22.瞬き+蒼
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「………ねぇ、ダンナ」
「なんだ佐助」
「これ、どういう風の吹き回しなのかねぇ。……ほいこら、どうしちゃったのよもうっ」
「………」
べったり、ではなくぴったり。
己に対し基本口を開けば、トンチキ渾名もしくは皮肉を飛ばしてくる筈の少女は現在、怖いくらいに無言を決め込んでいた。むぎゅー、と佐助の服を引っ張り、身体ごと抱きしめながら。
偵察から帰り、報告も済ませ様子を見に行こうとしたら逆に迎えに(待ち伏せ?)来られ、こんな状況に陥った。
「朱音〜?ホントにどうしちゃったんだよ」
「………ん゙、」
これでは会話にもならない。
「…時に佐助。お前『つんでれ』という言葉を知っているか?」
「なにそれ、知らないなぁ。なんかの呪文…?」
「いや俺にも分からぬ。何故だか急に頭に浮かんでだな…」
次々世代暗示的な会話はさておき。
低く唸ったかと思えば、またぎゅーと力を強める。
なんとなく思い出されるのは、そう。いつぞやの城下散策出発前やらの、あの半興奮状態――――。
「言ってくれなきゃわかんないってば、朱音」
佐助の物言いで先の幸村との会話を思い出した朱音は、顔を伏せつつ口を開いた。
「……休む、さしけ」
「え?」
「だ、だから!さしけはしのびのお仕事はお休みでござる!」
どういうこと?と状況が理解できず困ったように佐助は幸村へ視線を寄越しても、幸村は様子を見守るだけのようで何も言ってくれない。しかし決してそれは最近の小生意気な雰囲気を纏っているわけではなかった。
まるで朱音自身に『期待』しているかのような感じな。
「けがは、怪我は癒えてはおりませぬでごごござろ!」
「…朱音が?」
「さしけでござぶん!」
やはり興奮状態にあるらしくどこで教わったか普段以上に妙な言葉遣いだ。そして何かに耐えるように身体もプルプル震わせているようだけど……大丈夫なのか、コレ。としがみつかれている佐助は純粋に心配になってきた。
「だからでござる、さしけは休む、まだ休むでござるー!」
…ああ、そうか。と鈍々しくも漸く彼女の意を汲んだ。
「……心配、してくれてんの?」
「しておらぬでござるです!」
否定しつつも、ぎぅぎぅと、彼女が言い返す度に段々自分の身体が締め付けられてくる。
まさに小さなあまのじゃく、朱音。
「……げぶっ、だ、旦那ぁ~」
助けてくれと、どうしたらいいのの意味を含めて呼びかけた。
「小助からの報告があってな。尾張偵察では正直佐助はいつもより動きが鈍くて足手まといであった、と。」
「……あのヤロー」
「このまま活動を続けていてもヘマを起こして武田を危機に陥れるやもしれぬ、とも言っていたな。まことか佐助、心配されておるではないか」
「あのヤロぉおおお!!」
思い出されるのはあの金髪の生意気小僧。あることないこと誇張してべらべら喋ったに違いない。
後でひっ捕まえてやる……!流石に俺様そこまでひどくはなかったっつの!と内側の怒りの炎を滾らせていると制止の声がかかる。
「さしけ、叫ぶは身体に……否!叫ぶはうるさいでござる!」
「え、ああ、ごめん」
「……休むでござる」
相変わらず顔は上げないけれどどうやら朱音は本気のようだ。
「……いいの、旦那」
「うむ。存分に休め、佐助」
というわけで、普段言っても中々貰えないお休みをこのタイミングで貰っちゃいました。
―――――織田や各国の動きから目を離せない、このタイミングでだよ!
(いや、ありがたいけどさ………やっぱ落ち着けねぇよ!)