トザワ
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■『こがらしの記憶』で主人公とちび佐助が出会った老人・トザワ視点の話。
天気の悪い日は運気も悪い。
人生の大概がそうだった。
他の人間にはなく、己だけにある特殊な感覚。それはここまで生き延びる為に役立ってきたし、そのせいで不必要に心身を疲弊させられた事もあった。
良いこともあれば悪いこともある。
しかしながら、感じていた……呼ばれていたにも関わらず無視をすると決まって厄介事に見舞われた。つまりは回避不可、というやつである。
「……めんどくせぇ〜」
壊れかけの傘を片手に寒さに背を丸めた老人が一人。
気怠げな言葉とは対称的に、土砂降り雨の中を迷いなく歩いていく。
「毎度ながらな〜んで真夜中ばっかかね。俺様みたいな優秀な忍じゃねぇとやってらんねぇよ」
少し前に引退した前職を思い出す。
血に塗れた仕事ばかりだったが、生き延びに生き延びてきた。仲間に散々掛け合って、諸々の誓約を交わして、漸く得た自由気ままな全国行脚。余暇を満喫したいところだが、この『声』との縁はどうにも死ぬまで切れそうにない。
『誰か、誰か…』
畦道も見辛くなるほど激しい雨粒を鬱陶しく思いながら、老人は今回の呼び声を辿って行く。
『どうか助けて。わたしだけじゃ、守りきれない…』
「………」
女の声。聞いた印象は年若い。必死に助けを求めているようだ。
(恨み辛みが一番じゃねぇとは珍しい。その割に声はハッキリと聞こえてきやがる)
声のした方……傍らの山沿いを見上げると、微かに微かに蒼白い光が見えた。
老人のいる位置からはまだ遠い。これまでの経験からしても、姿を確認できる距離でもないのに鮮明に声が届いた例はなかった。
ただの地縛霊ではないのかもしれない。
そんな予感を抱きながら老人は先へ進んだ。
蒼白い光が強まる方へ歩いていく。
不思議な事に老人が歩き続けるのと同じく、光もずっと移動していた。
幽霊も移動する事はあるが、ここまで広い範囲で動くのも老人の経験上ほぼなかった。
大概は悔いの残る場所に蹲るように留まっているからだ。
夜通し歩き続けた老人もやや疲労を感じてきた頃合い、朝日の気配と共に蒼白い光と会する事になった。
その正体は、布に包んだ幼子を懸命に抱えた少女だった。
だがその姿は妙だった。
幽霊の最たる特徴、蒼白い光に包まれているのは確かだが、身体が半透明ではなく生きている人間のように実態を持っていた。
抱えられている幼子は紛れもなく生きている普通の人間だ。霊体が生者を抱き上げられるはずがない。それとも幼子を拐って長い距離を移動出来る程、強い執着を持っているのだろうか。
『助けて……彼を死なせたくない。誰か、誰か…!』
目をこらせば互いの姿が見える距離まで来ているが、蒼白い光を纏う少女は老人に気づかないまま、幼子を抱え直してふらふらと立ち上がる。老人に聞こえてくる声は少女の物と思われるが、その口が動いている様子はない。
(ならば考えられるのは…)
霊と接する際に度々感じてきた、背筋が凍るような不快感はない。先例から外れる事の多い道着姿の少女に興味を持った老人は、息を吸うと大きく一歩を踏み出した。
天気の悪い日は運気も悪い。
人生の大概がそうだった。
他の人間にはなく、己だけにある特殊な感覚。それはここまで生き延びる為に役立ってきたし、そのせいで不必要に心身を疲弊させられた事もあった。
良いこともあれば悪いこともある。
しかしながら、感じていた……呼ばれていたにも関わらず無視をすると決まって厄介事に見舞われた。つまりは回避不可、というやつである。
「……めんどくせぇ〜」
壊れかけの傘を片手に寒さに背を丸めた老人が一人。
気怠げな言葉とは対称的に、土砂降り雨の中を迷いなく歩いていく。
「毎度ながらな〜んで真夜中ばっかかね。俺様みたいな優秀な忍じゃねぇとやってらんねぇよ」
少し前に引退した前職を思い出す。
血に塗れた仕事ばかりだったが、生き延びに生き延びてきた。仲間に散々掛け合って、諸々の誓約を交わして、漸く得た自由気ままな全国行脚。余暇を満喫したいところだが、この『声』との縁はどうにも死ぬまで切れそうにない。
『誰か、誰か…』
畦道も見辛くなるほど激しい雨粒を鬱陶しく思いながら、老人は今回の呼び声を辿って行く。
『どうか助けて。わたしだけじゃ、守りきれない…』
「………」
女の声。聞いた印象は年若い。必死に助けを求めているようだ。
(恨み辛みが一番じゃねぇとは珍しい。その割に声はハッキリと聞こえてきやがる)
声のした方……傍らの山沿いを見上げると、微かに微かに蒼白い光が見えた。
老人のいる位置からはまだ遠い。これまでの経験からしても、姿を確認できる距離でもないのに鮮明に声が届いた例はなかった。
ただの地縛霊ではないのかもしれない。
そんな予感を抱きながら老人は先へ進んだ。
蒼白い光が強まる方へ歩いていく。
不思議な事に老人が歩き続けるのと同じく、光もずっと移動していた。
幽霊も移動する事はあるが、ここまで広い範囲で動くのも老人の経験上ほぼなかった。
大概は悔いの残る場所に蹲るように留まっているからだ。
夜通し歩き続けた老人もやや疲労を感じてきた頃合い、朝日の気配と共に蒼白い光と会する事になった。
その正体は、布に包んだ幼子を懸命に抱えた少女だった。
だがその姿は妙だった。
幽霊の最たる特徴、蒼白い光に包まれているのは確かだが、身体が半透明ではなく生きている人間のように実態を持っていた。
抱えられている幼子は紛れもなく生きている普通の人間だ。霊体が生者を抱き上げられるはずがない。それとも幼子を拐って長い距離を移動出来る程、強い執着を持っているのだろうか。
『助けて……彼を死なせたくない。誰か、誰か…!』
目をこらせば互いの姿が見える距離まで来ているが、蒼白い光を纏う少女は老人に気づかないまま、幼子を抱え直してふらふらと立ち上がる。老人に聞こえてくる声は少女の物と思われるが、その口が動いている様子はない。
(ならば考えられるのは…)
霊と接する際に度々感じてきた、背筋が凍るような不快感はない。先例から外れる事の多い道着姿の少女に興味を持った老人は、息を吸うと大きく一歩を踏み出した。