IF:vs佐助戦
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「豊臣秀吉は小田原で独眼竜に討たれた。色々凹んで引き篭って漸く顔を見せたと思ったら、まだ戦う気でいたんだ」
「……秀吉さんが亡くなった事で、日ノ本の趨勢は更に危うくなったと聞き及びました。戦事は大嫌いですので」
「だったらそのまま大人しく引き籠ってればいいじゃない」
「このわたしが、そんな事すると?」
「吠えるねぇ」
どんどん剣幕が悪化しピリリと張りつめた雰囲気が立ち込める。煽りを止めるつもりのない佐助は素直に感情を表に出す朱音をくまなく観察している。戦乱は終結せず、更に加速した乱世の渦中に於いて、彼女の戦い抜く意志だけは紛れもない本気であることははっきりとわかっていた。だがその志を許すかはまた別問題だ。
「大した実績も実力もない癖に、いっちょまえに武を奮う、ねぇ」
「…これからわたしは武田軍に、幸村達に思いを託します。それ故に…認めないと言うのであれば認めさせるまで」
「じゃあ逆に俺様に負かされたら、二度と武器を持たない事。それだけの覚悟、ある?」
「………はい」
半分は脅しに近いのだが、静かに頷いた朱音の目はどこまでも本気だった。
常に死の際を漂う魂を諌めるつもりも多少はあったが、ここはさっさと勝負に勝ち、諦めさせた方がはやいか。そう判断したからこそ、敢えて当人が逆上するような言い回しをしていた。
「足手纏いなんて必要ないからね、ウチには」
「わかっています」
「どうだか。さ、来れば?」
左肩を負傷して以来、身体の負担を減らす為に朱音は刃の鋭さをなくした例の骸刀のみで戦うスタイルに変えつつある。試行錯誤の途中ではあるが、慣れた動作で抜き放つと切っ先を佐助の喉元へ向けて構えた。一足一刀の間合いよりやや長めに距離を取った双方による手合せが始まった。
*
(……やばいわ)
(めっちゃやり辛ぇッ!)
へばっている場面にしか立ち会って来なかった事が裏目に出た。常に音に聞こえしは無双の如き強かさ。それはどうやら法螺話ではなかったらしい。
踏み込みも、刀を振るう速さも、重さも、全てが全て相手に合わせて見事に調節されている。正確に推し測られたこそ、それだけ彼女は迷いなく振り翳せる。殺さず仕留める技術に特化した身にとっては、実は殺さぬより殺す立ち回りが圧倒的に楽にできるのだろう。
そう悟らせるような、大胆な動きの中に潜む隙のない精密な動きというものを身を以て佐助は体験している。
(朱音は本気がない代わりに、手加減することこそが本気の戦い……めちゃくちゃでしょ…!)
「って、うわッ」
「よそ見しないでください!散漫な意識で挑まれては加減するのが手間です!」
一息で最上級に罵られた。
流石に内心堪えるものがあったのか佐助はしっかりと間合いを取って構え直しはしたものの、心中では毒を吐く。
(くっそガキ、泣かしてやろうか!?)
手加減のエキスパート相手に手加減で挑むには分が悪いことはわかってきた。かといって本気でかかるわけにもいかず、どうしたものかと刃を交えながら思案を重ねる。
手を抜けないのだ。変に加減しようとすれば彼女の動きが疎かにした分を凌駕してしまい、痛い目に遭うのは佐助の方だ。全力を出してこそ、初めて彼女と均衡を保てるとでも言おうか。
急所に向けて絶え間なく攻撃を放つ朱音の動きを間一髪で躱し続けるのもしんどくなってきたのでいい加減抵抗から攻勢へ転じたい。そう思った佐助は忍術を用いる事にした。
突如、佐助から爆ぜるように現れた黒い影に驚いた朱音は素早く飛びのいた。
すぐに骸刀を構えたが既に遅い。
「「「分身の術」」」
僅か一瞬で朱音の周りを大勢の佐助が包囲していた。さっさと降したいのか十人と、一人に相対するにしては数が多めである。
「「「さあ、俺様と遊ぼーぜ、朱音ちゃん」」」
余裕の笑みを取り戻した佐助達が各々に飛び出した。
同じ体格に同じ武器。勿論動きも全てが同じ。本物を含めた分身を相手に息を吐く間もなく次々と攻撃され朱音は回避に専念するが不意の一撃が脇腹に入った。蹴り上げる動きに沿って身体は浮き飛ばされてる間に全方位から十発近くの打撃を喰らってしまった。
急所はギリギリ防いだものの、やはり多勢に無勢。しっかり距離を取ってから片膝を立てた状態でじっとそれぞれの佐助を観察し、先に喰らった攻撃の事も考えながら目を閉じた。端から見ればうずくまっているようにも見えたかもしれない。
「どうよ?持久力のないあんたにこういうのは厳しいんじゃなーい?」
もう降参する?と佐助達が歩み寄って来るが彼女の様子に変化はない。やがて閉じた瞳がスゥッと開かれた。
「降参、しませんよ」
次の瞬間には骸刀が手近にいた佐助の内一人まで一距離を詰めると喉元を貫いていた。そのまま横に流し、頚まで斬ると黒い影となって消えた。
佐助が事態を把握する前に今度は別の佐助の首を容易く斬り落としていた。その佐助も同じく黒い影と還り霧散した。
「……ここまでしないと、その分身は消えないみたいですから」
本物と同等の殺傷威力を持つ分身たちを排除する為には気絶程度の打撃では不十分と判断していた。言いながらも襲いかかって来た次の分身の攻撃を躱すと、まず手首を斬り飛ばし、胸倉を引き寄せると脚で首の骨を砕き折った。手際よい捌きによってあらぬ方向に曲がった首の佐助も一瞬後は影と消えた。
躊躇いのない、残虐な接待に佐助の顔が引き攣った。分身とはいえ知り合いが相手であることには間違いないというのに容赦がなさすぎる。
「……ねぇ、どれが本物の俺様かわかってるの?」
「わかってないかも、ですね?」
いたずらっぽい笑みが返ってきた。その様子では既に本物がどれなのか、しっかりと把握できているようだった。
「なんでそうもあっさり見破るわけ?流石に凹むんですけど」
分身術は手を抜いてないのに、と今にも頬をふくらましそうにふてくされる佐助が不満の視線を向ける。
対して朱音は、そんな事を言われてても感覚でわかるのだからしょうがないとしか返しようがないのだが、一応何故わかったのか自らを分析する。
「……さしけのこと知ってるから…ですかね、たくさん」
「は…?」
思わず何も考えずに言葉にしてしまったが、佐助の酷く驚いた表情を見て自らの発言の意味を理解したようだ。
一気に赤面した朱音は慌てて首を振る。
「か、顔を合わせる事が多いからです!お話しする事だって、何度もありましたし!」
極力表情には出さないように努めるが、佐助はこの時、朱音の言葉に確かに喜ばしく感じていた。やはり、彼自身の過去の面影と自然と投影されてしまったのだろうか。或いはそれすらも超えて目の前の人物に思うところがあるのか。
「……だ、だから、あなたがわたしを心配してくれてることも、わかっているつもりです」
「……そう」
「でも、そうだとしてもわたしは進みます」
「まあ、知ってたけどね。でもそれじゃ俺様嫌だから」
「わたしだって嫌です」
「それでこそ、だね」
仕切り直すように双方が再び間合いを取り、武器を構えた。
「さぁ、もっと俺様のお相手してよ、おひいさま?」
「……昨今の殿方は、随分とふてぶてしいのですね」
その声色に、その表情。そうして応じる。
珍しく、彼女が姫としての扱いを認めたやり取りであったという。
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