体育祭
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「ってご本人が言ってるけど?」
チラッと顔を向けた佐助に、二人を囲む面々が矢継ぎ早に喋り出す。
「そんなのだめだよ〜!」
「当然NOだな」
「それじゃ意味ねぇじゃねぇか。なぁ家康?」
「そうだな。そもそも下級生達の誤解を解くために猿飛を呼んだんだろう?」
『ギュルルルン……』
この流れはまずい、と朱音は予感する。
このままでは間違いなく佐助と共にグラウンドに行き、流されるままにダンスを踊る未来が見える。一緒に在学したのは半年だけ。在学中には叶わないイベントを夢想した事はあれど、こんな状況で実現するとは。心の準備や噂を真に受けてる一般生徒からの視線等々……落ち着いて考える余裕がまるでない。
「朱音殿」
この場の浮ついた雰囲気にそぐわぬ、冷静な声。皆と共に様子を見守っていた幸村のものだ。
他の生徒とは異なり真剣な、けれども柔らかな眼差しで朱音と佐助を見つめている。
「行かれよ。そなたらの真の望みを果たしてくれ」
「………幸村、」
「旦那にそう言われちまうとね…」
朱音だけでなく、佐助まで神妙な顔付きにならざるを得ない。
幸村に明確な記憶はなかれど、きっと魂に刻まれている想いが、朱音の羞恥心や葛藤、しがらみを優しく焼き切ってしまう。
やっと肩の力を抜いた朱音は大人しく佐助の身体に寄り添った。
「幸村が……そうおっしゃる、なら、」
「うむ。そなたの心の思うままに、でござる」
「相変わらず謎だよな、アンタら」
「さあさあ、今はそんな事より!準備が出来たのなら行きましょ!」
「ヒュ〜っ!また面白い事になりそうだねぇ!出発っ!!」
「あ、あくまでこっそりとです!目立たないようにしたいんです!」
「状況的にそれは無理じゃねぇか?」
「噂の要がお前自身だからな」
わいわいと移動し始めた面々に朱音は抗議するが、元親とかすがに真面目に否定されてしまった。蔓延する噂の白熱ぶりを知った上での発言は的を射ている。
「まぁまぁ、なるようになれってね」
取った手をすぐに恋人繋ぎにすると、軽い足取りで進み出す佐助。繋いだ右手に触れた覚えのある感覚に朱音は視線を向けた。
「さすけ、それ…」
「ああ、やっぱ2個とも譲っちゃうと手元が寂しくてね〜。やっと見つけたのよ、ピッタリな色」
触れた佐助の左手首には新しいシリコンバンドがついていた。緑ではなく、赤に似ているけど少し違う…。
「朱色。朱音の色」
「………」
「照れてる?」
「な、何も!何も無いです!」
心地の良い思いが胸をぞわぞわと擽っていく。どうしようもなく嬉しくて、お礼を言いたくて、抱き着きたいくらいだ。けれど状況的にそうする訳にはいかず、激しめに首を振って気を散らすしかなかった。
照れ屋な性分も承知している佐助は朱音の感情を察してくれているはずだ。けれど、これはきちんと自ら言葉で伝えねばならない。すぐにそれが出来ない代わりに朱音は佐助の手をきゅ、と強く握り直した。
***
グラウンドの中心にある、夜を照らす炎は人々のシルエットを穏やかに浮かび上がらせ、体育祭に参加した生徒達を労うかのようだ。
スピーカーから流れるムーディな曲に合わせ、時間さえもゆったりと流れているような錯覚に陥る。
が、それどころではない人物が、声を極力抑えながら絶え間無く文句垂れていた。
「ち、近い!顔近いですっ!」
「気のせい気のせい〜」
周りと若干違う雰囲気と度々乱れる動きに、意図せず生徒達の視線を集めてしまっているのだが、当人…朱音だけは気づいていない。
「今日しかないんだから、ちゃ〜んと誤解は解いとかないとね?」
「普通に踊ってるだけで十分です!それに、わたしあまり上手くないんですから気を散らせないで!」
目の前で手一杯な朱音はわたわたしながら、ぎこちなく踊っている。言ったそばから佐助の足を踏みそうになって、寸でのところで回避した代わりに、やたら踏み込みの強いステップを披露していた。
諸々の理由でフォークダンスでも非常に注目を集めてしまっている婆娑羅学園生徒会副会長。噂に踊らされていた下級生達は朱音の『ガチ恋』の反応と、そのお相手の見慣れなさに目を丸くしている。
あんな人いたっけ?誰か知ってる?なんて言葉がヒソヒソ飛び交う中、黙認者の半兵衛は気にせず三成や生徒会役員の男子達と踊っている。
「僕だって秀吉を呼びたかったよ……これで借りは全部返済だ」
「は、半兵衛様!また具合が優れませんか!?」
「いや、大丈夫だ。体調不良じゃないんだよ、この眉間の皺はね」
本音はこういうイベントは仮病でも使って休みたかったが、今回の事態を考慮し、形だけでも参加している半兵衛は、視界に入れなくとも騒がしい件の人物周りに意識を向ける。
卒業生の恋人をこっそり輪に混ぜて、誤った噂を塗り潰す。あの慶次の提案に乗る事で、半兵衛なりに最善の解決の場を提供した。
後は当人ら次第だが、そんな心配はするまでもないようだ。
普段の数倍……流石にあの学園祭程ではないが、幼く感じられる感情の表出。あれが朱音の素なのだろう。
生徒会業務中、如何に気を張っているのかがわかる。だが自分でやるといって就任したからには副会長として粛々と務めるのは当然である。秀吉が推薦したのだから、今後も彼の名誉を傷つけるような真似は決して許さないと、半兵衛は鼻を鳴らした。
「半兵衛様、そのような憂いた表情を…!左近ッ!今すぐ水分をお持ちしろッ!」
「え?え?俺、今からこの娘と踊ろうと……」
「詭弁は許さない!」
「ヒ、ヒィィィ!はい、ただいまァっ!!」