IF:井伊と武田と
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「ところで、朱音は儂らの大事な仲間なのじゃが……なぜお主の元に?」
「フン、仲間だと?お前達、朱音が女であるのをいい事に利用していたそうだな!」
盛大な鍔迫り合いで火花が飛び散る中、お館様と直虎が言葉を交わす。
直虎の言い分も聞きつつ、冷静に状況を判断しようとしているようだ。
「あの子はうちの子達を戦場で助けてくれた。自分にとって何の利益もないのに他人の為に命を投げられる…本物の強さを持った優しい子だ!お前達なんかに渡すものか!」
「随分と気に入られたようじゃの……流石じゃな」
「な、何を笑っている!貴様真面目に聞いているのかッ!」
ギィン!と直虎の太刀を大きく弾いたお館様は軍配斧の切っ先を、離れた場所で未だ慌てふためいている幸村へと向けた。
「幸村よ!」
「は、はいッ!」
「我らが姫君の意思を確かめよ!」
「はっ!心得ま……、はいぃッ!?!」
勢いのまま頷いた幸村は愕然とする。
『姫君』という言葉と共に軍配斧は紛れもなく朱音を指しており誤解のしようがない。
「姫君って…!おやめくださいお館様!」
誰より当人が拒絶反応を示した。後悔からの不快感により、大きく表情を歪ませてお館様に言い返す。無意識に憎悪に近い怒りを露わにした朱音に周りの女衆も驚いている。
一瞬にして荒立った朱音を、お館様は事も無げに笑みを浮かべて見つめている。
「見たか幸村よ。姫君は何やら我らに不満を抱えている様子じゃ。手段は問わぬぞ!」
「さっきから何を言っている!この私を無視するつもりか!」
どう見ても直虎にまともに意識を向けていないお館様が更に切り込まれるが、軍配斧の柄で苦もなく受け止める。
片や幸村は命令の意味を理解しようと必死に頭を回す。
「む、むむ……!?」
「姫様〜?俺様達に不満があるってぇ、本当〜?」
が、傍らの佐助が無神経に朱音に呼びかけてしまった。
どうやらお館様の意図を汲んでの行動のようだが、頭に血が上っている朱音はただ立腹する一方だ。
「だから、その呼び方を止めてと!こんな大勢の前で巫山戯けないでください!」
グワッと踏み出そうとする朱音は女衆を振りほどく勢いで身を乗り出している。
記憶を取り戻してからは常に一歩引いた、周りを観察しながらの振る舞いが多かったが故に、ここまで素直に怒りに呑まれているのは珍しい。それほどまでに彼女の過去は重く根付いているのだ。
「朱音、俺はそなたに…!」
「『姫君』でしょ旦那ぁ。お館様がそう呼んでんだから。何かしら狙いがあるんじゃない?」
「しかし…!」
「じゃあ相手してあげたら?手段は問わないってさ」
軽薄な表情の佐助が幸村の真っ赤な二槍を指しながら、怒れる少女に視線を投げかける。
「ね〜?姫様。こっちのが早いっておたくもそう思ってるんでしょ?」
「勝てば聞いてくださるのですね」
こんなに躊躇いなく獲物を抜く朱音はかつてあっただろうか。
世の男に怒りの矛先を向ける直虎に負けないくらい感情を剥き出しにしていた。