4.おもかげ
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「は、半兵衛様…!!」
聞きなじんだ声が少し震えている。まるで困惑しているかのように。
半兵衛が目を覚ますと声の正体である石田三成が不安そうな表情で顔を覗き込んでいた。
何故自分はこの自室で眠っていて、三成に心配されているのだろう。記憶を掘り起こそうと頭を回転させる。
「……そうか、あの場で倒れたのか」
ぽそり、と思い出して呟くと三成が身を乗り出してきた。
「大事ありませんか、気分はまだ優れませんか、どうか安静にゆっくりと……!」
「大丈夫だよ三成君。ありがとう」
半兵衛の顔色を窺ったり額に手を当ててみたりと甲斐甲斐しく世話を焼こうとする心優しい部下に、つい頬が緩む。
しかしすぐに、倒れた時の状況を思い出し顔を曇らせる。
「………あの子に、ばれてしまったかな」
「半兵衛様?」
座敷牢から出て、見張り番達が半兵衛を運んでいる最中に遭遇した三成はそれまでの経緯を知る由もない。
ふるりと緩やかに首を振ると、半兵衛は静かに忠告した。
「三成君、毎度の事だけど…僕の身体の事を、秀吉には………」
「しかし、」
「僕が万全な状態ではないことが彼に知れてしまえば、軍事に支障がでる。秀吉の天下が遠のいてしまうかもしれない。それは君も本意ではない、だろう?」
「………半兵衛様…」
まるで重い重い鈍で出来ている物を動かすかのように、三成は首を縦に振った。
ただ純粋に。目の前にある事だけを見つめることができる。
一瞬一瞬の全てに実直に立ち向かう。
後先考えないその姿勢は、最終的には愚に陥るかもしれない。
実際そんな姿勢の敵が現れれば、間違いなく自分はそう指摘するだろう。
けれど一方で、自分には決してできないことでもある。
嘲る一方では、どこか惹かれ、憧れて、羨ましく思う面もあるのだろう。愚かにも。
「美しいね、三成君は」
「半兵衛様や秀吉様の方が私などよりずっと美しく、気高く、聡明で素晴らしく……」
「わかった、わかった」
******************
「ところで、家康様」
「ん、なんだ?」
「ここに来ても大丈夫なのですか?」
ここ、というのはこの座敷牢の事である。
以前何故か迷い込んできた官兵衛はともかく、こうも気軽に出入りしても場所なのだろうか。
一応朱音の扱いは人質。
確かに進んで会いに来る必要がある人の方が少ないとは思うけども。
素朴な疑問を訪ねると、家康は頭を掻きながら答えた。
「いや……多分、勝手に入ってはいけない場所ではあるんだろうがな。でも、この場所自体は前から知ってはいたし、もしかしたら朱音殿がいるかもなぁ、とは思って確かめてみたかったんだ」
さっき通りかかった時、ちょうど見張りがいなかったから入ってみた!と笑い飛ばす家康に朱音は唖然とした。
「それ、はやく出た方がいいのでは…!」
「ああ、言われてみれば確かに…」
「ここで何かあって、今後に支障が出てはいけません。どうかお急ぎを」
「……うーん、名残惜しいがそうした方が良さそうだ」
ひょっ、と立ち上がった家康はニッコリと笑顔を向けた。
光のあまり届かないはずの座敷牢を心なしか照らしてくれた気がする。彼の周りの人たちとの話は聞いていて本当に、朱音の心は穏やかな気持ちになった。彼自身がまるで太陽のようだった。やさしい陽の光。
「朱音殿だって、儂の心を照らしてくれたよ。ありがとう。本当に感謝しているよ。また会おう」
「はい、お気をつけて」
家康はたくさんの悲しみを抱えながらも明るい笑顔を振り撒いて、皆が笑っていられるように頑張っていた。
その姿勢に朱音は尊敬もするが、心配も抱かずにはいられない。
抱えに抱え続け、いつか一人で倒れてしまわないか。過去の記憶のその姿を見ているようでどうにも落ち着かなかったのだ。
けれど、話し合ったことで少しでも彼が苦しみが和らぐような手助けができたというのなら、それは家康にとっても朱音にとっても喜ばしいことだ。
………誰かと共に生きるとは、そういう事なのだろうか。
(それを一生懸命教えてくれようとしたのは、)
(………会いたいな…)
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