トザワ
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臓物ごと大きく裂かれ、今にも ちぎれそうな身体。
血で満ちた岸辺を歩いてきたかのような佇まい。
地獄と業を識る目。
それが死に面した生命の記憶。
老人はそう感じ取った。
けれど不思議と、おぞましさよりも精錬さに惹き付けられた。
木の葉が嵐のように飛び交うなか、記憶を取り戻した少女と向き合う。
直前までの朗らかな様子は霧散し、油断なく研ぎ澄まされた気配を纏っている。
この少女より遥かに長生きし、経験を積んだはずの老人の内心に緊張が走る。
それ程に少女の魂の劈きが猛風の如く語りかけてくる。
「さては恋人か?」
それでいて、言葉に返された笑みはあまりにも年相応で純粋だった。
なんともチグハグな印象。けれど矛盾はしていない。
死線を超えた魂が、別の時空、それとも転生先か、どこかの自分自身の身体を呼び寄せた。友愛以上の想いを感じて、冗談めかした問いには肯定が返ってきた。
しかし恋仲というには少年は幼すぎる。それに少女の想う視線は、少年を映しながらもその遥か先を見つめているようだった。その予想は当たり、話を聞くにこの少年が大きくなった時代に『本来』の少女と出会ったと言う。
「……忍として、彼を育てるおつもりですか?」
時を何重にも跨いだ魂。老人にだけずっと見えていた少女の仄かな光は最早消えてしまいそうなほど、弱く霞んでいる。
もし今のタイミングで老人が声を掛けて誘導していなければ、このまま力尽きていたかもしれない。
修羅を知り死して尚、護りたい一心で逢いに来た少女。
自らの危険も顧みず、その為だけにきっと全てを賭けて来た。
『恋人』と肯定したが、その想いを恋慕と表するには響きが軽すぎると老人は圧倒される。
隣にいたい、共に過ごしたい、満たされたいといった欲以上に、何より少年を護り生かす事に重きを置く。親のようでもあり、親以上に自己犠牲的だ。
少年の死兆は熱が下がって行くと共に薄れていき、今はもう見えない。つまり彼女は護り通し、役目を終えた。
恨みや後悔などではなく、清らかな執着だけが残り、いちばんの望みを叶えた。
(このお嬢さんの本来の性格が垣間見えるな)
だからこそ。
老人も問に肯定を返した。
少女は憂いの表情を浮かべたが、納得したように、安心したように瞳を伏せた。
最後に老人に真っ直ぐ向き直ると、指先まで真っ直ぐ姿勢を伸ばし、深く深く頭を下げた。
「どうか……どうか、あの人を、よろしくお願いいたします」
そして時は進み始める。
出会いに、触れ合い。時には諍いを繰り返し、やがて想いを交わす。
その縁は確かに繋がれた。
少女を見届けた老忍は木枯らしの中に佇む少年の前で膝を折った。きっとこれが己の余生を費やすに値する役目なのだと、涙で震わせる小さな肩にそっと手を伸ばした。
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