奥州へ行く
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「遅れてしまい申し訳ござらぬ…!」
「……グモーニン、」
「おっせーぞテメェ等オラァッ!」
野菜の事に真剣になると他人へ厳しくなるらしい小十郎は、揃って頭を押さえながらやってきた寝坊組の顔を見るや否や怒鳴った。主君である政宗に対しても何の躊躇いもなくしてみせた有様に流石に朱音の表情が引き攣る。
「こ、小十郎様、お顔、怖いです」
「野菜は人生そのものだ。怠慢に向き合うなら慈悲はいらねぇ!」
「一旦落ち着きましょう!そう、もうお昼ですから少しお休みしましょう、小十郎様!」
「遮るな朱音。野菜の収穫はそんなに甘くねぇんだぞ!」
「お野菜は甘くてなんぼです!」
結構なお手前で。
朱音がアドリブで場をおさめると政宗と幸村が駆け寄ってきた。
野菜魔人状態の小十郎の機嫌を直す為に一緒に頭を下げると漸く許してもらえた。
「っふー、助かったぜ、朱音」
「すまない、遅れてしまった…!」
「いいえ、お顔が見られただけで嬉しいです。ですがお二人とも顔色が優れませんね、」
「ただの飲みすぎだ。放っておけ」
「小十郎様、あまり怒っちゃいけません、です!」
せっかく今日も無事会えたのだから楽しく過ごしたい。そう頬を膨らませる土塗れの朱音に観念したのか、手拭いの巻かれた頭に小十郎は手を置いた。
「それにしても土だらけだな、朱音」
「お芋さんを引っこ抜こうとして何度か尻もちをついてしまいまして…」
「それで派手にひっくり返って背中まで汚れてんのか……悪かったな、手伝えなくて」
「そんな、これはただの不注意です!」
「……ま、政宗殿…!貴殿はまた朱音に、気安く…!」
「黙れよ頭痛野郎。酒に弱いテメーを恨むんだな」
「ぐぅぅ…っ政宗殿、こそ……!」
頭を手で押さえたまま忌々しげに政宗を睨む幸村はまだ二日酔を引きずっているらしかった。
ちょうど昼前であるし、朱音の提案通り一旦休憩を挟む事になった。
*
「食欲もありませんか、幸村」
「うむ…」
「じゃあお水を飲んだら今一度横になっていてください。身体を休める事が一番いいそうですから」
「面目ない、朱音」
畑を見渡せる縁側まで移動すると早速朱音は具合が悪いままの幸村を介抱していく。長年の旅で多くの村を回った経験が役に立ち、的確に施していく様に小十郎は感心していた。
するとその隣に腰掛ける政宗があからさまに鼻を鳴らした。幸村一人にかまけているのが気に入らないらしく不機嫌そうに声をあげた。
「朱音、俺もまだ頭痛ぇ」
「大丈夫ですか…!?政宗は食欲はありますか?」
「ああ、多少な」
「では、果物ですと確か…りんごや柿。あとは胡麻、はおにぎりに混ぜれば…。あ、梅干しも良いと先日孫市様がおっしゃっておられました!」
自分が作りに行くと言わんばかりに今にも腰を上げそうな朱音を慌てて小十郎が制した。
「まだ午後の分もある。お前もきちんと身を休めろ。用意は他の者に任せればいい」
「……はい、ではお願いします」
「朱音はここで俺に食べさせてくれればいいぜ!」
「懲りていないようで…政宗様」
「……冗談だよ。その般若みてぇな顔やめろ、小十郎」
*
昼休みを挟んだ後に再開した収穫は日没手前まで続いた。
頭痛が続く幸村は結局ほぼ見ているだけになってしまったが、政宗は毎年経験しているおかげかスイッチが入ると夢中になって獲り続けていた。
荷車に積まなければならないほど山積みに獲れた野菜達を前に小十郎と朱音も満足そうに笑んでいる。
「今晩の夕餉に少し使おう。味噌汁も二日酔に効くぞ」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「なんで朱音が礼を言うんだよ」
「幸村が元気になってくだされば嬉しいですから」
「まぁ確かに食欲も覇気もない真田はレアだったがな」
早速幸村が待つ縁側まで報告しに駆けていく朱音。途中躓いて身体が傾いたものの自力で立て直し無事に幸村の前まで辿りついた。
「小十郎様が今日獲れたお野菜で夕餉を作ってくださるそうです」
「おお、それは楽しみでござるな…!漸く今、腹が空いてきたところなのだ」
「それはよかったです…!」
安堵の息を吐いた朱音。何よりあたたかくて、心から案じていた、そう伝わってくる優しい表情だった。
身体の不自由にも負けず、今日も彼女はまた全力で生きた。そしてまた明日へ。明日も明後日も共に。これが当たり前である事が一番の幸せなのだ。
「心配させて済まなかった、朱音」
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