20.奥底に眠る
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首を裂かれた朱音の出血は簡単には治まらなかった。
勁まで斬れているのかどうかも今はわからない。ただこれが致命傷になりうる可能性は大いにあった。
バンッ!、と。
刺客を全て倒して間もなく、政宗と朱音の居た部屋に飛び込んで来たのは、全身返り血だらけの金色の目をした忍だった。
相当疲労しているのか息がかなり荒く、顔も上げられぬようだ。
「―――アンタ、武田の忍か?」
「…っ、ああ……すまない…!独眼竜…!…間に合わなかった、んだな…」
ようやく顔を上げ、部屋を見回しかけた忍――――――小助はそこにいるはずのない人物を見つけて驚愕した。
彼の目に止まったのは、元は白かった筈の上着を全て真っ赤に染め上げていた、朱音。
彼女の首と胸下をそれぞれ政宗が止血をするように押さえていたが、止まりそうな気配はない。
「……朱音ちゃん!?な、なんで!!」
「……こいつが俺を守ってくれたんだ。忍!急いで医者を連れて来い!―――Hurry up!」
松永を使って、織田軍がまた一波乱を謀ったらしい。
今度こそ生け捕りした刺客から聞き出した情報によるものだった。
推測通り、刺客らは政宗はじめ名だたる武将たちを狙っての襲撃だった。今、数多の兵を受け入れている武田に大量に送り込んで、混乱を狙ったらしい。
勿論その大半は事を予測していたお館様が手を打ち、屋敷に忍び込まれる前に小助達の忍隊が対応していったのだが、敵方の想定以上の規模に僅かな隙をつかれ一部の侵入を許してしまった。
そして政宗に向かってきたそれらを迎え撃ったのが朱音だった、とのこと。
朱音は前回よりはしっかりした意識で戦っていたようだが、その相手は倍以上。此処に来て以来、一番の大怪我だった。
(幸村様達が……また心配なさるだろうな…)
ようやく朝日がはっきり辺りを照らし出す頃に処置を終えて、布団で眠っている朱音を見つめながら小助は憂う。
血を大量に流したせいで最後に見た時より数段顔色が悪くなっていた。
「……っていうか、アンタも寝てなきゃいけないんだろ。なんで居んの」
「Shut up.これは俺の責任だろ」
「いや、侵入を防ぎきれなかった俺等の責任だから」
「お互い様ってか」
政宗もまた開いてしまった傷口の手当てをして貰い、血は止まった。
政宗は眉をひそめると、朱音の首に巻かれた包帯に触れた。
「残る、よな………傷痕」
「………多分」
空気が重い。別に首に限った話ではない。傷が残るというのは他に刺さった腕や肋だって同じだ。
女性で身体に傷があるというのは、将来に大きな影響を与えるだろう。
二人して押し黙って沈んでいると政宗の手に何かが触れられた。
「まさ……む、ね……無事、でござるか…」
「朱音!?」
手当が施されてからまだ半刻程しか経っていない。いくらなんでも早すぎるのではないか。
政宗はそんな疑問よりも伸ばされた朱音の冷え切った手を素早く握り返した。小助も身を乗り出した。
「朱音ちゃん…!」
「顔は、こわいでござる、お二方……朝は、幸村と鍛錬でござる、のに……」
独り言のように呟く朱音はまだ眠たそうで、どうやら朝日の刺激で一時的に目を覚ましただけらしい。
「もうしわけ、ございませぬ……」
それは誰に謝ったものなのか分からない。
やがて朱音はもう一度政宗に視線を移した。
「…む、政宗。そなたはけがをしているのでは……寝てなければ駄目でござる」
「……ッ、人の心配してる場合じゃねぇだろ、」
「いいえ、政宗は、寝るでござ…ぅ、…」
「S,Stop!O.K!!わかった!俺も寝るから起き上がろうとすんじゃねぇッ!!」
「ほんとう、でござるか?」
「ああ、約束する。……但し、此処でだ!」
当然、常識を備えている小助は大いに面食らった。絶望にも似た驚愕が彼の感情を支配した。
「はぁ!?何言ってんだアンタ!」
「っつー事だ。忍、布団持って来い」
「いやいやいや!アンタ正気かよ!?絶対に周囲に誤解招くぞコレ!」
「知らねーよ、んなの。早くしねぇと同衾するぞ。I don't ask you!(命令だ!)」
「畜生ー職権濫用しやがって!」
「政宗は小助と、仲良しでござるな」
「何処をどうみりゃそう取れるんだよ」
「ゆきむらとさしけでござる」
「Ahー…そうなのか」
あの後、尚もぶちぶち(正論を)言う小助を黙らせ、政宗は朱音の隣で休養することになった。勿論朱音は事の重大性など把握しておらず、ただいつしかの幸村達とのお昼寝程度に捉えているだろう。
大人しく布団に入った政宗はやがて朱音に向かって口を開いた。
「I 'm sorry…朱音」
「…愛、む、り?」
「すまないって意味だ」
政宗は横になったまま身体ごと向けて、朱音は首だけ向けてお互いの顔を見て話す。
「なぜ…謝るでござるか」
「俺を庇ってお前は斬られただろ」
すると、む…と。政宗の言葉に朱音が怪訝そうな顔をしてみせた。
「………それは、それがしが勝手にした事でござる。それがしが思い、政宗は関係なく行ったのです。―――勝手に政宗が『それがし』をとらないでくだされ」
むくれたような態度で伝えられた意外な発言に政宗は驚かされた。
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