体育祭
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「こんな遅い時間になってしまって、下宿先まで帰れますか?」
「大丈夫。明日日曜だし、今日は実家に泊まるから」
昼間は大学の用事もあったから流石に疲れた〜、と笑いながら隣を歩く佐助に朱音は罪悪感を抱く。
「申し訳ありませんでした、」
「連絡くれなかった事?」
「わざわざ学園に出向いていただいた事です!遠方の大学に通っているのにこんな事で、…って痛ったぁ!」
ピコン、と弾かれた額を抑えながら蹲った朱音は佐助を見遣る。指を引っ込めながら佐助は呆れた様子で話す。
「変な気遣いしないの。折角すぐに連絡取れるんだから」
「………下手に話すと、自分がへたってしまいそうだったので。今日が終わってから相談するつもりでした」
「やっぱりクソ真面目」
またしても特異な結果となったが、後夜祭も無事終えた。当日内の片付けを朱音が終えるまで学園の外で待ってくれていた佐助を最寄駅まで送るべく二人で歩いている。大半の生徒は生徒会役員より先に学園を出ているため、周りに生徒や通行人は殆どおらず、あんなに賑やかだった時間が今は嘘のように静かだ。
体操服は慶次の予備(いつもの置き用具)を借りていたようで、佐助は既に私服に戻っていた。
「でも朱音と踊れて良かった。って言ったら怒る?」
「そ、それはわたしだって!一緒に通えたの半年だけでしたし…」
「あれ?さっきまで散々『近い近い〜破廉恥ぃ!』って怒ってたのに?」
「人前だからです!それに目立ちすぎるとあなたが現役生徒じゃないとバレてしまうし…!」
噂になっていたという朱音は、やはり佐助視点でもフォークダンス中は必要以上に生徒達の視線を受けていたし、卒業生の顔に見覚えがあった生徒や教師もいたはずだが、誰にも咎められる事はなかった。
様々な事情を、文字通り目を瞑ってくれていたのだろう。
まだ動揺や混乱が続いているようで、多くの人間から黙認されていた事に朱音は気づいていないようだ。明日にでもなればまた学祭後のように暫く悶えるだろうなぁと、佐助は苦笑する。
「さっきは皆が居たから言えませんでしたけど......、来てくれて嬉しかったです。お揃いのも...嬉しい、」
顔を背けながら告げた言葉。手を繋ぎながら歩くそれぞれ手首には色違いのリストバンドが、微かな街灯の光に照らされている。
「ありがとう、さすけ。本当に、...ありがとう...」
声を震わせながらも飾らぬ想いが音になる。恥ずかしさよりも伝えたい思いが勝ったがゆえだ。中々佐助の顔は見られないが、代わりに握る手に力を篭める。
「そんなに俺様が好きなんだ?」
こちらを向かない頭をポンポン撫でる佐助の声色はとても優しい。落ち着きない雰囲気だが、佐助が隣にいるのを喜ぶ気持ちは十分に伝わってくる。
「.........すき、ですもの」
じんわりと足が止まった。
目線の少し先に白い光と改札口が見える。駅に着いてしまった。時間帯を確認するとそろそろ佐助の家の方向へ行く電車が来るようだ。
暗闇を晴らす電灯を前にし、朱音の表情は少し曇った。
「あっという間だね」
朱音の思いも汲んでか、佐助も少し憂うような言い方をした。
あからさまに別れを渋る様子の朱音を面白がりつつも、置いていくようで申し訳ない気持ちになる。
「明日、昼間空いてるから会おうぜ」
「うん......」
「そんな寂しそうにしないの。帰りたくなくなるだろ」
「それは駄目です。あなたも今は未成年。遅くなる前に帰りませんと」
冗談とはわかっていても、途端に感情をよそに規律に従順になる恋人。それでこそクソ真面目だ。
繋いだ手を離しながら、朱音は佐助の背中に手を添えた。
「わたしがごねる前に行ってください。...また明日、」
「はいはい。おやすみ、」
背中の手が緩やかに離れる代わりに、佐助は朱音の頬を優しく撫でた。これくらいならば人目や公共の場に煩い彼女も許してくれる事だろう。
カシャン、と手元から音を立てて佐助は改札をくぐった。車窓から手を振っていると、発車ベルが鳴って電車が動き出した。
車両の姿が見えなくなるまで、朱音はやっぱり少し寂しい思いを抱きながら見送った。