お料理しましょ
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翌日。いつもより早めの朝餉を済ますとうきうきしながら幸村が佐助に話しかける。
「佐助!どんな甘味を今日は作るのだ!?」
「いや…作るの甘味じゃなくて雑炊なんだけど。」
あの子の要望で、これから旅に出る時俺様の作ったのとおんなじの作れるようになりたいんだとさ、と軽く説明すると幸村は意外にもすぐにうんうんと頷いた。
てっきり甘味でないと嫌だ!などとごちりそうでもあったのだが。
「朱音は精進しようとしているのだな!その心意気見事なりッ」
「あ、そう解釈したのな」
「はっ!し、しかし…」
「なに?」
「朱音がここで作れるようになり、今後振る舞う相手といえば………」
みるみる眉間に皺が寄って行く幸村の表情を、見てて飽きないなぁと佐助は笑みを浮かべながら見守る。
「お市殿と………ま、前田殿…!」
(うわー…どんどん前田の風来坊を敵視しちゃってるよこの人)
まだ今は眠っているであろう朱音が発つまでのお寝坊居候二人の内、特に厄介な(と幸村が看做している)相手が前田慶次である。
初対面の際の例の状況がまずかった上に、その後も事ある度に朱音に馴れ馴れしく接する様子を目の当たりにしてしまっているため一向に関係の改善が見られないのだ。
「俺は朱音に甘味を食べさせたことないというのに!あの者は~…!!」
「…へぇぇぇ~、そいつはいけないねぇ」
「……待て、なぜそんな満足げな面をしておるのだ佐助」
「いいや何にもー?俺様も甘味は、あーんしてあげたことないなぁって」
「甘味『は』ってなんだぁあああ佐助ぇえええ!!」
*
「あらあら、男衆は今日も朝から賑やかですわねぇ」
「うぅ…。起こしてくれてありがとうございます、ひかり」
「いいえ。ねぼすけの朱音様にしてはよく頑張れました」
「えへへ…」
「さぁお顔を洗いましたら、少し何か食べてからお炊事場に行きましょうか」
親しい女中のひかりに手を引かれ、寝起きのままよたよた歩く朱音。
こうしてみるとまだまだ子どもに見えて仕方がないのだが、本人にそれを言うとひどく気にしてしまうようだ。
洗面を済ませて部屋に戻ってくると、差し出されたのは食べやすいサイズのおにぎりだった。
「中身はじゃこと佃煮ですよ。栄養満点ですからきっと背も伸びますよ」
「おいしそうです!ありがとうございます、ひかり!」
歳の割には小さな身長も気にしているらしく嬉しそうに返事をすると早速食べ始めた。
妹がいたらきっとこんな感じなのだろうとほっこり笑顔でひかりは見守る。
「あら朱音様、ほっぺについておりますよ」
「う、嘘ですね…騙されないですよ!」
「…?こんなことで嘘など言ってどうするのです?」
といいながら、すいっと頬からご飯粒を取ってみせると朱音は一気に慌てふためいて物凄い勢いで謝られたがもちろんすぐにやめさせた。
事情を聞けば、少し前にほっぺに餡子がついてるついていないでお市に弄られたとのこと。
あらあら、新しいご友人とも早速仲良しでいいですね。とひかりは頬をゆるませた。
本来の朱音は放っておけば延々と悩み続けるような性格と思われるため、多少そのペースを乱す事の出来るお方ならばきっと旅のお供として良い緩衝材にもなってくれるだろう。
「あ、あとですね、ひかり!…その」
「はい、なんでしょう」
「も、もし…さしけに教えてもらって、おかゆ上手に作れたら…ひかりにも、た、食べてもらいたい…です…!」
「まあ!是非そうさせてくださいな朱音様。楽しみにしておりますわ」
*
「おはようございまする」
「うむ!おはようござる、朱音!」
「無事早起きできてよかったねぇ」
「ひかりが起こしてくれたので抜かりはありません!」
「それ多分胸張って言うことじゃないと思うぜ」
「む、む…むnむ…」
「ああー!話こじれるからさっさとはじめちゃいましょうかお二方!」
本来の目的を果たすが為、佐助はさっさと二人分の割烹着をそれぞれに押し付けた。
受け取って袖を通そうとしたところで与えられた割烹着のある特徴に気が付いた。
「この割烹着には六文銭が刺繍されておる…佐助の手製か?」
「こちらには、お稲荷様の刺繍が…、あら、さしけは身に着けないのですか?」
「佐助ね。それどっちも俺様の私物だからあまり乱暴にしないでね、特に旦那」
想像の斜め上の回答だった。日頃から家事全般もお手の物といった様子ではあったが、割烹着すら手製のものを少なくとも数着は所持していたとは。
「今回は雑炊だし、滅多に汚れたりしないだろうから俺様はいらないの~」
これが歴戦のおかんの余裕か…。
茫然と見つめてくる二人の視線で佐助も言いたいことは察したらしい。
自分自身でも改めて自覚すると漸く恥ずかしさが沸き起こったようで、半ばやけくそになって佐助は手を叩いた。
「旦那がちゃんと身の回りのこと自分でやらないから!俺様が家事とか諸々出来るようになっちゃたんだからね!はいッ始めるよ!」
早朝のまだまだ心地よい風の冷たさが土間を吹き抜けていく。
大人しく割烹着を来た二人に佐助はまずは材料を机の上に一通り並べて説明をはじめる。
「今日作るのは朱音の要望の雑炊なんだけど、ちょうどもらいもののシメジが沢山あるらしいからそれも入れて作ってみるよ」
「きのこ!」
「まだ話終わってないからね〜旦那。で、雑炊は白米から作るから、昨日の内に仕込んだお米と一緒に野菜も、人参と葱を用意してみたよ」
「やっさいもっさい!」
「朱音お静かに。はい、調理始めますよー!まずは食べる分だけのご飯を水で軽く洗いますッ」
隙あるたびに言葉を遮って茶々入れられるため早口で説明するとさっそく調理に取り組ませた。おそらくじっと黙って聞かせているよりも手を動かさせた方が二人を指導するに適しているだろう。
さっそく山盛り…否、両手で抱えねばならないほど大きな飯釜ごと水で洗おうとする幸村を佐助は慌てて制した。
「話聞いてた!?食べる分だけって俺様言ったよな!?一食分だよ!?」
「応!これくらい常日頃から食しておるぞ!」
「そんなわけないだろ!旦那だけじゃなくてこの屋敷の皆の分も入ってんの!作りすぎちまうってば」
「あの、さしけ」
「佐助ですッ」
「この釜全てとは言いませんが、少し多めに作りたいです。上手にできたらひかりにも食べていただきたくて…」
「妙案でござる朱音!きっとひかり殿も喜んでくれよう!」
快く賛同をもらえた所で佐助の指示の元、幸村は渋々とふてくされたように釜から必要分を別の器に取り分けていた。
「まだ多くないか……まあ、余ったら他の人にも食べてもらうか」
「ならばお館様に!あとは怪我を負っている小助もだな!」
「で、ではお市様と慶次にもっ」
慶次、という単語が出た瞬間幸村が思い切りこの上なく嫌そうな顔をしたのを佐助は目撃してしまったが、朱音には伏せておくことにした。
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