体育祭
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グランドの端で膝を抱えてぽつんと座り込んでいた。
ひょいと顔を覗き込むと今にも破裂させそうな不満に満ち満ちていた。
「その……朱音〜?」
控えめに声を掛けたが、彼女の掌に込められた力が返答だった。
あちゃ〜と、思わず慶次は額を押さえた。この様子では例の噂話に相当参っているのだろう。
以前はそういう類を気に留める様子はなかったはずだが、最近はそうでもないらしい。
一緒にご近所を探検していた頃…あるいはそれ以上に素直に不機嫌を露わにする慶次の幼馴染は、いつ泣き出してもおかしくないくらい気に病んでいた。
「参ったよねぇ、どうやったら皆誤解を解いてくれるかなぁ」
日陰に蹲る朱音の隣に座り込むと、植え込み越しに少しだけ涼しい風が感じられた。
休憩に適した場所である。差し入れのペットボトルの水は大人しく受け取ってくれた。
「俺なんかは事情知ってるから、聞いた時は有り得ねぇ〜!て笑ったけどさ。やっぱよく知らない人や下級生にとっては信じられちまうんだねぇ…」
返事をしないまま、ぎゅ、と朱音は手首のリストバンドを握りこんだ。
「いっその事、他の人に任せたらよかったのに。あの時、周りに生徒会の面子沢山いたんだろ?」
「………一刻を、争うと思ったんです。自分でやった方が早いかな、と」
「助けてやってくれてありがとな。けどお人好しが災いしちまった感じかぁ」
「………」
機嫌の悪い時の兄・忠朝の如く眉間に皺を寄せる朱音。口数まで減ってしまっているため、兄妹の良く似た面を目の当たりにできた慶次だが、今はそんな事に思考が逸れている場合ではない。
「う〜ん、俺も手伝いたいけど……どうすればいいんだろうな。躍起になって否定しても面白がられるかもしれないし、お忍び君は卒業しちまってるもんなぁ」
ふと、視線を感じて顔を上げると自分達と同じように体操服の女子生徒3人組が何やらこちらを意識して話している。
体操服の真新しさからして一年生のようだ。どこか楽しそうに興奮したように、噂話を楽しむかのように寄り添う姿に朱音は睨みつける事すらできず、重い溜息を吐いた。
「………そんなに、『お似合い』でしょうか」
「……らしいね?癖っ毛コンビでふわふわかわいい〜とか何とか言われてたような、」
「お揃いだとでも言うつもりですか!?この癖毛のもさもさはお館様リスペクトです!」
「え、そうなの?!」
「高い位置で結べばそっくりだって褒めて貰ったのですから!」
別の時代の話ではあるけれど、とは伏せておき。
怒りと共に立ち上がって、フン!と腕を組んでよく分からない拘り…おそらく自慢を宣う朱音の勢いに慶次はややついていけない。次いで立ち上がりなだめようとした所に別の人物がやって来た。
「センパ〜イ!資材担当の先生に確認取れたんで、そろそろ戻って来て続きを……、あ、あら〜…?」
近づいた事でセンパイの機嫌がすこぶる悪いことに気づいた、後輩こと左近の足取りがぎこちなくなっていく。
左近の目的を察した朱音は気持ちを切り替えるべく、生徒会の面々が集まるテントの方を見遣った。
「だ、大丈夫すか…?」
「大丈夫ですよ。ちゃんと今日までの準備は終わらせませんと」
「よろしくッス…」
「左近、朱音の事頼んだよ」
「も、もちろんッス!全力でフォローするっスよ!」
仕事は仕事。私情は私情。やるべき事はやる。
生真面目な性分の副会長は周囲に心配されつつも、残りわずかな準備期間に従事すべく歩き出した。