遺された時間
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(本編後日談)
「な、なぁーっ!ほんとに吹く人がいますか!?」
「え〜?先にやってきたの朱音だろ?」
「わたしのは吹くフリです!なのに…!こんなの反則です!ばか、おばか!この…!」
「はいその先は禁句ね〜」
ぺし、と朱音の唇を指先で塞いだ佐助は、その実 満更でも無さそうに微笑んでいる。
片や不満を顕にする朱音は頭を振って手を振り払うと素早く反対側を向いた。
「見てましたよね!?幸村からも言って……、え?」
感情のままに声を荒らげていた朱音はハッとした。
ぽた。ぽたりと。
手元の小さな火もとうに落ちていた。それに気づいていないかのように茫然としていて。
静かに涙を零す幸村の手がゆっくりと、朱音と佐助の頬に添えられた。
「そなたら……、」
その声色で、悟るには十分だった。
緊張感に包まれた二人はすぐさま幸村に寄り添い、肩を支えた。
「旦那、まさか……!」
「大丈夫ですか、幸村…!」
「………………そうか、そうか……。そういう事だったのだな、」
涙を止めぬまま笑顔を浮かべ、幸村は二人の背中に静かに腕を回した。
まるであの日と同じだ。去年の学園祭。その後夜祭で……。
あの時の涙の意味をここで正しく理解する。
訳が分からないままは、ここでおしまい。
感情はあの時以上にひどく喚いているが、それに身を委ねるのでは無く。
幸村は目を閉じて、この幸福をゆっくりと噛み締めた。
***
夏の終わりに向かう。
高校生活最後である部活動の大会を終えた。
幸村の所属するサッカー部は全国大会まで出場し、輝かしい成績を残した。
数々の熱戦を繰り広げた部員達を労うべく、本日はサッカー部顧問であるお館様のお屋敷で打ち上げ会が開かれた。
最終戦まで応援に出向いたOBの佐助と、某OBによる『特権』行使により招待された朱音もいる。
記憶の中と違わず、大きな屋敷を構えるお館様のお家は現役サッカー部員全てを招いても余りある広大さだ。
お盆期間で、帰省等予定の被らない有志参加との事だが、大半の生徒が集まっている。
涼しくなった夕方に会は始まり、お館様謹製のかき氷や焼きとうもろこし、冷やしキュウリにチョコバナナ……さながら小さな夏祭りで、様々な風物詩を味わっている内に陽は沈んでいく。
夕食を兼ねた会であり、遠方から通う部員は遅くなる前にそれぞれのタイミングで抜けられるが、ここは学園とも比較的近い場所であるため朱音達はお開きまで滞在できる。
完全に日が落ちると、お館様はこの日の為に買い込んでいたという花火セットを持ち出した。部員が全員揃っていても使い切れない程の量が登場し、思わず皆が感嘆した。
「お、来た来た。こっちだよ、朱音」
朱音が庭に戻ってきた頃には既に花火会は始まっており、あちこちで火花が吹き出す音と賑わう声が上がっていた。
佐助に呼ばれた朱音は、足元がもつれないように気をつけながらひかりと手を繋いで花火の場に加わった。
「花火、花火!わたしも欲しいですっ」
「その前に朱音様。まずはお召し物を皆様に見せて差し上げませんと」
花火はまだまだ沢山あるにも関わらず、浮き足立って取りに行こうとする朱音を、ひかりが微笑みながら諌める。
「そうじゃな。はしゃいで着崩す前に儂らによう見せてくれ」
「お館様!そんな、はしゃぐなんて…!」
「花火をキラキラした瞳でご覧になっておりましたものね」
「み、み、見ておりませんっ」
ひかり相手では余計に幼い振る舞いになってしまうようで、朱音は落ち着きなく否定している。ぶんぶん首を振る姿は本物の幼子のように全力で、佐助は噴き出してしまった。
「へぇ〜、金魚……お魚柄なんだ。手で掴めそうなくらい大っきく描かれてたら良かったのにねぇ」
「さ、さすけ!またそういう事を…!」
『記憶喪失』であったあの頃。好奇心旺盛すぎるあまり池の鯉を素手で掴みあげ、胴着を水浸しにしてひかりを驚かせた事があった。きっとそれを暗に指摘しているのだ。
あからさまにあからさまな言い方をしてくる恋人に朱音は詰め寄ろうとしたが、久しぶりに履いた草履で足がつんのめってしまった。
転ぶ前に支えてくれたひかりにお礼を述べると、ギッと佐助を睨んだ。
「うんうん、かわいいかわいい、真っ赤な顔でも似合ってるぜ〜」
「誠意がこもっていません!せっかくひかりからお借りした浴衣なのに!」
朱音を宥めるように頭を撫でるひかりは、いつの間にやら懐から端末を取り出し、写真を撮るチャンスを窺っているようだ。もしくは『いつまでも絡んでないで はやく私の朱音様の浴衣姿を撮影させろ』という佐助への無言の意思表示かもしれない。
何か言いたそうに笑顔を保つひかりに気付いた佐助は、苦笑いと共に大人しく朱音をからかうのを止めた。
「な、なぁーっ!ほんとに吹く人がいますか!?」
「え〜?先にやってきたの朱音だろ?」
「わたしのは吹くフリです!なのに…!こんなの反則です!ばか、おばか!この…!」
「はいその先は禁句ね〜」
ぺし、と朱音の唇を指先で塞いだ佐助は、その実 満更でも無さそうに微笑んでいる。
片や不満を顕にする朱音は頭を振って手を振り払うと素早く反対側を向いた。
「見てましたよね!?幸村からも言って……、え?」
感情のままに声を荒らげていた朱音はハッとした。
ぽた。ぽたりと。
手元の小さな火もとうに落ちていた。それに気づいていないかのように茫然としていて。
静かに涙を零す幸村の手がゆっくりと、朱音と佐助の頬に添えられた。
「そなたら……、」
その声色で、悟るには十分だった。
緊張感に包まれた二人はすぐさま幸村に寄り添い、肩を支えた。
「旦那、まさか……!」
「大丈夫ですか、幸村…!」
「………………そうか、そうか……。そういう事だったのだな、」
涙を止めぬまま笑顔を浮かべ、幸村は二人の背中に静かに腕を回した。
まるであの日と同じだ。去年の学園祭。その後夜祭で……。
あの時の涙の意味をここで正しく理解する。
訳が分からないままは、ここでおしまい。
感情はあの時以上にひどく喚いているが、それに身を委ねるのでは無く。
幸村は目を閉じて、この幸福をゆっくりと噛み締めた。
***
夏の終わりに向かう。
高校生活最後である部活動の大会を終えた。
幸村の所属するサッカー部は全国大会まで出場し、輝かしい成績を残した。
数々の熱戦を繰り広げた部員達を労うべく、本日はサッカー部顧問であるお館様のお屋敷で打ち上げ会が開かれた。
最終戦まで応援に出向いたOBの佐助と、某OBによる『特権』行使により招待された朱音もいる。
記憶の中と違わず、大きな屋敷を構えるお館様のお家は現役サッカー部員全てを招いても余りある広大さだ。
お盆期間で、帰省等予定の被らない有志参加との事だが、大半の生徒が集まっている。
涼しくなった夕方に会は始まり、お館様謹製のかき氷や焼きとうもろこし、冷やしキュウリにチョコバナナ……さながら小さな夏祭りで、様々な風物詩を味わっている内に陽は沈んでいく。
夕食を兼ねた会であり、遠方から通う部員は遅くなる前にそれぞれのタイミングで抜けられるが、ここは学園とも比較的近い場所であるため朱音達はお開きまで滞在できる。
完全に日が落ちると、お館様はこの日の為に買い込んでいたという花火セットを持ち出した。部員が全員揃っていても使い切れない程の量が登場し、思わず皆が感嘆した。
「お、来た来た。こっちだよ、朱音」
朱音が庭に戻ってきた頃には既に花火会は始まっており、あちこちで火花が吹き出す音と賑わう声が上がっていた。
佐助に呼ばれた朱音は、足元がもつれないように気をつけながらひかりと手を繋いで花火の場に加わった。
「花火、花火!わたしも欲しいですっ」
「その前に朱音様。まずはお召し物を皆様に見せて差し上げませんと」
花火はまだまだ沢山あるにも関わらず、浮き足立って取りに行こうとする朱音を、ひかりが微笑みながら諌める。
「そうじゃな。はしゃいで着崩す前に儂らによう見せてくれ」
「お館様!そんな、はしゃぐなんて…!」
「花火をキラキラした瞳でご覧になっておりましたものね」
「み、み、見ておりませんっ」
ひかり相手では余計に幼い振る舞いになってしまうようで、朱音は落ち着きなく否定している。ぶんぶん首を振る姿は本物の幼子のように全力で、佐助は噴き出してしまった。
「へぇ〜、金魚……お魚柄なんだ。手で掴めそうなくらい大っきく描かれてたら良かったのにねぇ」
「さ、さすけ!またそういう事を…!」
『記憶喪失』であったあの頃。好奇心旺盛すぎるあまり池の鯉を素手で掴みあげ、胴着を水浸しにしてひかりを驚かせた事があった。きっとそれを暗に指摘しているのだ。
あからさまにあからさまな言い方をしてくる恋人に朱音は詰め寄ろうとしたが、久しぶりに履いた草履で足がつんのめってしまった。
転ぶ前に支えてくれたひかりにお礼を述べると、ギッと佐助を睨んだ。
「うんうん、かわいいかわいい、真っ赤な顔でも似合ってるぜ〜」
「誠意がこもっていません!せっかくひかりからお借りした浴衣なのに!」
朱音を宥めるように頭を撫でるひかりは、いつの間にやら懐から端末を取り出し、写真を撮るチャンスを窺っているようだ。もしくは『いつまでも絡んでないで はやく私の朱音様の浴衣姿を撮影させろ』という佐助への無言の意思表示かもしれない。
何か言いたそうに笑顔を保つひかりに気付いた佐助は、苦笑いと共に大人しく朱音をからかうのを止めた。