6.備え
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「止めても無駄のようだな」
「しっかし本当に珍しいことだぞ?サヤカがこんなに他人を目に見えて気に掛けるなんてよ」
長曾我部領―――四国へ旅発つ時を迎えた。孫市は最後まで朱音の様子を心配し、港まで見送りに来てくれた。
手土産に持って行けと短筒も一丁渡され、おまけというには多すぎるほどの補給弾までもらってしまった。
「大変お世話になりました。感謝しきれません、雑賀さま」
「発熱による一連の症状は完治しているようだが、左肩はまだ時間が掛かる。常に姿勢に気を払え」
「は、はい」
「口うるせぇ母親みてぇだ」
孫市の鉄拳は容赦なく元親の頭蓋を抉った。かなり痛そうな音がした。それでもお互いの事はよくわかっているのか、元親はへへ、と少し照れくさそうに笑う。
「いいか元親。いよいよお前も己が窮地に立たされていることを自覚しろ!お前たちに火薬を提供した我らの評価を貶めるような真似をしたらどうなるか…」
「あ、ああ、わぁってるよ!ありがとな、サヤカ」
懲りない一連のやりとりにじろりと睨まれて元親は慌ててそっぽを向いた。
「………朱音、」
元親へ呆れたように息を吐いた後、再び孫市は朱音と向き合った。
そして身体の各部をいくつか指し示された。
首、右の肋骨の下、左肩…いずれも大きな怪我や傷痕を残している部位であった。
「お前の生き様は………」
伝えるはずの言葉はそれ以上続けられなかった。
目の前にいる少女が最も指摘を恐れる内容であったことは承知していた。本人に自覚するのを拒んでいるのかもしれない、とも。
孫市はらしくもなく、遠まわしに告げた。
「お前は他人を助ける人間であるからこそ、他人を頼ってみるがいい。お前はこれまでの人生でそれに値する行いをしてきているのだから。隣に立っている奴もだらしないことも多いが、根は悪い奴ではない」
「だ、だらしねぇだと!そんなことはねぇぞ、俺は海の男にしてこの身も心も広い大海原同然だ!いくらでも頼れよ、朱音」
己の胸を強く叩いて、にんまり笑顔を浮かべる元親に今更圧倒されたらしく朱音はすばやく頷いた。
「昔は姫装束なぞ着て屋敷に籠っていたというのに…」
「ああ"ーッさぁ行こうぜぇ朱音!!」
はやくはやくと背中を押され流されるように朱音は進みだした。
…どうやら双方は昔からの付き合いがあり、それなりに弱みというか、過日よりの姿を知っているようだ。成長した後もそうした話をできる相手は自らの軌跡を証明してくれる人でもあるということ。少しだけ羨ましく思った。
その時、取り残されて冷たい雨の中で泣き崩れる幼子が脳裏によみがえった。
そんなつもりはなかったのに、と。思わず身が竦んだ。
「ぎゃっ」
相変わらず船の方へと背を押していた元親の腕力に負けて前のめりに転倒してしまった。
「お、おお!?すまねぇ朱音!だいじょ…」
「元親!貴様この娘の容体を知らいでか!」
少し離れた所にいる孫市からの怒号を浴びせられ更にあたふたし始めた元親。朱音も振り返ると案の定孫市は銃口を元親に向けていた。恐らく冗談ではあろうが元は己の不注意であったため、すぐに場を収めようと声を上げた。
なんとか孫市の気は鎮めたものの険しい目つきのまま元親を視線で射抜く。
「おっかねぇなぁほんと…」
「元親!」
「ぅおぉ!?な、なんだよ」
「――――――その娘、必ず守れ。我らの火薬たちを信じ存分に戦ってこい!」
「……おうよ!任せておけ!」
男顔負けのさながら漢。胸を張り激励の言葉を贈るする姿はどこまでも凛々しかった。
元親も大きく拳を振り上げ不敵に笑ってみせた。
*
「水はこわくない、水はこわくない……」
「どうした?まさか船酔いでもするのか?」
「い、いいえ船酔いはしませんが下方に広がる大量の水を見るのが少々…」
「よくわからねぇが、大丈夫なのかよ」
「ええ、きっと大丈夫です慣れてみせます!」
さあ、出港のお時間です。
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