遺された時間
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立ち姿に座り姿。純和風な庭を活かした構図に花火やうちわを持ちながら……様々なポージングを要求されながら暫く続いた熱烈な撮影会を終えると、朱音は佐助と幸村の元へ合流した。
最後に朱音からお願いした、自撮りモードによるツーショットを幸せそうに見返しながらひかりは送り出してくれた。
「浴衣、よう似合っておられる。不思議としっくりきますな」
「ありがとうございます、幸村。花火まだ残ってますか?」
「こちらに。ひかり殿が撮影されている間に佐助が確保しており申した」
幸村が示した方向を見ると、色んな種類の花火が少しずつ取り分けられており、ちょうど3人で楽しむのに程よい量が置かれていた。流石の器量良しである。
「さぁ〜て、お待ちかね!ウチらも花火楽しみますか!」
こうして朱音も待望の三人の花火会が始まった。
小さな火花が夏の夜空を仄かに照らす。色や火の粉の吹き出し方も様々で、幼い頃から親しんでいても毎回楽しめるものである。純粋に火薬が燃えているだけなら、ちょっとした癒しの香りや音として楽しめる。
去年に比べ、1つ上の学年の佐助とはどうしても会える機会が減ってしまうため、こうして三人で顔を合わせられる日常の穏やかさに、感動を覚えずにはいられない。
「なぁにしんみりしてんの?旦那」
てっきり自分に話しかけられたと思った佐助の言葉は幸村に向けられていた。
朱音が顔を上げると、正に我に返ったように瞬きをしている幸村と目が合った。
「……いや、何事も無い。少し呆けてしまっていた」
「大丈夫ですか?体調が優れませんか、」
「そういう訳ではないのだが……、こう、胸に……落ち着かぬような感覚が……」
上手く言語化できないようで、幸村は首を捻る。胸に手を当てているが物理的に痛むという訳ではないようだ。
「まぁ〜、一応慰労会だからね。三年間の思い出とかに浸ってんじゃない?無意識に」
「…………そう、かもしれぬな、うむ。すまぬ、折角の花火に水を差してしまったか」
「いーや、使い終わった花火はちゃんと水に突っ込んどかないとね。おっと、これで最後だよ」
「もう、ですか……」
「あ、朱音もしょんぼりしだした」
「い、いかん!こんな辛気臭くては!ならば最後はコレで勝負いたそうぞ!」
仕切り直すべく、最後に残っていた線香花火を幸村が大きく掲げた。
花火の中でも最も小さな部類に入るが、如何に手元を揺らさず、長く火玉を保てるか……花火会を締めるにあたって定番の勝負だ。
足元の蝋燭に三人同時に火を灯すと、素早く手元に引き戻した。
(幸村……3年間続けてきた部活が終わってしまって、少し寂しい思いもあるのかな?)
真剣に小さな火玉を見つめる幸村の様子を朱音はさり気なく窺う。本人も言っていたように具合が悪い訳ではなさそうだが、確かに普段より少々覇気が感じられない気がした。
それが部活動を最後までやり遂げた寂しさ……所謂『燃え尽き』から来るものなら、少し気を逸らしてあげたいと思った。
気を逸らすといえば、やはりいたずらに限る。
すっと隣に目をやると、佐助もそこそこ真剣に線香花火を見守っている所だった。
佐助になら、いたずらしても本気で怒らないだろうと、妙な信頼を寄せる朱音は、腰を下ろしたまま静かに一歩踏み込んだ。
(でも本当にお邪魔するのは申し訳ないから……)
フゥ〜〜〜っ、と。
佐助の手元の火玉を狙って朱音が吹く仕草だけした。
わざと大袈裟に、少しぼんやりしている幸村にも気づいてもらえるように、ほんの賑やかしを朱音は仕掛けた。
対して実に中途半端ないたずらを仕掛けられた佐助は、一瞬の思考の後、迷わず朱音の線香花火を吹き飛ばした。朱音の火花は呆気なく落下した。
数瞬 目を瞬かせてから、容赦なく佐助にやり返されたのだと朱音は理解した。
「な、なぁーっ!ほんとに吹く人がいますか!?」
「え〜?先にやってきたの朱音だろ?」
「わたしのは吹くフリです!なのに…!こんなの反則です!ばか、おばか!この…!」
「はいその先は禁句ね〜」
ぺし、と朱音の唇を指先で塞いだ佐助は、その実 満更でも無さそうに微笑んでいる。
…………そんな普段通りの二人のやり取りは、やはり見覚えがあって。五感が遠くなるような心地と共に、永く眠っていた あの『記憶』が。
火花、火、炎。
火薬の香り、爆ぜる火薬の匂い。焦げ付く痛み。
目を眩ませる、真っ黒な炎と、朱い雷。
二人がいる。二人がいた。
二人に、護られた。
「………………」
ぽた。ぽたりと。
静かに涙を零す幸村の手がゆっくりと、朱音と佐助の頬に添えられた。
「そなたら……、」
その声色で、先に『記憶』を持つ二人が悟るには十分だった。
急激に場に緊張感が走り、二人はすぐさま幸村に寄り添い、肩を支えた。
「旦那、まさか……!」
「大丈夫ですか、幸村…!」
「………………そうか……、そうか……。そういう事だったのだな、」
涙を止めぬまま笑顔を浮かべ、幸村は二人の背中に静かに腕を回し、引き寄せると深く顔を埋めた。
「情けないな……そなたらより、俺は、ずっとずっと…………………、涙が、止まらぬ……っ、」
「また、会えてよかった、佐助、朱音……!」