奥州へ行く
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「お戻りになられましたか、政宗様」
「おう、見ての通り客人も無事着いたぞ」
「政宗様が朱音を抱えておられますと、本多忠朝を思い出しますな」
「さっき自分で言ったんだよなぁ」
背格好も髪型も違うし、似てるのは目元くらいだろうが、と呆れたため息を吐いた政宗が履物を脱がす為に一旦朱音を式台に降ろした。
政宗に抱えられて来たお礼を述べたところで朱音の視界にむくれすぎるあまり珍しいまでに黙り込んでしまった幸村が目に入った。
草鞋を脱ぎ、再び政宗に抱き上げられそうになっていた所で慌てて声を上げた。
不思議そうにする政宗に再び気遣いの礼を告げると、朱音は右手を幸村の方へ伸ばした。
「政宗様、あまり真田をからかってやりますな」
「Ha!思っていた以上に嫉妬深ぇ奴だな」
反省した様子もなく野次を飛ばす政宗をよそに幸村は心底安堵したように伸ばされた朱音の手を取った。
抱き上げるでもなく、支えるように手を取る幸村と身を委ねる朱音を見て感心した小十郎が息を吐いた。
「あんなにも落ち着けるとはな」
「どっちの事だ?」
「……どっちもです」
「そうだな」
双竜に観察されるように、じぃっと見つめられていることに気づいた途端、幸村がカッと赤面し思わず力んだ力が全身へ、朱音の手を握る指先にまで伝わった。
「いたたっ、どうしましたか…?」
「す、すまぬ朱音っ!」
「台無しだな」
「まだまだ道は長そうですな」
*
「やっさいもっさいしに来申した」
「やっさいもっさい!」
「全体的にCrazyになってるぞお前ら」
「し、しまった!某達は野菜狩りに来申した!」
「狩りじゃなくて収穫な」
舌の心地がいいのか隙あらばやっさいもっさい連呼する朱音の言動に幸村がつられたところですかさず双竜が真顔でツッコミをいれた。
流石に狼狽した幸村が叱りた気な視線を朱音に送りつけるが当人は愉快そうにニコニコ笑むばかりだ。その笑顔に弱いのだ、と心の中で毒を吐くと諦めたように肩を落とした。
「……思ったよりbalance取れてるんじゃねぇか、お前ら」
「思いの外朱音が奔放なお蔭で真田の手綱を握れそうだな」
「な、なんの話でござろうか、お二方!」
「さぁ~な~」
「お野菜収穫です!」
「もう具合はいいのか?」
「はい、お陰様でだいぶよくなりました!畳が気持ち良いです!」
「馬酔いでもしてたのか?」
馬酔い、と言う聞きなれない単語はさておき。
屋敷の中の暖かい客室に通してもらった幸村と朱音は伊達主従の二人と向き合い思うままに話し合っている。
「うむ、佐助から、この大きな籠いっぱいいっぱいになるまで貰ってこいと言われているのでござる!」
「遠慮って言葉を知らねぇ忍だな。気に入らねぇ」
幸村がここまで背に負って来ていた巨大な籠を伊達主従の目の前にダン、と置いてみせた。
正座の幸村の座高を優に超えるその大きさに政宗の表情が引き攣った。
「そ、それは困り申す!籠を満たす程いただけねば某が佐助に叱られてしまいまするが故!」
「アンタの事情なんざ知らねぇよ!」
「此度の遠出も説得に苦労したのでござる!その上土産も用意できぬとあらば更にヘソを曲げられてしまい申す!」
「だから知らねぇっての!」
「小十郎さま、今の時期ですとおいもやかぼちゃですよね!」
「よく知っているな、お前の好きな根の物がよく獲れるぞ」
「覚えていてくださったのですか!」
「まぁな。茄子も獲れるぞ。これからの鍋の季節に合う白菜、春菊なんかもな」
例によって口論を始める蒼紅の一方でベジタボートークに花を咲かせる畑の子ら。
「本当にたくさんあるのですね、何種類のお野菜を育てていらっしゃるのですか?」
「可能な限りは全部だな」
恐るべき野菜狂の執念たるや。お蔭で実は青葉城の屋外訓練場の敷地が年々畑に浸食されつつあるという事実はここでは伏せた小十郎だった。
大勢の人々の足でよく耕されて良い土になるのだそうだ。
「楽しそうです、小十郎様」
「野菜が俺の癒しだ。あいつらかわいいぞ」
迷いのないご満悦顔で言い切った。
眉間の皺もなく清々しい気を纏うという中々稀有な姿であった。
「収穫のお手伝い、とても楽しみです」
「ああ、すぐにでもと行きたい所だが、今からじゃ日暮れまでに終わらねぇ。明日のお楽しみだな」
「明日なのですか?」
てっきり幸村共々今から収穫に取り組むとばかり思っていた為に予想外の言葉だった。
「どっちにしろ、遠路はるばる来たお前達はまず身体を休めるべきだろう。今宵は歓迎の宴を催すと政宗様がおっしゃられていたぞ。楽しんでいけ、朱音」
「ご厚意痛み入ります、小十郎様」
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