体育祭
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「佐助」
「あれ、なんでこんな時間に?」
発車して間もなく。ガタン、ガタンと揺れる車内で腰掛けていると、隣の両から見慣れた姿が現れた。
この時代では幼馴染として育った幸村だ。朱音と同じく、指定ジャージ姿のままで近づいてきて、自然と佐助の隣に腕を組んで座った。
生徒会役員や体育祭実行委員でもなければここまで遅い時間に電車に乗ることはないはずだが...、と疑問そうな視線に幸村は至って真面目な顔で答えた。
「要らぬ追求を免れる為だ。俺と話しておれば外野に話しかけられる事もあるまい」
「...なるほど?」
確かに、少数とはいえ婆娑羅学園の生徒もこの電車に乗っている。
佐助は既に私服に着替えているが、ちょっと特徴的なヘアバンドと顔のペイントで顔を覚えられてしまっている可能性は有り得る。
馴染みの騒がしい面子は他におらず、幸村が意地でも先に帰しておいてくれたのかもしれない。
サプライズ登場を見守っていた時から一人だけ、妙に真剣な雰囲気を纏っていた幸村は今もその調子が続いているようだ。
「朱音殿は大丈夫であったか?」
「うん、今回は泣いたり、倒れたりもしてなかったよ」
「それならば良い」
安心して息を吐いた幸村を佐助は見遣る。
じーっと観察するが、幸村のその冷静さは維持されている。
「朱音とダンスしたよ」
「うむ。見ておった」
「帰りも手を繋ぎながら駅まで一緒に来たぜ」
「良かったな」
「.........言わないの?」
「何をだ?」
「破廉恥極まりない〜!とか」
スンと構えていた幸村自身も、漸く疑問そうに首を捻った。
無自覚の思いに影響を受けているのは先刻承知しているが、それにしても反応が『らしく』なさすぎる。一体どんな捉え方をしているのか佐助は気になった。無論、不用意に刺激しないようにしながらだ。
「朱音相手に旦那が照れたりしないのは知ってるけどさ、今日のはけっこ〜恋愛的な意味で責めてたと俺様思うんだけども」
目の前でハグしたり、身体を寄せ合って踊っていたわけだし。
ただの日常的なやり取りではない。恋愛感情による数々の行動、接触を目にしておきながらも、ちっとも狼狽えなかったように見えた。
「どちらかと言うと、俺は心配していたな。出会い頭は大喧嘩に発展せぬかと……。そもそもお前達は若いのだから、理詰めなどせずお前が一番に想いを直に伝えておれば、あれほど時間は掛からなかったのではないか?」
「えぇ〜...?なんか...お館様っぽい視点っていうか、ちょっと風来坊みのあるごり押し系っぽいっていうか...」
「前田殿と一緒にされるのは心外だな。お前達を見ていたからこその意見のつもりだ」
ていうか、ちゃんと説明はしないと怒ると思うからあの子。と佐助が弁明すると、幸村は気にした様子もなく、そうかと頷いた。
「あ。見ないと思ったら、旦那はそこに付けてたんだ」
「うむ。手に何か付けるのは慣れなくてな」
ふと目に入った幸村のエナメルバッグに、赤色のシリコンバンドがカラビナ金具と共に付いていた。黒地のエナメルに大胆に描かれた炎の模様とよく馴染んでいる。
「ともあれ結果往来。上手くいって良かったな」
「そうさね。昨日急に連絡来た時はびっくりしたけど、行けて良かったよ」
「ああ。朱音殿、相当参った様子であったからな。お前の顔を見るのが一番だったのだろう」
「そうだといいけどね。あ、明日さ、二人で打ち上げみたいなのしに行こうと思うんだけど、旦那も来ない?」
「何故この流れで俺を誘う。どう考えても邪魔になるだろう」
「まあまあ聞いてよ。こないだショッピングモールのカフェのメニューが気になるね〜って話しててさ。ほら、この6月限定の『てるてる大福パフェ』ってやつ」
言うが早く、佐助の端末で画像を見せると、甘党なら思わず唾を飲み込んでしまうほどの豪華かつ愛嬌のあるパフェに幸村は釘付けになった。
一瞬後に我に返ると、首を振りながら常識的な反論をする。
「い、いやしかし!そなたらの逢瀬なのだから俺は!」
「これね〜、写真映えの為に敢えて大盛り仕様で2、3人で食べる前提なんだって。旦那と3人でなら食べきれそうだねって話しててさ。ほい、許可も出たぜ」
画像を見せた数秒後に通知が入り、朱音からの『ぜひ幸村も呼んでください!』というメッセージが幸村の目にも入った。
一人で帰り道を歩く朱音が寂しくならないよう、電車に乗り込んですぐ連絡を取っていたようだ。
「妙な関係でござるな、お前達……否、俺達か…」
事ある度にそう言ってくる政宗の気持ちに漸く幸村も共感出来た。
目の前の佐助までも屈託無く笑うものだから、今まで培ってきた価値観に自信がなくなりそうになる。
ハッキリと形容出来ないが、二人が『特別』である事は幸村にとっても同じだ。幼い頃から隣に居た佐助と、去年再会しクラスメイトになった朱音と三人で過ごす時間は、何がある訳でもないのに自然と心が安らいでいる。
「一緒においでよ。俺様達だけじゃ食べきれねぇかもだし、来週から今回の事でまた悶えそうな朱音を元気付けときたいしさ」
「……そういう事なら。三人で割り勘定ならお前の財布にも優しかろう」
「げ、そういえばあんま金無いんだったぁ…」
そろそろ向こうで稼ぎのいいバイト探さなきゃと、佐助は肩を落とす。家賃と学費の仕送りは受けているが、物要りの思春期男児のお財布事情は中々に厳しいようだ。
ショッピングモールまでのアクセスを調べたり詳細を相談している間に、電車が二人の最寄り駅に停まった。
「明日もよろしくね。朱音には俺様から伝えとくよ」
「ああ、楽しみにしている!」
様々な予定に追われる学生達は、明日に備えるべく、疲労をものともしない足取りで帰路に着いた。
学生らしくも、その価値を知る者として、贅沢かつ貴重なモラトリアムを享受していく。
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