだから思わず笑った。
「不老不死!」
「定番すぎますね、もうひとひねり」
「酒!」
「飲みたいだけでしょう」
呆れつつ突っ込めば悪びれもなく「ばれたか」とへへっと笑うヴァントさん。ばれたかも何も酒、という答えはいったいなんだ。船のみなさんはお酒が好きだ。私もお酒は好きだけれど、さすがにきっつい酒を瓶ごと飲んだことはない。
宴だなんのと騒いだ後は必ず甲板に屍ができる。朝方まで賑やかに飲んでいれば当たり前だと思うし、さすがにそこまで飲むのは馬鹿だと思うのだがどうにも「楽しい」を優先させる人たちのようで、何度二日酔いになろうと酒をやめる人はいない。二日酔いでも仕事はや鍛錬は必ずあるのに、全くすごい根性である。
「二日酔いってしんどくないんですか?」
「頭われるんじゃねェかと思うほど気分は最悪だぜ!」
「……そうですか」
「んで、どう血が変なんだ?」
話を戻すようにまた尋ねられた。キラキラと純粋に知らないものへの好奇心が詰め込まれたような目がこっちを向く。
「……私のことは隊長さん方からなんて聞いてるんですか?」
「お前のこと?親父が船に乗せるって言ったから乗ることになった女だって聞いてるぜ。全然世の中の事知らねえから、妹だとでも思っていろいろ話していろいろ見せてやれってさ」
害はない、警戒する必要はない、と言われたが見りゃわかるよな、とヴァントさんは笑った。こんなちっこくてほそっこい女にはやられないと。それはそうだが、直接言われると非常に微妙な気持ちになる。何か言おうかとも思ったが、首を振ってやめた。戦えないのは確かだし、弱いのも言い訳することがない。
「血が変っていうのは誰から聞いたんですか?」
「誰からも聞いてねえ。親父が傘下からの連絡で『女の血が妙で』っつーのをちらっと聞いただけだ」
やっぱり、私の血の話はクルーのみんなにはされていないのか。でも、イゾウさんは知ってたみたいだし、隊長各の人たちは知っているということかもしれない。ならなんでクルーのみんなには言っていないのだろうか。私は首をかしげるばかりだ。
思えば結局私はその「親父さん」にまだ会っていない。イゾウさんにやんわり断られて以降も、「挨拶はいらねェとさ」と言われて結局会いに行けていないのだ。会えない理由があるのか、会いたくないのか、はたまた会うとまずいのか。
ふとショーウィンドウの方に目を向けると、二人が会計を済ませているところだった。イゾウさんとパチリと目が合って薄く笑われたからそれから目をそらさずに私はヴァントさんに声をかけた。
「ヴァントさん」
「あ?」
「私の血は万能薬らしいですよ」
ピクリ、とヴァントさんが肩を揺らした気配がした。イゾウさんとリサさんがこちらに向かってくる。
私はヴァントさんの方を見て微笑むと、小声で一言だけ伝えてベンチから立ち上がった。
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船に乗せてもらって数日たった。生活させてもらって思ったのは、海賊と言ってもこんなに親切なんだなってことと、船の生活はそこまで不便ではないということ。前者についてぽろっとこぼしたら、イゾウさんには「うちは家族を大事にするからな」と返ってきたけれど、私は家族ではないと思う。良くて客人、はっきり言えば居候。
もう少し邪険に、と言うか空気のように扱われるものかと思っていたけど、ナースのお姉さまはもちろん隊長さんたちや、名前は覚えきれていないが世話好きなクルーさんたちがみんなこぞって親切にしてくれ、逆に私が挙動不審らしくめちゃくちゃ笑われている。
もっと気を楽にしろ!とか、お話しましょ!とか言われて促されるままそうしてるけど果たしてこれでいいのか……。判断に困ってイゾウさんを見ても、いつものようににいっと笑っているだけでなにも言わないからたぶん間違ってはいないのだろうけど。
さすがに穀潰しにはなりたくないから、洗濯や料理の下ごしらえなど雑務はやらせてもらっているけど、微々たるものだし甘やかされているのはひしひしと感じているから、これでいいものか。
今日は島に停泊するから服を買いに行くぞ、とイゾウさんに言われ、女の服は女同士の方が楽しいだろうと、リサさんも一緒に島に降りたまではよかった。リサさんも楽しそうで私は嬉しい。私は遠慮したけど、あれよこれよと言う間に服やら下着やら雑貨屋らを買い込まれたのもまあ、仕方がない。けれど……この人たち体力ありすぎだ。
「あらユリトちゃんもう疲れちゃったの?」
「すみません……」
リサさんはもう、と言ったがこの人たちは朝から今しがた、つまり昼時までずっと歩きっぱなしだった。イゾウさんはともかくリサさんはその細い体のどこに体力が入っているのかはなはだ不思議である。疲れたなら担ぐぞ、とイゾウさんは言ったが丁重にお断りさせていただいた。断ったのにすいっと腕が伸びてくるから失礼ながらも叩き落とした。本気でやめてくれ。
もともと、「陸に降りている間は袂を掴め」ときつく言われて子どものようにそうして歩いていただけでもかなりの恥だというのに、担がれて歩かれるなどしたら死んでも死にきれない。言っておくが私は成人女性で、子どもではないのだから。
「担がれるか引きずられるかどっちがいい?」
「その二択しか選択肢がないのはおかしくないですか?」
普通に休んでいます、とベンチを指させばイゾウさんはつまらないなと言うように肩を竦めた。いや、つまらなくないし。選択肢から選べと言うなら私は3つ目を選ぶ。自分で作ればいいのだから。
それに疲れたと思っているのは私だけではない。
「あの人たちすげェな……」
「本当ですよね……」
結局ベンチで休んでいるから二人でどうぞ、と別れ、二人が買い物しているのが見えるショーウィンドウを私とともに眺めるのは16番隊の隊員のヴァントさん。
イゾウさんが「荷物持ちな」と船に降りる間際にひょいとつままれてついてくることになったとてつもなく不憫なクルーさんだ。買い物は私の服だと聞いていたから、歩いている時にこっそり謝ったら気にするな、と笑ってくれたから彼はいい人だが、本当に申し訳ない。
女の買い物はなぜこんなにも時間がかかるのか……。そう言ったらヴァントさんに笑われた。お前も女だろー?と言われたが、私は女性らしい女性は苦手だから、リサさんとはすこーしだけタイプが違うのだと首を振った。
ショーウィンドウの中で、ああでもないこうでもないといいあっているのか楽しそうに服を選ぶイゾウさんとリサさんが見える。二人ともきれいな人だから純粋にお似合いだなあ、と思った。リサさんを筆頭にナースのお姉さま方はみんな美しい。イゾウさんの黒髪と、リサさんのブロンドの髪はお店の照明すべてを吸い込んで輝いているように見えるほどできれいだ。
「しばらく帰ってこなさそうだなー」
「そうですね」
「お前、ユリトだっけ」
「はい」
「お前の血って変なのか?」
ヴァントさんに突然尋ねられ、私はパチリ。
「変、らしいですよ」
「らしいってなんだよ」
隠すこともないのだけれど、反復するように返せばヴァントさんは口を尖らせた。もっとはっきり言えよ、と顔に書いてあるから笑ってしまう。でも、だって尋ねられたということは、つまり隊長さんたちから私の血の話は聞いていないということは示していて。
どうして話してないのだろうか。それこそ、隠すことではないはずなのに。
ちらりとショーウィンドウの方を見ればまだ二人は服を見ていた。イゾウさんのすっと通った鼻筋と、彫刻のようなあごのラインがきれいだ。
「どんな血だと思いますか?」
普通に答えてもいいのだけれど、暇だし興味本位に聞いてみればヴァントさんは思いのほか真剣に悩みだし、少し濃い眉をぐっと寄せて、むむむっという効果音が似合うほど考えるものだから思わず笑った。
「不老不死!」
「定番すぎますね、もうひとひねり」
「酒!」
「飲みたいだけでしょう」
呆れつつ突っ込めば悪びれもなく「ばれたか」とへへっと笑うヴァントさん。ばれたかも何も酒、という答えはいったいなんだ。船のみなさんはお酒が好きだ。私もお酒は好きだけれど、さすがにきっつい酒を瓶ごと飲んだことはない。
宴だなんのと騒いだ後は必ず甲板に屍ができる。朝方まで賑やかに飲んでいれば当たり前だと思うし、さすがにそこまで飲むのは馬鹿だと思うのだがどうにも「楽しい」を優先させる人たちのようで、何度二日酔いになろうと酒をやめる人はいない。二日酔いでも仕事はや鍛錬は必ずあるのに、全くすごい根性である。
「二日酔いってしんどくないんですか?」
「頭われるんじゃねェかと思うほど気分は最悪だぜ!」
「……そうですか」
「んで、どう血が変なんだ?」
話を戻すようにまた尋ねられた。キラキラと純粋に知らないものへの好奇心が詰め込まれたような目がこっちを向く。
「……私のことは隊長さん方からなんて聞いてるんですか?」
「お前のこと?親父が船に乗せるって言ったから乗ることになった女だって聞いてるぜ。全然世の中の事知らねえから、妹だとでも思っていろいろ話していろいろ見せてやれってさ」
害はない、警戒する必要はない、と言われたが見りゃわかるよな、とヴァントさんは笑った。こんなちっこくてほそっこい女にはやられないと。それはそうだが、直接言われると非常に微妙な気持ちになる。何か言おうかとも思ったが、首を振ってやめた。戦えないのは確かだし、弱いのも言い訳することがない。
「血が変っていうのは誰から聞いたんですか?」
「誰からも聞いてねえ。親父が傘下からの連絡で『女の血が妙で』っつーのをちらっと聞いただけだ」
やっぱり、私の血の話はクルーのみんなにはされていないのか。でも、イゾウさんは知ってたみたいだし、隊長各の人たちは知っているということかもしれない。ならなんでクルーのみんなには言っていないのだろうか。私は首をかしげるばかりだ。
思えば結局私はその「親父さん」にまだ会っていない。イゾウさんにやんわり断られて以降も、「挨拶はいらねェとさ」と言われて結局会いに行けていないのだ。会えない理由があるのか、会いたくないのか、はたまた会うとまずいのか。
ふとショーウィンドウの方に目を向けると、二人が会計を済ませているところだった。イゾウさんとパチリと目が合って薄く笑われたからそれから目をそらさずに私はヴァントさんに声をかけた。
「ヴァントさん」
「あ?」
「私の血は万能薬らしいですよ」
ピクリ、とヴァントさんが肩を揺らした気配がした。イゾウさんとリサさんがこちらに向かってくる。
私はヴァントさんの方を見て微笑むと、小声で一言だけ伝えてベンチから立ち上がった。