23.目醒め
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「そうか。その様な事があったか…」
「はいでござる、お館様」
「はっはっは!まこと愉快な奴等じゃ!」
今では少し前の出来事になる真田主従と伊達主従であった昼寝一悶着を聞いてお館様は盛大に笑い出した。
豪快な様子に朱音もつられて微笑んでしまう。
「それで、終いにはどうなったのじゃ?」
「はい、皆で仲良く、とひかりが申したので皆で仲良く『かわのじ』で寝ました!」
「ぶぁっはっは!ひかりもやりおるのぅ!」
幸村+政宗+佐助+小十郎で横になった昼下がり。
どんなシチュエーションだ。因みにその時にひかりに手伝ってもらいつつも小十郎の誤解はきちんと解いておいた。
なんだかんだでわかっているそのひかりだけは一緒に寝なかったが、代わりに釘を4人にきちんと抜かりなく刺して部屋を後にしていた。
「まこと、朱音は力の持った面白き子じゃな。」
「おほめにおあずかりこうえいにござる!」
えっへんと胸を誇らしげに張ったものの実際褒められているのか微妙な言葉だったのだけれども、残念な事に今のこの場には二人しかいない。即ち突っ込み不在の状況である。
今、朱音は呼び出されてお館様のお部屋にいるのだ。
外は重い雨。それまでは雨の中でも槍を振るう幸村と一緒に居たがやがてひどくなった時に部屋に戻った。それからは暇を持て余していたから丁度よかった。
あの一悶着からはいくらか日付がたっていて、佐助も政宗もそして朱音自身の怪我もだいぶ良くなった。
そして先程、佐助は付き添いというお守り役を担わされた小助と共にこの雨の中何処かへ出かけて行った。佐助が出かけると聞いて朱音がややふてくされたというのはまた別の話。
幸村は今……どうしてるだろうか。きちんと雨に濡れた身体を拭いただろうか。
「それで本題じゃが……朱音は最近変わった、とその幸村から聞いておるぞ。何事かあったのか?」
優しい笑顔で話してくれるお館様に朱音は素直に答える。
「……はい、それがしは甲斐の人は、まことに、好きでござる。その皆は辛い目にあうのは嫌でござるゆえ、『今』それがしはやれる事をやるのでござるます!」
まだまだ拙い所が残る言葉でもお館様はしっかりと汲み取ってくれたらしく、傍に来て朱音の頭を撫でくれた。
混乱していたこの間とは違い《あの感覚》は随分と落ち着いて、今は誰よりも大きな手が心地よい。
「そうじゃな……良い心構えじゃ。これからも、何があろうともそうあれるとよいな」
「はい、でござる!」
「……たさまぁ、―――お館様ぁー!」
二人が和んでいたそんな中。
甲斐領の村人と思われる、雨に打たれてびしょ濡れの男が部屋に駆け込んできた。
朱音が拭くものを借りてその場に戻って来た時、お館様もとても苦険しい表情を浮かべていた。
「竜王の堤が………ううむ…」
「あ、あの、お館様。何があったでござるか…?」
布を男性に渡して、背中など彼の手の届き難い場所を拭くのも手伝いながら尋ねればお館様に手短に事情を伝えられた。
「ならば、それがしも、おてつだいするでござる!」
今や豪雨と言えるくらいに激しくなったこの大雨で武田が長年かけて造ってきた堤防、竜王の堤が崩れかけている。このままでは水害となり村や畑が危ない。だから先程の人は助けをお館様に求めて来ていたのだ。
武田が危ない。領地も領民も、皆が危機に瀕している。
ならば自分も出来る事をしたい、と朱音は決意を示した。
「しかし危険じゃ。それにお主は…」
「いいえ、怪我は本当に大丈夫でござる!幸村達に何度も言われて……ちゃんとわかったでござる!」
背筋を正して誤魔化そうとする素振りもなく頼み込む朱音にお館様は驚いたように少し見つめたが…ゆっくりと頷いてくれた。
「ならば資材を携え行くぞ、朱音!幸村達にも知らせよ」
「はい!」
馬の繰り方を知らずにいる朱音はお館様の馬に乗せてもらい、お館様の前に座って堤防に向かった。
そのかわりその腕に沢山の資材を抱えて一刻も早く堤防につくのを祈り前方を瞬きすらも惜しむように凝視していた。
やがて到着し、目の前の堤防はとても大きかった。
状況を尋ねるべくお館様はすぐに人々に声をあげた。
「堤はどうか!」
「なんとか、持ちこたえていますが…!それにしても竜王の堤がかように脆弱なはずがございません!!」
「考えたくはありませぬが……何者かが事前に何らかの細工をしていた疑いも…!」
「!!」
うそだ。と朱音は驚愕した。
この堤は人々を水害から守るもの。それをわざと脆く劣化させるような事を……!?
どうして?そんな事したら…!
不快感を隠せなかった。しかし今はそれを考えている場合ではない。
「今は何としても決壊を防ぐのじゃ!」
「はい、お館様!」
武器を持ったお館様と共に下に降りて、決壊を防ぐための手伝いを始めた。
込めた力の長時間持続は朱音にはさすがに出来ない。だから自分に出来るのは支える木や石などを他の人に手渡すことを中心とした後方支援に徹することにした。
「急げ!決壊はまだ防げる!」
一心に堤を支えるお館様の姿に活気を取り戻した村人と共に行動しながら、考える。
幸村達にはさらに資材を持って来るように伝えた。到着までもう少し時間が掛かるだろうが、きっと幸村達もくれば堤はなんとか……
そこで朱音の思考は、ぴくりと止まった。強制的に、まるで引き寄せられたように、かつてないほど強引に。
―――――気配だ。一つの気配。
普通とは違う《あの時》の気配。
―――違う、あの人だけは、違う!
こんな、こんなので…××のだけは、ちがう…!
それは、何ともおぞましい感覚。
その正体を見つける為に朱音は気配を感じる方―――先程お館様と共に降りた崖を見上げた。
そこに、居た。
暗雲により黒く暗く落ちた視界にでもしっかり捉えた、銀髪。
―――ギチ
「…!?」
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