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「疲れはないか?朱音」
「お気遣い痛み入ります、小十郎様。しっかりお休みできたおかげで万全です」
宴会の明くる日。支度を済ませ土いじり用の装いをしたは朝一番に小十郎と顔を合わせた。
ここ一番を外さない性であるが故に普段は苦手とする早起きも見事成功させた。小十郎と揃いのモンペ姿も小袖よりはずっと動きやすいという理由で気に入っている。
「もう胴着は私服として着てないのか?」
「……はい。一応はこんな身になりましたので。不用意に心配もさせてしまうようなので」
今となっては一切の動きを見せない左腕。朱音の表情と交互に小十郎はじっと見つめる。やはりそう簡単に踏ん切りがつくものではないのだろう。後悔はない、と口にするのは容易いが事ある度に不自由は付き纏うに違いない。
「ひとまずの目標は一人で着替えられるようになることです!」
動かない左腕と上半身の隙間に布を挟んで羽織る事は出来るが両腕でしっかり締め上げなければならない袴や帯が鬼門であり、今日も早朝であるにも関わらず伊達家の女中に手伝ってもらった。人に世話を焼かれることに負い目を感じる性格の為に申し訳なく感じてしまうのだろう。
「たしかにお前は持っているものは多くはねぇが、自分に在るものを全部使って器用にこなせている。きっと大丈夫だ」
「ありがとうございます。絶対に出来るようになってみせます」
「今からも頑張れよ。あの二人は酔いつぶれているようだからな」
あの二人というのは、未だこの場に姿を見せない蒼紅のことである。昨晩朱音を寝かしつけるや否や飲み比べを始めた政宗と幸村は、例によって意地の張り合いに発展し結果双方飲みすぎ宿酔で起きられなくなっていた。
「お久しぶりの再会でしたからきっと嬉しくて羽目を外してしまわれたのですね」
その光景を目にしていない朱音が呑気に微笑んでいるが、怒号にむせび泣き、派手に煽り煽られる壮絶であった現場を知る小十郎は苦笑いを浮かべた。
「お休み中のお二人の分まで、この朱音がいっぱい収穫します!」
「頼もしいが序盤で飛ばしすぎるなよ。力配分を怠るんじゃねぇぞ」
「はい!」
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「鎌の先で野菜を傷つけないようにな。焦らずに周りの土からほぐしていけよ」
「は、はい!先生!」
ある程度の野菜収穫の経験はあったものの、改めて掘り起こしの手順を野菜狂である小十郎から直々に教わる朱音。
軍手越しに草刈り用の小型の鎌を握り、慎重に周囲の土を取り除いていく。
先に茎から上を切り取っておいた為、掘り進めると奥に眠るお芋の姿がはっきり見えてきた。
根っこがつながった状態で一度に獲れる為、一つ姿が見えたら終わるわけではない。寧ろはやる気持ちを抑えて地道に掘る事こそが真の戦いであるに違いない。こればかりは効率よりも我慢強い精神力が求められるのだ。
「野菜の収穫は……深いですね、小十郎様」
「だろ?野菜は人生そのものだからな!」
「勉強になります…!」
お互い黙々と手を動かす中、漸く交わされた言葉がそれだった。
この若干ツッコミ不在気味のやり取りは寝坊した蒼紅が顔を出す昼前まで延々と続いた。
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