いつの時代も
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『どうかお気をつけて。またお会いした時に沢山お話いたしましょう。あなた様をよく知る者であるからこそ、あなた様の無事を誰よりお祈りしております』
泣く程喜んだのに、その思いを置き去りにしてしまった。
先に尽きた身は、残された者のその後を知る事は出来ない。やがて報せを受け取った彼女は……きっと、朱音が思う以上に悲しんだ。
選択と行動に後悔はない。けれど大切に思う全ての人を笑顔にさせる事は、あの時はどうしても出来なかった。それでも約束を果たしたい一心で、なりふり構わず生命を、どこまでも自分を想ってくれた手紙と共に燃やし尽くした。
全ての記憶を取り戻した日、2回の人生分泣き尽くした。
沢山の人へ、お礼も謝罪も、沢山したかった。
「実は……今日改札からあなた様の笑顔を見た途端、不思議と泣きそうになってしまったのです」
複数の学校が集まったサッカー部の合同練習は婆娑羅学園の完全勝利で終え、選手も観客も帰り支度をしている頃。
傾いた陽に照らされる朱音を見守っていたひかりがそう切り出した。
「笑顔を見せてくださったのが嬉しくて、駆け寄って抱き着いてくださったのが本当に嬉しくて……私自身にもよくわからないのですが、」
「ひかり……」
安易に記憶を想起させる事は言うべきではない。けれど幸村同様、ひかりも感覚的に名残はあるようで、まだ会って二回目のはずの朱音にそれを伝えたいと思うほど強い気持ちだったのだろう。
「わたしもです。またひかりにお会いできて、一緒に一日中隣で過ごせて嬉しかったです!」
「あらあら、身に余るお言葉ですわ」
無意識にも一歩踏み出した朱音に気づいたひかりが両手を広げてくれた。
衝動的にならないよう気をつけながら、朱音はひかりの元へ近づき腕を回した。
「ありがとう、ひかり。また……またお会いしたいです」
「勿論ですわ。明日も、明後日もお会いしたいくらいです」
「………わたしも。大好きです、ひかり」
*
「やっぱりこうなったね」
「す、すみません…」
「ううん。好きなだけお泣きなさんな」
幸村達にも改めて挨拶して、行きと同じく練習校の最寄り駅の改札をくぐった。
線路の側から最後まで見送ってくれたひかりの姿が見えなくなるまで笑顔で手を振り続けた。
ずっと隣で情緒の変動を察していた佐助は驚く事もなく、朱音の背中を撫でる。
俯いて、力んだ手で顔を押さえて、静かに泣き続ける。手から零れた涙を佐助は取り出したタオルで拭いていく。
「一緒の駅で下りるよ」
「で、ですが…」
「忠朝サンにまたそんな顔見せらんないでしょ?」
「……はい、」
婆娑羅学園最寄り駅、即ち朱音の家の近くの駅に二人で下りて、学園とは反対方向へ歩いて行く。
夕暮れ時を過ぎて人気の無くなった小さな公園のベンチに座った。誰も見ていない事を確認すると、佐助から朱音を抱きしめた。
先程でさえも我慢の末だったようで、いよいよ朱音は声を上げて泣き始めた。
「う、ぅぅ、……ぁ、ああ、あああぁぁっ!ひかり、ひかり……!」
「よく頑張りました。そうだね、俺様達にはこういう苦しさも偶にある」
「ごめんなさいって言いたかった…!ただいまって言いたかった…っ!ひかりだけじゃない…幸村にだって、お館様にだって…!」
「………そうだね」
「さすけも、さすけは、こんな気持ちでずっと…!」
「俺様は小さい頃だったからいいの。少しずつ知ってる顔に出会っていけたし。でも朱音はあの日思い出して、一気に会っちまったからなぁ」
思い出した先の打ち明けられない苦しさ。申し訳なさにもどかしさを覚える。
また会えただけで十分なくらい幸福に違いないのに、巡る感情達に胸を締め付けられる。
「やっぱ辛い思いさせちまったね。…ごめん、」
「違う!さすけのせいじゃない!思い出した事、後悔してない…!」
記憶の時代を思い出した先に襲い来る業は血と争いの経験ばかりではなかった。
事実を知って尚、他人には話せない。かつてあるいは今、どれだけ近かろうが、親しかろうが。安易に思い出させるリスクがあまりにも大きすぎる。
「少しずつ慣れて行ける。きっとまた笑ってひかりさんに会えるから」
「……うん、うん……さすけ……っ」
「はいはいちゃんと居るよ。一緒に居るから、号泣JK」
「……次学園に行く時、もういないくせに……」
「それはしょうがないだろ。卒業した後に留年しろっての?沢山会おうぜ、これからも」
「うん……さすけ、ぇ……」
「ほんと、手のかかる。好きなだけ泣いたらまた笑顔になって頂戴よ」
たった二人だけに共有される魂の記憶。
取り戻した事で多くに苛まれる。それは今生一生続くはずだ。
だからこそ、楽しい時も辛い時も触れ合い、言葉を交わす。
灯に願った者達は、共に生を歩んで行く。