Marry me!(前編)
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「本当ですか!?とってもおめでたいですね!」
心からの笑顔が見れたのは大収穫。しかしその言葉は期待した響きとは若干異なる予感がしてならない。
「わたし、大好きなんです!旅の途中で、何度か立ち会ったこともあるんですよ。お身内の方や、村の皆さんがお祝いの宴を開いて、夜通しわいわいしてて!」
「……」
「歌に舞に、沢山の満ち溢れた笑顔でお二人を祝福する……本当に素敵ですよね!わたしも同席してよろしいのですか?」
「ど、同席……?というより、」
「して、どなたが祝言を挙げられるのですか?武田や真田に縁(ゆかり)のある方だとしたら……もしかしたら、わたしも知ってるお方でしょうか?」
ちょうど先日も土佐の友人とそんな話で盛り上がったんですよ、と話しながら向けられる眩しい笑顔がかつて例を見ないほどに彼の心に影を落とす。ただでさえ言い出すのに一生分の勇気を要したというのに、これから彼女の盛大な誤解を解くことから始めなければならない。
とりあえず、目の前の彼女の両肩に手を置き、可能な限り深く息を吸う。誤認による喜びの興奮が収まらないのか、その高揚した頬にさえ愛らしさを感じる自身は実は余裕があるのかもしれない。あるいは相当に惚れこんでいる手遅れの証か。
「祝言を挙げるのは、そなただ」
瞬間、彼女の笑顔が凍りついたかのように強張った。
しかし言うべき事を言うべく一息に続ける。
「今一度、言う。朱音、俺と…、ち、契りを……ッ、そ、の……この、幸村と、め、めめ、夫婦に!ななって、くれッ!!」
これなら捉え違いも起きまい。双方の名も口にした。どもりつつも、きちんと目を見て伝えた。
顔面赤面、身体中が熱くて眩暈も覚えそうだ。しかしそれほどに強く願っていたことであり、長年の想いと決心の表れなのだ。
―――――だが、目の前の彼女は唖然とした表情を浮かべたままだ。
完全に不意を突かれたかのように虚ろな瞳を浮かべていた。
「……せん…」
「な、なんだ、どうしたのだ」
「ありえま、せん」
「な……!?」
いつだって、正面から向き合い、思いを交わし、時には相対したこともあった。だが、これはいつよりも悪い。
そう、これは初めての、明確な、拒絶の表情だった。
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