IF:井伊と武田と
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ボコン!とめり込んだ。
朱音の想定以上に、目掛けた拳は彼に炸裂した。
「な……何してるんですか!」
放たれた拳を躱すどころか、幸村が当たりに来たせいだ。
想定より早く強く左頬を殴ったため、朱音の右手にも想定以上の反動が来る。
返ってくる力以上に動揺が大きく、朱音の動きが止まる。
その瞬間を狙っていた幸村が、まだ重心が宙に浮いたままの朱音を正面から抱き止めた。衝突する勢いで身体がくっつき、拘束された朱音は状況が飲み込めない。
「………!?」
「ここまでだ、朱音」
一方、先ほどまでの熱意はどこへやら。幸村は落ち着いて告げると、朱音の背中を優しく叩いた。
幸村の意図を察した朱音は抵抗すべく再び身体に力を入れようと歯を食いしばる。
「……まだです!」
「ならぬ」
「出来ます!」
「ならば、俺の腕を解いてみよ」
「……、ぐ、……ッ」
「時間切れ……否、そなたの身体が限界を迎えておる。これ以上続ければまた倒れかねぬ」
数瞬前に幸村が注視していたのは朱音の動きであり、その状態だった。
時間と共に衝突する度に、整わなくなっていく呼吸に、揺らぐ刃の軌道、必死な表情を観察し、幸村は勝敗よりも朱音の心身の安全を優先した。
腕を解いてみろと言ったものの、幸村も意識して関節等を差し込んで朱音の動きを完璧に封じているため、疲弊した朱音に掻い潜る力は残っていなかった。
情けを掛けられ敗北したも同然だ。
「………ま、負け……、……本気だったのに……」
「怒りに駆られた戦いはそなたらしくない。故に本領が発揮出来なかったのだろう」
お情けだ。
気遣いの言葉まで寄越されて、これが負けでなくて何なのか。
自ら言っていた通り、短時間で決着をつけられなかった時点で決まっていたのだ。
「……これでも一度そなたに諭された身。そなたの事も少しは理解しているつもりだ」
一度どころでなく、記憶のない頃から何度も寄り添ってくれた幸村に言われてしまえばこれ以上の抵抗は無様でしかない。
ぐ、と握っていた拳を幸村の肩に置くと、朱音は力を抜いた。途端に全身に疲労が溢れ、そのまま幸村の身体に寄りかかってしまった。
「………参り、ました」
「まことに良き手合わせ、感謝する」
「手合わせ…じゃないです……」
「すまぬすまぬ。また仕合おうぞ」
「……………」
戦闘自体は非常に楽しんでいた幸村の笑顔に、朱音は不満気な声を上げる。
朱音のダウンでひと段落。
様子を見守っていた佐助が近づいてきた。
「ど〜お旦那?姫様のご機嫌は?」
「ふん!」
能天気に歩いていた佐助の頬が、幸村によって殴られた。
想定外の攻撃に佐助は思いっきり吹っ飛ばされた。
「あ……たァーっ!!何すんの!」
「姫呼ばわりしたからだ。あと29発程殴れとの仰せだ」
「は〜!?……って、あと29?多くない!?」
幸村に支えられたままの朱音が陰険な視線を佐助に寄越している。まだまだ元気の有り余っている幸村に仕返しを頼んだようだ。
身構えず喰らった全力の拳の痛みを擦りながら、佐助が顔を引き攣らせた。
「お館様にもそうするの?」
「……お館様はお考えがあっての事だと思いますから。井伊様に状況を伝えようとされていたのだと今は思います。でもさしけは別です。悪意がありました」
「そういう事だ」
「えー!!なんか納得出来ねぇ!!あと佐助だっての!」