トザワ
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生者と死者。どちらの気配も感じられる少女は少年に付きっきりで看病していた。
一日経って雨足は弱まってきたがまだまだ止む気配はなく、運良く借りられた納屋の中は湿っぽい。普段から風通しが悪いようで決して衛生的とは言えない空間だが、風雨を凌げるだけでもありがたいと、少女は老人に礼を述べた。
老人は少女に代わって、厚意で納屋を貸してくれた村人の元へ感謝を伝えに赴いた。
何となくこの少女はあまり他人に関わらせない方がいいと直感したためだ。そもそも普通の人間に少女が見えるのか、見えたとしてどう映るのか、それによって混乱でも生じたら余計なトラブルに発展しかねない。
浅い呼吸で眠る少年の傍にいてやるように言って、義理堅い少女が納屋から出さない名分を与えた老人は器用に立ち回るのを得意とする。
「備えあれば憂いなしってね」
村人へお礼代わりに手渡した丸薬は、忍の里謹製の栄養価の高い、云わば万能薬だ。
昨日早速飲んだら万年の痛みが和らいだと大層喜んでいた。この様子ならば少年が回復するまで無事借り続けることが出来そうだ。
それはさておき。好奇心が強い自覚はあるが、ここまでしてあの謎の少女と少年に尽くす義理はないはずだが……と老人は自らの顎に手をあてがう。
「な〜んか、ほっとけないんだよなぁ」
ほっといたら死んじゃいそうで。どっちも。
こんな理由ではただのお人好しではないかと老人は苦笑する。物心ついてから忍として生き、人の残忍さ、冷酷さ、利己的で欲深い面を散々見てきたというのに『ほっとけない』だけとは。
「おじいさま!」
納屋に戻ると、少女は一際明るい声を上げた。
老人が視線を奥へやると、高熱にうなされていた少年が目を覚まし上体を起こしていた。
「おっ、ちみっ子起きたのか」
「お陰様で…!ほらちびちゃん、この方がわたし達を助けてくださったのですよ」
「………」
朗らかな少女と対照的に幼い少年は明らかに警戒の眼差しを寄越していた。
老人が幾度となく目にしてきた、人に捨てられ苦労でもさせられた目つきをしている。
「大丈夫ですよ。とてもお優しい方です」
「……あっそ、」
ぶっきらぼうに答えながら少年は視線を老人から離さない。目を離した隙に危害を加えられると疑っているかのようだ。それでも傍らの少女の袖を掴んでいるのは、老人への恐れというよりは、彼女を傷つけられないよう守りたい意思が垣間見える。
「ちびちゃん、具合はどうですか?苦しかったり痛い所はありませんか?目、充血してますし、額もまだまだ熱いですね……、お腹空いていませんか?ひとまずお水を飲みましょうか。わたし取って来ま」
「おねーさん、だまってて」
「ではまた横になっておきますか?これだけ身体が熱いとまだまだ辛いでしょう?肌寒くはありませんか?まだお布団ありますからね」
「………ほんと、うるさ……、」
警戒心と負の感情を剥き出しにする少年に構わず、少女は世話を焼こうとするため張り詰めるはずの空気がぶち壊されている。
イライラしているようだが、少年の少女への思いはそれだけではないようだ。慣れない善意がむず痒い、といったところか。
「ニヤつくな、じいさんも」
「おっと失礼。よかったな、ちみっ子」
「何が。うざ」
***
少年が目を覚ましても、胴着姿の少女の心配は尽きないようで、延々の付きっきりとお喋りを展開していた。
直球の甲斐性に弱っている少年は根負けし、遂には何でもウン、ウン、と手短な肯定を以て最低限に会話を終わらせるのを繰り返していた。しかしそこへ老人が会話に混ざり、少女と二人で盛り上がるのは少々気に入らないらしく、低い声で渋々喋っていた。
よって静かになるのは二人が寝静まっている間だけ。
二人分の安らかな寝息を聴きながら、老人は雨音に紛れて近づく者がいないか念の為警戒していた。
(無償で護衛みたいな事までしちまってるなぁ…、俺様ってこんなだっけ?)
親子のように寄り添って眠る二人。母親というには少女は若すぎるため、それなら姉弟か。薄い布団が少年の身体から落ちないように手を添えながら眠っている。起きてる間は険しい顔つきばかりだった少年も、今は年相応に、どことなく少女に寄り添うように身体を傾けている。
微笑ましく老人は暫く見守っていたが、ある時異変に気づいた。
老人にだけ見える少女の身体の蒼白い光が一際強まったかと思えば、今度は姿ごと消える現象を繰り返していた。
いわゆる魂の乱れを感じ取った老人が慎重に少女を観察すると、呼吸の音がしなくなっている事に気づいた。
「……お嬢さん、お嬢さん」
起こさない程度にそっと肩に触れると、じんわりと蒼白い光は落ち着きを取り戻し、息をする仕草も戻ってきた。
傍らの少年と同じように眠っている姿に変わりはないが……。
(………お嬢さんに触れた瞬間、景色が見えた…。けど、ありゃ何だ?)
少女を介して見た光景が理解できず、老人は首を捻った。
それは少女と思わしき手が、筒らしき物を誰かに手渡す瞬間だった。
見た事の無い程の艶を纏った、精巧な円柱筒。
筒を受け取った相手は少女と同じような胴着……それに簡易的な甲冑を纏っていた。簡易的ではありながらも、動物の皮あるいはそれ以上に丈夫な素材で造られており、胴元の表面は磨かれた宝石ようにとても滑らかな曲線をしていた。
「……………」
老人にはどうにも馴染みのない光景。それだけは確信した。
善意と心配の塊の少女。少女自体は無害でも彼女を取り巻くもの達はどうにも老人の人生経験と結び付かない。
記憶や名前もわからないと言っていた。
まるで取り巻く何か達が少女の情報を塞いでいるかのようだ。