世界が生まれるまで
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『さぁ、行ってらっしゃい。これが、わたし達を助ける事と同義です』
「……………」
亀裂の先の景色を見ると、確かに『ここに行かなければならない』使命感が少女に湧きあがってくる。
しかしながら、この謎の女性と無数の光の意思に納得出来ないため、踏み出すのは躊躇われた。
『わたしが言うべきことではありませんが………成し遂げた後、どうか無事に帰ってきてくださいね。待っています』
幼い頃の己が家族の最後の出陣前に口にした事とよく似た言葉が告げられた。
女性の声色に偽りなく、紛うことなき切実なものだった。
『あなたへの代価にして、魂だけになった生命の極限に挑むものです。どうか、気をつけて』
「……………は、い」
心から少女の身を案じる、切なくも温かな気配。思わず少女は頷いてしまった。
そうした途端、光に招かれるように亀裂の中に吸い込まれた。
死の淵を超えた者同士……この女性とのやり取りは、記憶として次の世に引き継がれることは無い。
覆せない理。それを承知していたからこそ、多少強引でも娘の望みを繋げるべく導き手を買って出た。
肩を震わせ、静かに鼻をすする傍らの人物へ、女性は愛おしげに微笑むと手を伸ばした。
後はふたりで信じて待つのみ。
『あの子ならきっと大丈夫です。わたし達はずっと、ずっと……見てきましたもの』
*
息苦しい。
戦場を駆け抜け、血と死に染まった魂が『器』を蝕んでいるせいだとすぐに理解した。
当然だ。こんな混沌とした魂の記憶と経験など、戦いと縁のない者にとっては脅威にしかならない。『己自身』と受け入れるには、あまりにもおぞましい衝撃だ。心身への負担は計り知れない事だろう。
このままでは先に器が崩壊してしまう。同じ存在とはいえ、無関係な存在を傷つけてしまう。
更に悪化すれば、己の魂自体も行き場を失いかねない。あの女性が言っていた『魂が砕けないように』というのはこの事を指していたのだろう。
苦しさのなか、無事に帰ってくるよう言い聞かせてきた、あの不思議な存在について考える。
そうだ、あの場に帰れたら、帰ってきたら、あの女性にも聞きたい事が山程ある。
(それならば……)
この魂の記憶と経験を切り捨てる。
器を傷つける可能性があるものを全て切り離し、一番の目的だけに専念させる。
そういう力業なら、生きてる内に散々経験済みだ。
できるはずだ、わたしなら。己自身を制御できる。
目的を果たすために、障害となる物はすべて……決して届かない場所に眠らせる。
その判断は正解だったようだ。
器と魂の不和による軋みが解消されていく。
痛みから解放されていくと同時に、魂だけとなった少女の意識が霞んで、自我が薄れていく。
(さすけ……、かならず、わたしが…………)
願いを未来に託し、魂は器の奥底へ沈むと、眠りについた。