忘れ物の日
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
■主人公達の中学時代。兄上の練習試合の日の話。
熱が篭るワックスが塗られた板張り。その熱気に揺れるように佇む姿。
知っている姿は微動だにせず、こちらに背中を向けて一人立ち尽くしていた。
「………何してるの?」
慎重に、声を掛けた。
カシャンと鎧が揺れる音と共に彼女が振り返った。
***
「原…、原殿……、」
合同練習の休憩の終わり際。確かめるように呟きながら幸村が武道場の中へ戻ってきた。
部員ではない者の苗字を口にしながら、手には幸村の物では無い水筒を持っていた。
「どしたの?旦那」
「原殿にこれを渡したいのだ。相手校の何処かに居られるはず……」
「あの人じゃない?前垂れに書いてある。っていうか向こうの主将」
「なんと!」
佐助が指し示した先には、中学生の平均より高い身長の男子生徒がいた。
他の生徒と同じく道着と防具を身に纏っている。目当ての人物がわかると幸村は小走りで渡しに行った。
(………やっぱり、そうだよな。お兄さんがいるなら多分いるんだ。きっと……あの子も、)
表情に出さないように、佐助は記憶を遡る。
今日出会った練習相手校の原という佐助と同い年の生徒。初対面だが記憶の中にも存在する。
(あの子の兄……、薩摩で再会出来たのに、刃を交える事になったって散々凹んでたな)
「佐助、合っておったぞ!原殿に渡して参った!」
ついぼんやりしていたらしい。幸村の声に佐助はハッとした。
「お疲れさん、外で休んでる時にご家族でも来て頼まれたの?」
「うむ、原殿の妹だと言っておられた!」
「い、妹ぉ!?」
平静を装う前に反応してしまった。
思い浮かべた相手がすぐ近くまで来ていた事を知り流石に狼狽えてしまった。
こんな事なら幸村と一緒に風に当たりに行けばよかったと真剣に後悔する。
「どんな子だった!?何か特徴ない?髪とか!背はどのくらいだった!?」
………なんて問いただしたいが、怪訝に思われるに違いない。
素っ頓狂な声を上げてしまったが、以降必死に心を落ち着かせてから、何気無い風に切り出した。
「………へぇ、似てた?」
「うむ……、くせっ毛な髪が似ておったような…」
絶対あの子だ。妙な確信があった。
そもそも幸村が彼の妹……つまりは女子と接触したというのに、相手の特徴を覚えるほど落ち着いて対応出来た時点で、だ。
幸村のみならず、佐助以外の人間があの戦の時代の記憶を思い出している様子はない。もし彼女らしき人物と接触した事で思い出したら、こんなに冷静で居られないはずだ。
『せんせい!さすけくんが泣いてる!』
『どうしたの?具合わるいの?どんぐりのお歌いやなの?』
……あれくらい、ドンピシャな出来事でもない限り、容易には引き起こされないということなのだろう。
(焦らすんだから……あとどれくらい待つのよ。年単位?)
「原殿、夏の成績次第では婆娑羅学園へスポーツ特待生で進学されるそうだ」
水筒を届けついでに、彼と周りの部員達から聞こえてきた会話を幸村が話す。
「すごいね。あの人あれだけ強いんだもん。きっと通っちゃうね」
「我らもだぞ佐助!学外活動での推薦は叶わぬだろうが、サッカー強豪の婆娑羅学園に入学せねば!」
「はいはい、そうだね。でもちゃんと部活の剣道もやんないとね。休憩明けたらまた練習試合やるってさ」
「うむ!無論全力でぶつかるのみ!」