特別だからこそ
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「………で、言ったんだ。『これで借りは返したぞ』って。そしたらその場でぶっ倒れてなぁ。身体に手裏剣が刺さったまま死に物狂いで走って来たみたいで、顔も真っ青だったよ」
思い出し笑いと共に家康が教えてくれた兄の過去。確かに兄らしくあり、多少己にも覚えのあるエピソードを聞くことができて、朱音の口元も緩やかに弧を描いている。
「あまり喋らない割に取り繕うのは上手でな。なんでも『死ぬつもりでいたから怪我しようと関係ない』だの、当時の儂が『妹と背格好が似てたから』だの……どうあっても心配で助けたって言わないんだ」
おっと、妹と似てたってのは朱音殿には言ってはいけなかったかな?とわざとらしく付け足した家康。確信犯による情報漏洩は朱音にとって喜ばしいものだ。
「大きなきっかけはその誘拐未遂からだ。怪我も治ってないのに、忠勝すら呼ばないで一人で追いかけてきてくれた………それまで忠勝が言っていた『根は人情のある、思いやりのある奴』だっていうのが、あの時儂にも確信出来たんだ」
優しさや他人を思いやる表現が素直に出来ないが、誰よりも誠実。
決して弱みをみせようとせず、ひと知れず努力を重ねる。それが隼人…本多忠朝だ。
「今になってもあのツンケンぶりはあまり変わらないがな。だがそれは慎重な性格かつ、あいつの思いやりの証でもあるんだ。きっと朱音殿も承知している事とは思うが……」
「はい。こうしてお話が聞けてよかったです」
「まだあるんだぞ?今でこそ笑って話せるが、長篠の戦いで忠勝が濃姫様に討たれかけた時はな………おっと、」
話し込む二人の元へ、シュゴーという排気音が聞こえて来た。空を見上げると、やはり忠勝がこちらへ向かってきている。
原理不明の炎を足裏から噴射しながら着地した忠勝の腕には、噂の人物が収まっていた。
「兄上…!?」
「なんだ忠朝。そんな顔してるって事は忠勝に怒られたのか?」
『ギュンギュ〜ン』
全力で不機嫌顔を晒す忠朝の眉間の皺が更に深くなった。
先程言っていた通り、家康や忠勝は怒れる忠朝をちっとも恐れないようで、笑顔を交えながら緩い雰囲気で話している。
そこへ一足遅れて幸村もやって来たが、対照的に彼は落ち着きなく視線を彷徨わせていた。
「幸村?」
「あ、いや……!その、何事も…ござらぬ……」
不思議に思い朱音が声を掛けると、幸村はじっと見つめてきた後、一層困惑し出した。
「兄上と何かありましたか?」
「あった…と言えばあったのだが、…むむ、」
言い淀む幸村を他所に、徳川軍が話を続けていく。
『ギュンギュンギュン』
「なるほど、そういう事か。それは忠勝としては放っておけないよな」
「違う。勝手に養父さんが…!」
『ギュン!』
「ほらほら忠朝。今回はお前が悪い。何より、お前自身も傷ついていたらこうなるさ」
「…………」
この鉄壁の二人に何を言っても絶対に言い返してくる事はとうの昔に承知済み。口下手な忠朝は早々に押し黙ってしまった。
そんなちょっぴりナイーブな忠朝の頭を撫でながら、忠勝は家康へ とある報告をした。
「ああ〜……それはやってしまったなぁ、忠朝。それがきっかけで喧嘩の勝敗も決したと。真田もさぞ驚いただろう」
家康が途方に暮れたような視線を幸村に向けると、幸村もおずおずと頷いた。忠勝の言語が理解できない朱音だけが、幸村の困惑の理由をわからずにいる。
それだけ忠朝も思い詰めていたのだろうなぁと、家康が息を吐く。
「事情はわかった。が、この件は真田の気持ちの整理がついてから、朱音殿に話した方がいいだろうな」
『キューン…』
「………そう、なのですか?兄上、一体何を……」
「…………」
養父の慰めを振り払う気力すらなくなった兄は、俯いたまま反応すらしなかった。
その様子を見て、朱音はやはり兄とは上手く話すことすらもう出来ないのだろうかと表情を曇らせた。
「こ、こら忠朝!朱音殿が誤解してしまうだろう!もう、今思いを伝えないと いよいよ手遅れになるぞ!」
『ギュンギュン!ギュン!』
不器用さとやらかし等々でメンタルに打撃を受けている忠朝だが、忠勝がそっと地面に下ろすと、はじめは黙っていたが、やがて顔を上げた。
朱音の顔をじっと見つめ、普段に比べれば随分弱々しい足取りだが、歩み寄ってきた。