特別だからこそ
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「隼人殿、隼人殿!」
朱音が家康と話している一方、幸村は彼女の兄を追いかけていた。
いかにも鬱陶しそうな仕草で、不機嫌そうな目つきが振り返った。
「忠朝と呼べ」
「も、申し訳ござらぬ…!」
そうは言っても、薩摩の地に於いて、はじめは自ら隼人と名乗っておきながら後から呼び方を直せとは些か手前勝手と言える。だが今は己の不機嫌が勝る忠朝は、幸村に申し訳なさを感じること無く言い放った。
幸村はすぐに詫びたものの、変わらず忠朝の後をついてくる。無論彼の要件はひとつしかない。
「何故、朱音にあのような……」
「話した事が全てだ。運が良かっただけで、到底認められるものじゃない」
「しかし、朱音だからこそ為しえた行いによって、日ノ本の大きな争いを留める事が出来申した!せめてそれのみでも、兄である貴殿から……!」
「…………」
余程固い意思なのか、それとも意地なのか。忠朝は頷かぬまま再び歩き出してしまった。
「はや…、忠朝殿!」
「どこまでついてくる気だ」
「某は、某は…………乱世の先、太平の世が訪れた先にも、朱音と共に在りたいと思うており申す!それ故に!」
薩摩での会話に続き、どうぞそう捉えてくださいと言わんばかりの幸村の物言いに、またしても忠朝の眉間に皺が寄る。
不愉快であり、気まずくもある。それゆえに後悔の果ての想いが抉られる。
「彼女が諦めたもの、恐れるものは……某が補い、護り申す!例えその相手が貴殿であろうとも…!」
改めて足を止めて振り返っても、幸村が言い淀む様子はなく、それ以上に朱音の為の決意が勝る、そんな顔つきをしていた。
血縁があるからこその心配が、想いが。
それによって傷つけてしまった事を、他人にも関わらず寄り添おうとする存在と相対し、改めて自覚する。
(俺に兄の……家族である資格なんて、最早ないのかもしれないな)
生かす為とはいえ、厳しい態度で拒絶同然の対応しか出来ない兄など。いっそいない方が……互いに生存を知らない方が良かったのではないかとすら思える。
不本意ながらにも自分よりはるかに妹の傍にいて、その心に寄り添おうとする存在が既にいるのだから。
「勝手にしろ」
他に返す言葉が無かった。
僅かに俯いて逃げるように足を速めた忠朝に、幸村はまだ食いさがろうとしたが、忠朝の耳に馴染んだ駆動音が聞こえて来た。
ドン!と大きな音を立てて、側の庭に見慣れた大きな槍が突き刺さる。
「養父さん……!」
忠朝の養父、本多忠勝が静かな佇まいで空から降りてきた。
幸村も驚いた様子で凝視するが、忠勝は来客よりも義理の息子にじっと視線を向けている。
「……なんだ、」
『ギュイ、ギュギュン』
「それこそ、養父さんには関係ない。ここに来る前の話だ」
『ギュン……』
「していない。これでいいんだ」
『ギュルルル…ギュン、』
「関係ない。それにもう俺は……俺では…、」
幸村からしたら忠勝が何を言っているのかまるでわからないのだが、この親子は明らかに口喧嘩をしている。
気の乱れた忠朝を見兼ねて、戦国最強の冠を持つ養父は黙って駆動槍を引き抜き、忠朝へ構えた。
さながら口論で解決しないならば、だ。
「………こんなことで…!」
『ギュインギュイン!』
「……だったらさっさと終わらせる」
忠朝と同じく、忠勝も引く気はないようで、手っ取り早く終わらせたい忠朝は直ぐに庭へ降り、腰に差してある長刀を引き抜いて構えた。
会話の仔細は分からずとも、兄妹について義親子が言い争っていた事は傍から見ていてもわかる。
自然と幸村が立ち会いを務め、本多親子の対戦が始まった。