いつの時代も
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「………朱音様、甲斐を発たれる前にお願いが」
武田軍に帰する事を決意し、その挨拶も済ませた朱音が幸村達と共に上田城へ向かおうとしていた時の事だ。
神妙な顔つきをしたひかりに呼び止められ、朱音は緊張した面持ちで向き合った。
「はい、何でしょう」
「………一目、見たいのです。土佐で頂いたという朱音様の戦装束を…!」
「はい?」
元親に仕立ててもらったあの華美な衣装の事だろう。言われてみれば甲斐に戻る頃には着替えてしまっていたが、それには理由があって。
「いえあれは、破損が酷くて……一旦小助に繕ってはもらったのですが、それでも薩摩での戦でボロボロになってしまって、もう着るのは…」
「………」
す、と差し出して来たのは、見覚えのある畳まれたままでも華々しい装いだった。
言われるまでもなく元親から賜わった衣装だ。
「こちらは……?」
「小助様に手伝ってもらいながら再修復した物でございますわ」
執念。に限りなく近い熱意を以てこの慌ただしい状況下で修繕してくれていたらしい。
驚きと困惑、そしてきちんと休めているのか心配……様々な感情がひかりに向けられるが、それでもとひかりは一歩踏み出してきた。
「こんな時だからですわ!だって……この装束の朱音様、とっても可愛らしかったと皆が!何度も!そんな……そんなの、私も見とうございます!」
お館様の容態を話す時でも見せなかった涙目をここで披露され朱音は圧倒される。
これも一種の逃避、ストレス発散のようなものだろうか。ひかりにとってはそれ以上の価値があるようで、ずいずいと顔を寄せて真剣に朱音を見詰めている。
無論、断れるはずが無かった。
*
『剣舞のようなものと思っていただいて構いませんわ!さぁ、次は正面に翳すように構える姿勢で…!もっと精悍なお顔つきで!』
あの時代にカメラがあればバシャバシャ撮られていただろう。
何をしても可愛い可愛い、素敵素敵を連呼していたあの時のひかりを思い出す。
そんな彼女は今は隣に座って一緒に友人の試合を応援している。
「どうなさいましたか?」
じっと見つめていたらひかりに気づかれてしまった。記憶を取り戻して数ヶ月は経ったが、やはりこの世界の数奇さに慣れるのはまだまだ先のようだ。
隣に座れて肩を並べて、穏やかに話せる。これ以上があるものか。
「いいえ、ちょっと…嬉しくて、」
「あらあら、私ではなく試合を見て差し上げませんと」
「そ、そうですね!」
「ほんと、いちゃいちゃ〜…」
まだまだ肌寒さが残る気候に対抗してるのかという勢いでほかほかする二人に佐助はがっくり肩を落としている。
「ほら、さすけも!応援です!あ……ボールが幸村に!」
グラウンドに目を戻したタイミングで幸村がボールを受け取り一気に駆け抜けていく。迷いのない足捌きで見方と連携を取り、次々と相手チームを躱していき、放たれたシュートはキーパーの手をすり抜け豪快に決まった。
「やったぁ!お見事です、幸村っ!」
鮮やかな一連の流れに思わず立ち上がって朱音は称賛する。
飛び上がった朱音に気づいたのか、幸村も拳を突き出して応えてくれた。
「見てましたかさすけ!幸村が決めましたよ!」
「はいはい見てた見てたよ〜」
普段通りの軽いノリの佐助の後ろに回り込んで、彼の腕を掴んで持ち上げてふりふりと、朱音はまた幸村に手を振る。
「ほらほら、幸村が勝鬨あげてるんですから!さすけも!」
「まだ勝鬨じゃないだろ。ちょっと落ち着きなって」
「ふふ、何だか真田さんそっくりですわね」
本人の自覚もあるが、戦の記憶を取り戻した後の朱音の振る舞いは記憶喪失時の時のような感情を素直に表す事が増えた。
奇跡のような日常を享受している為でもあるが、度々幸村が言っていたように朱音の本質はやはりこのような姿なのだろう。
「ゆきむらー!!」
「いつまで俺様の腕使って激励してんのさ」
「さすけが自分で振らないからでしょう!一緒に応援です!」
「はいはい、しょうがないねぇ」
テンションが上がっている朱音に付き合ってやってる感を醸し出しているが、実際佐助の表情は眉を下げ、かなり緩い類の笑み浮かべている。
遠目にもそれは幸村にも伝わって、噛み締めるように頷くとこのまま勝利すべくまた駆け出して行った。