21.枷とおわり
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《辛くてもね、私達はそうして生きて行かなきゃいけない。》
《過ちを犯せば、それだけの代償が訪れる》
《それが今のこの時代の風潮であろうと、必ず、いつか》
「………」
誰だろう、今の声…。
「………」
聞いた事がない。
この甲斐に居るときには聞いた事のない声……のはずだ。
「………知ってる。それ、がしは……」
「なにか……大切な事が……」
「朱音、こら朱音!」
真っ暗な世界。頭上にはぼんやりとした半月。いや、ぼんやりしているのは自分の頭の中か。
しんとした夜半の間、肌に冷えた空気が微かに刺さる。
ゆさゆさ身体を揺すられてる感覚で意識を引き摺り上げられた朱音は、のっそりと自分の上にいる橙色の光の様な頭髪の持ち主を見た。
「さし、け…」
「佐助ね、アンタなんでこんな外で寝っ転がってんのさ!部屋すぐそこでしょ!」
軽く説教をかまされつつも朱音は頭の中で状況整理をした。
本当だ。ここは自分の使っている部屋からすぐ近くの庭。あまり覚えてないけど、確か部屋で寝てるのに飽きて外に出たかったんだと思う。
「大人しく寝てなさいって旦那達にも言われてるでしょう!竜の旦那だって今はちゃんと寝てんだぜ!?」
「……むー!さしけはうるさいでござる!」
このままでは本格的なお説教に入りそうなので反抗してみる。お陰で少しずつ頭が冴えてきた。
佐助と朱音。仲は悪くないのよ。良くないだけで。
既に夜も深く、それこそ宵闇に染まるの者の活動時間だ。
幸村達はとうに寝静まっている時間帯なのにこの少女は部屋から脱け出して庭先でそのまま……また力尽きて寝ていた、という。
(あんだけ言ったのに、なんっつー手のかかる……)
佐助は疲れた顔で額を片手で抑え、そのまま朱音に説教垂れる。
「口答えしない!ほらもう部屋に…」
「……、さしけ」
「だから佐す」
「そなた、怪我はよいのでござるか」
「………、」
唐突に言われて、まさかと佐助は思ったらしい。
なぜなら朱音に自身の怪我の事は言っていないのだから。
(というか、ウチの忍衆でも大半は知らないはず。旦那や小助には知られてるけどこんな状態の朱音に教えなさそうだし……)
ならば何故?
とりあえず顔がひきつらないように笑顔を貼り付けて訊ねてみた。
「あっれぇ?朱音ちゃんたら、そんな話どこで―――」
「誰からも聞いておりませぬ。さしけの『足音』でござる」
「足音…?」
「足音は皆それぞれ異なった音がするでござる。………ここ数日のさしけの足音はいつものものとは明らかに違っていたでござるゆえ」
足の重心の掛け方が僅かに、しかし確実に偏っていた。だから恐らく……怪我でもしているのではないか、と。朱音はそんな感じの内容を説明した。
「………ご名答」
佐助は素直に認めた。なんかもう色々諦めたらしい。
両手をあげて所謂降参ポーズをした佐助の顔に朱音はゆっくり手を伸ばして頬に触れる。
「それで、ぐあいは?」
「……大したことないってば」
「『しのび』が怪我を悟られるていどの痛み、でござるか」
(……げぇ、)
流石幸村2号。
皮肉っぽい言い方が実に様になってる。けれど実は今回は素直に思ったことを口にしただけで実は悪気はなかったという。
「脇の、お腹……でござるか」
「え、え、ちょッなんでそこまで!?」
「今のさしけの姿勢のかたむきでござるな。」
つーか鋭すぎるだろ、この子。
いっつも人の話聞かないで勝手な行動ばっかして、変な渾名つけてきたり、旦那と組んでからかってきたりするけど……
それでも、確かに在るんだ。こんなにもう、分かりやすい形で。
(もしかしたら、それもじきに…)
最近の様子からして、朱音は明らかに自分自身でも“違和感”を感じている。
それが示す事とは……と幾分真剣な顔つきになった佐助は訪ねた。
「朱音」
「なんでござるか、さしけ」
「だから佐助ね。―――朱音はさ、どんな先が、いい?」
それは、忍らしくない質問だった。
「さき?」
「未来って事」
みらい……、と呟き不思議そうに佐助を見つめながらも、一応は考え出した。やがて、出てきた言葉は彼女らしいものであり、また世間一般のそれとも同じであった。
「みなが、いきている。こと。いなくなるのは、……」
常識なんて知らない。
情勢なんて知らない。
天下なんて知らない。
ただここで立ち尽くして唯一、何よりも望む。
「ね、それってさ、自分もその中に、ちゃんと入ってる?」
「む、?」
どうせ自分が長々と説明しても無駄になろう事がわかっているので佐助は必要な事だけを告げる。
「独りで生きられる人間は絶対に居ない、んだとさ」
さーてこれは誰からの受け売りだったかと、抱える少女に対し作り笑いを張り付けながらいつしかの言葉を口にした。
しかしすぐに我に返ったのか、佐助は朱音を横抱き抱えて立ち上がった。
「……って雑談はここまでにして!さあさ、戻りますよ姫様」
呆然としている朱音をよそに佐助は抱き上げた。
朱音よりは酷い怪我ではないのだからと…少しだけ見栄を張りさっさと部屋へ送り戻す。
「それがしは、姫ではごさらぬ!さしけ、怪我ー!」
佐助に揺られながら朱音は珍しく……はなく、いつも通りに佐助の言葉に噛み付いてきた。
姫扱いの何が不満なのか。白々しかったせいだろうかと思い佐助は適当にあやす。
「はいはい、大人しくしよーねー朱音ちゃん」
「がぅっ!がうがう!」
「あ、バカ!ホントに噛みつかないの!」
多分、こんなやりとりも、もう間もなくと。
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