IF:井伊と武田と
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飛び出す朱音に合わせて、幸村は佐助に背中を押し出された。
一瞬後には鋭さを無くした骸刀が幸村を狙う。反射的に己の槍で刀の軌道を防いだ。
「今度は一瞬で終わらせます…!加減しません!」
鍔迫り合いの格好になり、動揺する幸村に構うことなく朱音は睨みつけ、宣言をする。
『今度は』
そんな言い回しをされ、幸村は思い出す。
薩摩の地にて戦う理由に迷っていた際、朱音がその答えを見出すのに一役買ってくれたものだ。
僅かな回想の間にも、殺意に限りなく似た感情が幸村にぶつけられる。
『手段は問わぬ』
『相手してあげなよ』
「………うむ、来い!朱音ッ!」
先の言葉を反芻した後、幸村の表情に覚悟が灯った。
きっとこれが何より間違いないやり方だと確信する。槍を握る両腕に迷うことなく力を入れた。
一秒でも早く姫扱いされる状況から抜け出したい朱音は、宣言通り隙なく幸村の急所に斬り込んでくる。
幸村は五感全てで対応するが、全身絶え間なく狙われるため、思考では間に合わず本能で避けているレベルに近い。
(焦るな、焦るな、狙うべくは…!)
何連撃もの薙ぎ払いと突きを全て幸村が躱すと、朱音は後ろに大きく下がって刀を構え直した。
やはりそうだ。幸村の知る通り、朱音は瞬間的な攻撃力はあっても持久力に乏しい。
肩で息をしながらも距離を保ち、相変わらず幸村を睨みつけている。
素早く急所を突いてくる攻撃に思わず焦らされるが、だからこそ落ち着いて動きを見る必要がある。
薩摩での手合わせの経験をしっかりと覚えている幸村は、冷静に今の朱音の動きを見ることが出来ている。相手が怒りのまま立ち向かってくるのであらば尚更だ。
今なら当時願った事が叶うのかもしれないと、幸村は思わず笑みを浮かべた。
「さぁ、今一度!」
朱音は真っ直ぐ飛んで来た。
槍のリーチに構うことなく刃を伸ばし、幸村の身体を狙ってくる。的確に急所を狙ってくるからこそ、回避の予測も立てやすい。
歴戦の経験で培った感覚を以て、紙一重の攻撃を幸村は確実に躱していく。
だが決して容易ではない。少しでも気を抜けば彼女の刃は確実に幸村の動きを留めに来る。
頸元に延びて来た刃を槍の穂先で防ぎ、その奥の視線と交わる。
火花のような交錯。背筋を凍らせる程の無二の気迫。この生命力をぶつけられるような太刀を幸村は好ましく思うのだ。
それ故の笑顔なのだが、言うまでもなく朱音は苛立ちを募らせている。
「流石だ!強いな、朱音!」
殺気立つ気配で応えると、朱音は肘を押し上げるように刃の攻防を打ち払った。
薩摩の時と違い、負傷のない朱音と本気の手合わせが出来ることを喜ぶ幸村の意にも気づいたようだ。
「こちらも参る!」
幸村の身長よりも長い二槍が朱音に向かって放たれる。
迫る二つの切っ先に気圧されるよりも目を見開き、一瞬たりとも動きを見逃さぬよう集中する眼が幸村に焼き付く。
はじめの内は骸刀で槍の突進を弾いていたが、身体が慣れて来ると幸村の手元に注目するようになる。手首で回転させながら迫る槍にタイミングを合わせて身体を反ることで幸村の懐へ入り込む隙を見つけた。
「そう来ると思うておった!」
本人にとって不本意ながらも小柄な身体は接近戦に於いて有利に働く。
前回の手合わせでも躊躇いなく潜り込んで来るのを、何度も身を以て経験した幸村が防御に入ろうと身体を捻った。
すると朱音は幸村の身体に打ち込もうとした刀の柄を引き、幸村の更に後方へ腕を伸ばした。
バコン!と乾いた音が立つ。
幸村をすり抜けた先、片槍の石突を足で地面に押さえ付けていた。
振り返るより右手の振動で動きを察知した幸村は迷う事無く片槍を手放し、既に振り被っていた朱音の刀を左の槍で受け止めた。
「なんたる足癖!」
また態勢を整えに後ろに下がるかと思いきや、朱音は刀を更に押し込んだ。
幸村の力を逸らしながら横に一回りし、開いた両者の隙間に手放したばかりの槍を蹴り上げた。朱音の刀を挟み込みながら長い槍同士が一瞬絡み、幸村の動きが止められた。
獲物を留められた事に気を取られるより先に、相手の動きを見る。
武器を手放した朱音が拳を握って下段の位置から突っ込んで来た。
その形振り構わぬ姿勢と顔つきで判断する。
幸村も両手を空け、前に踏み込んだ。