特別だからこそ
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言われた通りの場所を探した。
念の為、その周囲も広く、時間を掛けて見回った。
けれど少年の言っていた妹の姿は、何処にもなかった。
*
「……世話をかけた」
少しずつ怪我が癒え、自力で身体を起こせるようになった頃、少年は俯いたまま告げた。
やつれた顔に、憔悴した声をしていた。あの戦場から離脱して7日は経った。彼の行方不明の家族は見つからない。最後に縋った希望は消えたも同然だ。
「………すまねぇ。忠勝もがんばって探してくれたんだが、」
《ギュン……》
「貴殿らが謝る必要はない」
やるせなく拳を握りしめる少年が、向き合う二人の目には哀れに映る。お家は敗北し、家族も全て失った悲しみをなんとか抑えようとしている事が、震える拳から伝わってくる。
「改めて礼を言う………何も返せず、申し訳ない、」
そう言うと少年はひとりで立ち上がった。身体がふらついているというのに、構わず部屋の外に歩き出そうとしている。
「お、おい!どこに行くんだ!?」
「………どこにも行かない。だが、ここにいる理由もない」
「はぁ!?まだ怪我も治ってねぇんだぞ!」
「………」
幼い家康……竹千代が死にかけの少年に声を荒らげるが、少年の耳には入っていないかのように、何も映していない暗い目で足を動かしている。
竹千代が死にかけの少年の袖を引く前に、忠勝が取り押さえた。
強引に布団の中に戻そうとすると、少年は傷が開く勢いで暴れだした。
『ギュイ、ギュイギュイン…』
「な……本当か忠勝!おめえ、死ぬ気でいるのか!?」
忠勝の独特の言語を当然のように汲んだ竹千代は、変わらず藻掻く少年に忠勝の言葉の意味を伝える。
負傷の身では到底抗えない巨体に抑え込まれても少年は抵抗を止めない。
じわじわと時間を掛けて少年を布団に寝かし直すと、忠勝は少年の手足では無く、目元をそっと押さえた。
拘束が解きやすくなるというのに、そう行動した忠勝の意図は少年にも伝わり、徐々に抵抗の力が弱まっていく。
やがて完全に抵抗を止めた頃、少年は浅く息を吸った。
「………何の、意味が…」
「意味…?」
「戦に負け、父も、家も無くなった。妹さえ迎えに行けなかった………もう何も無い。俺だけが生き続けて、何の意味が……」
鼻を啜り、途切れ途切れに話す少年は死を望んでいた。
大義が無くば死を選ぶ。なんとも武士らしい矜持だ。だがその姿は悲愴の一言に尽きる。竹千代は少年をどう慰めたら良いのかわからず忠勝に視線を送る。
忠勝は黙って少年の目元に手を添え続ける。
少年のボロボロの身体の震えが止まるまで、二人で静かに見守っていた。
***
同じ境遇の人間など数え切れない程いる。
それなのに己へ特別情を向けるのは何故だと何度も問うが、まともな答えが聞けた試しはない。
「う〜ん、でもおめえはなんか放っておけねぇし……」
『ギューン、』
「…………」
毎回こんな感じの、ふんわりとした返事しか寄越してこない。
筋の通らぬ感情に拠る行動など信用出来るものかと、少年は日々を疑いと共に過ごしている。
あの別れと出会いの日からひと月ほど経つが、彼の側には変わらず竹千代と忠勝が居り、断り切れないまま、彼らの庇護の下、三河の徳川軍に世話になっている状況だ。
身体の怪我は癒えつつあるが、心は相変わらず荒み、周囲に心を開けずにいる。そして奥底では、やはり生き続けていたくないという思いが暗く這っている。
こうして愛想なくしていれば、やがてあの二人も嫌気が差すことだろう。放り出されれば、今度こそ少年の思いのままに出来る。
そんな目論見もあって、素っ気ない態度を取り続けているわけだ。
妹と同じくらいの年齢の竹千代は、初めのうちは少し凄めば萎縮していたが、彼に仕える忠勝が手強い。
相変わらずこの大きな武人は何と言っているのかわからないが、ビビらされた竹千代にその都度何か助言をしていたようで、最近は竹千代すらも少年の無礼な態度に怯えなくなってしまった。
ガタ、と少年の近くで物音がした。
それどころか、こうして日々こっそり付いてきたり、ちょっかいかけるようになってきたものだから質が悪い。
人目から逃れるように静かな所へ移動していた少年は、今日も懲りずにやって来た竹千代に舌打ちをして振り返った。
「はやと、ふ、ふガッ…!」
だが少年の予想とは異なる光景が広がっていた。
竹千代が数人の忍に囲われ、拘束されている所だった。口を塞がれ、抵抗しようにも大人数人相手では適うはずもなく、まだ小さな身体はあっという間に抑えこまれた。
「な、何を!」
少年が声を上げた途端、複数の手裏剣が少年へ放たれた。躱しきれず脇腹に一本喰らってしまったが、その間にも竹千代は城外へと連れ出されようとしている。
「………………ッ!」
考えるより先に、少年は竹千代の後を追いかけていた。