体育祭
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由縁あって急病人の対応経験に富んでいる為、今回も『いつものように』助ける事が出来たわけだが。
炎天下で倒れた生徒会長を自力で抱えて保健室へ疾走した副会長の噂は、あらぬ尾ヒレをつけて瞬く間に広がってしまった。
なんでも『周囲の男子生徒に頼らず、自分で連れて行ってしまうほど心配してた』とか何とか。
それと新学期から度々務めてきた、主に下級生相手に生徒会長様宛ての恋心のお断り業務に協力していた善意がここで災いした。
『生徒会長が誰の告白も受け付けなかったのは、もう副会長と付き合っていたから』
『副会長が会長に代って断りに出向いていたのもつまりそういう事』
『でもお似合いだから仕方がない』
一晩で膨れ上がった噂の概要はこんな次第。
だが三文目だけは朱音は何としても受け入れ難い。
ただでさえ生徒会役員は人前に立つことが多い。本番目前の準備期間ともなれば生徒の目につかない場所で出来る事もなく、結局絶え間なく向けられる視線を気にしていない風にやり過ごすしかないのだ。
今朝登校した瞬間から、面識の薄い者達から囃し立てられたり、祝いの言葉を言われたり、謝られたり……身に覚えのないリアクションに囲われ朱音は事態を知った。一方で前生徒会長の秀吉とは違うタイプの威厳を纏う半兵衛には、ほぼ誰も寄り付かなかったようで何だか不満を覚えた。
半兵衛が倒れた翌日に登校出来るほど持ち直せたのは僥倖だが、不測の事態に気遣いの言葉を掛ける余裕など今の朱音は持ち合わせていない。
新体制になったばかりの頃、同様の勘違いをした経験のある左近は、今回の噂に朱音が本気で腹を立てている事を十分に承知している。
左近はじめ、生徒会役員の周りにも噂の真偽を確かめようと話しかけにくる生徒も多かった。各々で否定しているはずだが、一向に噂の勢いが衰えないのは当日のとあるプログラムのせいだろう。
思春期御用達イベントこと、後夜祭『キャンプファイヤー&フォークダンス』
恋愛ジンクスの尽きない学園に今回も見事に乗っかる若い生徒達。いくら本人や人となりを知る人物が否定しようと『とか何とか言っちゃって当日は一緒に踊るんでしょ〜?』的な空気が漂っているのである。
無垢なる学生に嫌悪感を向けたところで。無辜なる民に私怨を向けるなど。
独特の感性に基づき精神を落ち着かせようとするが、その度に朱音の胸の奥が軋む。命の奪い合いの経験を持つというのに、たかが噂話にこうも乱される己を情けなく思う。
(さすけに会いたい。さすけに相談したい…話聞いてもらいたい…)
手首の餞別品に視線を落とす。
第二ボタンよろしく幸村と取り合いになった末、あみだくじで勝ち取った緑のシリコン製のリストバンドは、卒業まで佐助が常に身に着けていた二つの内の一つだ。
ごねたそうな幸村には、佐助がもう一つの赤色のバンドを譲り丸く収めた。
頻繁に会えない代わりのお守りとして、朱音は四月からずっと身に付けていた。こうして目に留まる証拠もあるため、本人含め昨年度を知る面々にとって今回の噂は意外だったのだ。
だがひそひそと盛り上がる黄色い声に振り回されていい立場ではないため自制に努める。それに大勢の前で取り乱した失態は去年経験済みだ。あれは二度と繰り返したくない。
それこそ己自身以上に、現生徒会長にちくちく言われるに違いない。
(逆に今、さすけに打ち明けたら…また派手に崩れるかもだし、)
頼みの綱はせめて体育祭が終わってからだ。明日までは辛抱に徹しよう。そう方針を固めて朱音は人知れずため息を吐いた。