7.前日・夕
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―――誰かが、自分の側に居る……?
朱音は意識をゆっくり現に戻していく。
知らない気配じゃない。
自分が知っている気配。
誰……?
まだ少し重い瞼。
ぼんやりしてて気配をしっかり特定できない。
朱音の頭に大きな手が載せられた。
優しく頭を撫でられているような。
また、あのよくわからない感覚が、身体の中で疼く。
必死で気配を特定させる。
誰だ、誰なのか。
(幸村…?ひかり……?…………ちが、う……さしけ!?)
そう認識した瞬間、朱音はバチッ!と目を開けた。
目の前に広がったのは最初に見た時と同じ寝ぼけ眼にはやや眩しいくらいの、橙色。
「………起こしちゃった?」
唐突に目を覚ました驚きに若干反応が遅れながらも佐助は朱音の顔を覗き込む。
「さしけ……」
「佐助だっての。またそんな呼び方して」
愚痴る様に言う佐助を無視して何故彼が此処に居るのだろうかと朱音は疑問に思う。
そうしていたら、独り言なのか勝手に佐助が喋り出した。
「……全く、また急に倒れたって聞いたからこっちはすっ飛んで来たっつーのに」
(…倒れた、来る?)
何を言っているのだろうか。それは朱音自身の事を言っているのだろうかと当人は首を傾げてみせた。
「……それがし、倒れたないでござる」
「は?」
まさか、相槌が返ってくるとは思っていなかったのか佐助は面食らっていた。
「……言葉、随分わかるようになってたんだね」
ぽつりとそんな事を呟いた。
俺様の居ない間にこんなにも、と。
それがしやござるが最早当たり前のように口から出てくる所からして幸村が朱音の側に一番居て彼女に大きな影響を与えている(主に口調)いうのはすぐに確信した。
(今更だけど……女の子がござるはどうよ、旦那)
心の中で主に突っ込んでいるとこちらに向かってくるひとつの気配を察知した。
噂(?)をすればまさになんとやらである。
スパン、とこの部屋の襖が開いた。
誰の気配かは既にわかって居たのか朱音も落ち着いて二人同時にそちらに視線を向けた。
「………む、驚かそうと思っていたのだが…」
案の定、幸村が立っていた。
何を思ったのか二人を驚かそうと、らしくもなく、忍び足でここまで来ていたらしく少し残念そうにしている。
「旦那の気配はわかりやすいの。ほら、朱音にさえバレてたじゃない」
佐助が呆れた様に言うと幸村は少しむくれて言葉を返した。
「~ッ朱音は人より気配に敏いのだ!大体佐助の気配だってわかりやすいぞ!!」
「俺様はちゃんと忍ぶ時は忍べてるんですぅ」
忍に向かって気配がわかりやすいと言うのはどういう了見だ。でも待って、今のわかりやすいって本当?と思わず嫌な汗が背を伝った。
「…なんか旦那、最近口悪くなった?反抗期?」
「気のせいでござる」
「そうなんだ……」
自覚があるのか否か幸村の笑顔は不自然に晴々としている。
「……して、朱音。佐助に会えて良かったな」
「…!!」
「え、何。俺様が何なの旦那」
佐助が不思議そうにしていると、
「幸村!朝は違う!!違うでござるー!!」
今度は朱音がぷんすこ!と腕を振り幸村に必死に抗議している。
しかし幸村は幸村でなんだか楽しそうに朱音と佐助を交互に見ているだけ。
「佐助、朱音は最近お前の姿を見ておらぬ、と心配しておったのだぞ」
「幸村!!」
「は?」
まさかの主の言葉に佐助は思わず言葉を失った。
朱音が自分を心配……?本当に?と。
佐助は首を捻る。
「ああ、それでは少し語弊があるな。『心配』という程までではないが……気にはかかっていたようだぞ」
「……敵意ばかり向けられるモンだから俺様てっきり」
「本当に嫌悪しておれば朱音はお前を気にかけはせぬであろうし、ましてや気配を感じた瞬間から逃げ出すはずだ、」
朱音をよく見ているのか、まるで分かりきっているといった様子で堂々と幸村は言ってのけた。
「………」
朱音の事にも驚いているがまさか幸村が彼女の性格を把握するほどまでに側で面倒をしっかりみていたとは思っていなかったらしい。
否、あの熱血でお館様しか見えていなさそうな幸村なのだから佐助に限らず屋敷中の誰もがそう思っていたのかもしれない。
押し黙っている佐助にをよそに、幸村は朱音の方へ身体ごと向けて向き合った。
「朱音、目を覚ましてくれて良かった。心配したのだぞ!」
「ゆき…!………?」
佐助に話された事が恥ずかしいようで朱音はぷんぷん怒りながら幸村と視線を合わせたが、彼の雰囲気が少しいつもと違う事に気付いた。
*******
朱音は今朝、空き時間にひかりと笛の稽古をし、やがて来た薬師の診察を受けた。
薬師は少し驚き『物凄く回復がはやい』と言ったそうだ。ひかりが朱音は毎日止めても聞かず元気に屋敷中を動き回っている、と告げると薬師は更に目を丸くし、何とも面白い面をしてくれたらしい。
『あ……有り得ない…それでこんなにも順調なのか…?』
『それが多分朱音様なのですね』
『それがしは〜元気〜!』
薬師はとりあえず、いつも通り塗り薬など数点朱音に渡して頭に大きな疑問符を浮かべたまま戻っていったのだとか。
そこまでは良かったのだ。
薬師が部屋から出て行って間もなく、朱音は疲労が来たのか強力な眠気に襲われ、こてんと眠りだしてしまったらしい。
最初はただの仮眠だと思っていたのだが、午の刻を過ぎても目を覚まさないので流石にひかりは不審に思ったらしい。
そこで彼女は幸村を探し出し、報告した。
しかし幸村は戦の準備の最後の確認をしており中々暇を見つけられなかった。
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