4.『名前』
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「名だ!名前でござる!」
「え、何。どうしたの旦那?」
唐突に声をあげた幸村に佐助は聞き返した。
「だから、名前だ!このおなごは記憶が一切ない。故に名すらもわからぬ。呼ぶ時に困るであろう!」
「…まぁ、確かにそうだけど…」
「ゆえに名が必要になるのでござる!」
「う、うん………で、その名前は誰が決めんの?」
何だか幸村は目を爛々と輝かせ楽しそうだ。そんな様子を見て、聞かなくてもわかるが一応佐助は訊ねる。
返答は案の定。
「俺と佐助で決めればよかろう!」
「ほらな」
「何がだ?」
「いや、なんにも……まぁ実際決めないと困る訳だし」
じゃあ旦那はどんなのがいいの?、と問いかければ
「うむ…ここはお館様に、ちなんで――『館(やかた)』などどうであろう!!」
眩しい笑顔のまま幸村が提案すると佐助の表情は凍りついた。
「それ、明らかにおかしいでしょ!」
ありったけの気力で思い切り突っ込んだ。
いくらなんでも短絡的すぎると頭を押さえた。
「な、何故だ佐助!お館様から館という字を拝借して――」
「この子は女の子!というかまずそれは人に付ける名前として相応しくない!それに呼ぶ時に『館』とか、『お館』とか大将と普通にかぶって紛らわしいでしょーがッ!!」
な ん と !
幸村の顔がこれでもかというほど驚愕に満ちる。
そして指摘を噛みしめるように目をギュッと閉じて再び拳を握りしめている。
「確かにそうでごさるな…!でかしたぞ佐助!」
「でかしたっていうか……」
(どんだけ大将好きなんだこの人…盲目すぎるだろ)
度の過ぎた、むしろ幸村固有の尊敬する師匠フィルターを理解できず、佐助はため息をついた。
「では、如何な名にすべきであろうか…」
幸村が唸りだす。
いつのまにか少女は言葉を交わす二人の顔を交互に見ている。
本気で会話の意味がわかっていないのか、自分にまつわる内容に踏み込んで来ない。興味深そうにきょろきょろ見ているだけだった。
やがて幸村が思いついた!とでも言いたそうな表情で口を開いた。
「……『団子』!」
「はい?」
「だから、団子という名はど「駄目に決まってんでしょーが!!」
「なに…!……ならば『餅』!」
「駄目ッ!!」
「『わらび』!」
「それも駄目ッ!!」
「『よもぎ』!『餡』!!」
「旦那、もう食べ物から離れて!」
「い、いやしかし…餡なら響きが辛うじて女子らしくはないか!?」
「この流れで出たモンに納得できるかぁッ!」
自由奔放な幸村に佐助がうがーっと唸って頭を抱える。
どれも安易(?)かつ、甘い物だらけの名前だ。………ある意味幸村らしくはあるが。
「ぬぅ、佐助ッ!先程から文句ばかり申すな!!お前も共に考えるのだ!!」
逐一いちゃもん付ける佐助にも手伝わせるつもりらしい。
「こりゃあ長くなりそうだな……」
主のネーミングセンスに呆れつつ、佐助は結局付き合う事になる。
名前はこの上なく大事なものだ。それをちゃんと理解しているが故に。