12.送別と前進
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「起こってほしくなかった事が、そのまま現実になってしまったな」
そう語りかけても、大きな背中は何の反応も示さない。確かに常日頃から養父の様に口数は少ない人間ではあるものの、今はそれだけでなく、ただこの現実に打ちひしがれているようにも見えた。
「大丈夫か、忠朝…」
「………わかっている」
予想通り豊臣軍は同盟関係にある徳川軍に南下の命を下した。最南端に潜む豊臣への対抗戦力を潰せという内容だった。
最南端・薩摩の地。
本多忠朝が原隼人であった頃の、遠い過去が身を寄せている場所。
十年以上隔たれていた兄妹に残酷な現実が訪れた。もたらされたのは敵対関係だった。
徳川に拾われた頃の忠朝は、父も妹も家の皆も見殺しにし、自分だけが逃げ延びたと言い張り心を閉ざしていた。戦う理由はお家の皆の為、とりわけ戦に怯える妹の為だったのに、と何度も何度も自分を責めては陰で泣いていた。
その戦う理由と忠朝は敵対する事になった。
「無理をすることはないんだぞ、」
「馬鹿にするな。俺は、今は徳川の人間だ。こんな事は、理由にならない」
背を向けたまま言い放った忠朝の気配は酷く荒れていた。一度全てを失ったからこそ、周囲から一歩引いて常に冷静に振舞って来ていた最近では久しく見ない姿だった。
ただの強がりにしか見えない様子に儂も少し煽るように言い返した。
「そんな気持ちのままでは、きっと後悔する。彼女を手に掛けることなんて、できないだろう」
「――――俺をなんだと思っている…!」
「忠朝!自棄になるな!お前は自分に嘘がつけるほど、器用な奴じゃないだろう!」
拳を握り締めて、声を震わせて。そんなとても人間らしい姿をしていた。
嘘がつけない素直さはやはり以前共に大坂散策をした彼の妹の雰囲気ともよく似ていた。
純粋な者から傷つけられていく、こんな時代。
「………好き勝手言ってくれるじゃねぇか、家康」
「すまない。だが無理に自分に嘘を吐き続けるよりずっといいだろう?お前みたいな清い奴には遠回しに告げる必要はない。なぁ、忠朝、本当に…」
「俺は徳川軍の人間として戦場に立つ。あいつがいようと、俺は、」
「お、おい…!忠朝!」
「うるさい。ならお前の言葉を使う。………徳川でのキズナが、今の俺にはある」
最後までこちらを振り返る事無く、忠朝を陣幕から出て行った。
儂が謳う『絆』という言葉を隼人は終ぞ口にした事などなかったというのに、こんな事態になって漸く言ってもらえるとは。純粋な喜びと、僅かな照れくささと、絆が故の相容れない矛盾の現実を思い知った。
ああ、本当に。どうして、儂はこんなにも無力なのだ。ずっと共に過ごしてきた大切な人ですら、穏やかに笑ませる事も出来やしないのか。
「――――ッ、…ッ!」
思考に沈みかけていると陣幕の向こうで忠朝と、聞きなじんだ機動音が耳に入ってきた。
どうやら忠朝の様子を察して養父の忠勝が例の激励術を以て励まそうとしているようだ。
優しく高揚した音色に、圧され気味の怒声が響いてくる。
やめろ、やめろ、とうさん。俺は何事もないから、離せ、抱き上げるな、と幼い頃から寸分違わぬ解放を要請する必死な声が、儂の心をも和ませる。本人にそれを言えば酷く怒られるが。
「……はははっ、しょうがないなぁ。」
儂もこの本多親子に元気をもらいに行こう。そう思い、陣幕の外へ出た。
「お、おい!何お前まで一緒になってやがる家康!あ、頭掻きむしるんじゃねぇッ!」
「何を。儂も撫でているだけだぞぉ、な〜忠勝!」
『ぎゅぎゅいーん』
「この…お前らぁ…ッ!」
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