4.おもかげ
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やさしい子だ、本当に。
私の腕の中で眠るまだまだ幼い娘。さっきまで一緒に鍛錬させてくれなきゃ離れない!と根気強く駄々を捏ねていたのだが、力尽きてしまい現在の有様だ。
武士になりたい理由を聞けば、ただ「守れるから」と言った。
この歳で生の無常を、不可逆性、無二性を覚えているのかもしれない。
焦燥か、危機感か。幼い心の中に年齢不相応な感情が既に強く根付いてしまっているらしい。
なぜ、と疑問に思っても納得できる根拠、原因は見つけることができず、きっと生まれつきそういう子であったとしか言い様がない。着飾って家の中で大人しく生きる模範的なお姫様になる気もさらさらないのだ。
別にガサツだって思ってるわけじゃないよ。ほら見て寝顔はこんなにかわいい。かわいいでしょう、愛いでしょう。
「何をニヤニヤしてんだ気持ち悪いぞ」
「そういうお前はまた声もかけないで入ってきて」
「かけた。親父が聞いてないだけだ」
鍛錬後だろう、胴着姿のまま入るや否やぶっきらぼうにこちらへ足を運んでくる、この子の兄。私の目の前まで来るとどっかり腰を降ろした。
この子もまだ十代前半だというのに、無性に大人びた威厳というか頑固そうな雰囲気を醸し出している。元服してからは更にその堅物感が増したような…まだ若いのに数十年後の姿が既に見え隠れしている気がしてならない。
娘とは対照的に備えた鋭い視線(本人は睨んでいるつもりはない)を腕の中にいる娘に向けた。
「で、どうしたのかな」
「そのチビの事だ」
「ああ、私の所に来る前に『兄上とけんかした』って言っていたよ」
「そいつが悪いんだ」
相変わらずの二人にほほえましくて思わず笑みをこぼした私には当然不機嫌そうな視線を寄越してくる。
「お前は何とも思わないのかよ」
「あんまりがさつな呼び方はだめだって言っているだろう、もう」
「だったら真面目に答えろ」
「私だってこの子を戦に出すつもりはない」
「………当たり前だ」
娘、彼とっては妹に対し険しい視線を送りながらも、どこか案じている。なんだかんだでこの子も家族を大事に想う優しい子だ。
だっこする?おにいちゃん、と娘を抱える腕を差し出すと、眠っているおかげか素直に受け取った。
「ちーび、ちーび」
「その照れ隠しは怒らせるだけだと思うよ…」
眠る娘の頬をぷすぷすつつく息子。刺激に反応したのか娘が若干身をよじらせた。
「でもね、」
ふと、声を低くした私を息子は静かに見上げた。
構わず、続けた。
「止められない気がするんだ。私も、お前も、」
「…知るかよ」
「お前はそう言うだろうね。けれど…この子からは……、この子の様子では…」
「………」
「戦って守るのが当然。その為に自分を犠牲にするのは自然な事だって主張したそうな、雰囲気が、ね」
「………」
「自分を犠牲に、ですらなく、まるで戦う自分を物の数に入れないで考えているみたいなんだ」
「……なぜだ」
息子は明らかに怒りを込めながら、私を睨んできた。
私にだってわからない。
戦って守って死ねるのならば本望。いや本望ではなく………それが当然なのだと、本能で考えているのだろう。
戦で回る世界を認知しているが故に、個人の力が世界と対峙するには如何に弱く、虚しいものであるか、そう捉えてしまっているのかもしれない。
「………だからそうならないように、そんなことにさせないように、私達がこの子を守らなくてはね。」
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