19.意志
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「お前は……」
「お、おはようございまする」
お館様と入れ違いのように部屋に入った朱音を案の定政宗は怪訝そうに見た。
対して朱音の方はまさか《りゅうのだんな》が陣羽織姿や寝間着ですらなく上半身裸(+包帯)でいたことに驚きを隠せないでいた(普段の幸村の戦装束の素肌とは何故か別物らしい)。
何故か顔に熱が集まり、はやく言伝てせねば…!と焦れば、
「はれ…ッはれんちでござる!」
全然違う言葉が出てきましたとさ。あら、この間で罵っちゃ駄目でしょうが、と更に自身の中で混乱が激しくなる。
「あれ、む?それがし?はれ…?ち、違うでござる!そ、それがしは、さしけが、ことづてを…むむ…ぅ」
「何ブツブツ言ってんだ?」
顔を見ずとも政宗が呆れているのがわかる。
でもなんか無理だもの。すっごく落ち着かない。なんだこの感覚とひたすら焦る。何故か政宗を直視できず顔に手を当て、唸る朱音。
「お前、さっきのgirlだろ」
「え、ぉ、うええふ、服着てくだされー!」
「おい聞けよ」
閑話休題。
「What's your name?」
「わっ、鮎、眠い?」
「……名前、なんていうんだ」
「む……、あ!申し遅れ申した!おはつにおめにかかりまする、それがしは朱音でござる!」
(……真田2号?)
ござる口調に早速不信感を抱いた政宗。ちなみに彼の上半身はそのままだ。他に着れそうなのが見当たらなかったため。
耐性をつけたのかあるいは諦めたのか、朱音も先程よりいくらか呼吸を落ち着かせて言葉を交せるようになった。
兎にも角にも本題へ入る。
「う、うと…りゅうのだんな!それがしはさし…さす……さしけから言伝てを頼まれたでござる!」
「突っ込み所満載過ぎるだろお前」
早速政宗は朱音の感性諸々が少々ズレている事を察した。竜の旦那という呼び方は真田の付き忍の受け売りで、口調は幸村譲り。こうした違和感もあるがそれ以前に、と政宗が眉に皺を寄せた。
(妙な気配を纏ってるような…なんつーか、普通じゃねぇ、)
「で、さしけっつーのは真田のあの忍の事か?」
「…しのび……はい、」
(しのび……前に幸村は言っていたでござる)
単語を聞いて記憶を掘り起こす。それはまだ目を覚まして間もない頃だったと思う。風のように現れて、消えて………。
そういえば佐助にどことなく似ている小助もしのびなのだろうか、今度聞いてみようと一人で頷くのもそこそこに漸く言伝てする。
「さしけは『勝手に抜け出して無茶しないように』と申しておりました」
「Ah?」
(それ、本当にあの忍がこの俺に言った事なのかよ?)
状況が状況とはいえ、なぜわざわざ敵にそんな案じるような事を。それも身内以外には特段関心のなさそうなあの忍が。
何かのjokeか?と目の前の朱音の表情を伺うも、彼女は大真面目だ。
しかしこの訳わからんガキが言っている事だしな……と政宗はゆったり考えを巡らせる。
「……All right.わかったぜ」
大した内容ではないため深い詮索は止めた。
政宗が考えている事も知らず朱音は目的が果たせて、ほっと息を吐いた。
すると間を置かず政宗が話題を切り出した。
「で、アンタは何者なんだ?」
「む?、それがしは朱音でござ……」
「そういうんじゃなくて、真田幸村の兄妹……ひょっとすると、女か?」
流石に女、というのは冗談のつもりで政宗は疑問を示してみせた。
しかし正当な回答を出すために必要なものが今の朱音には欠落している。
きょうだい。おんな。………朱音にはそれらが馴染みの無い単語だった。
どこかで誰かが話していたり中で耳にしたような気がするが、意味までは分からない単語たち。どちらも身近なはずなのだが、間の悪いことに今の朱音では思い至らなかった。
「うと……えと……む……わかりませぬ」
ん?と今度は政宗が首を捻る。
この質問に答えられない―――否定も肯定もしないのはおかしい。訳あり、というやつなのだろうか。明示できない立場の人間であるとでも?
そう推測立てていたたが次の朱音の言葉で自身の耳を疑う事になった。
「申し訳ござらぬでござる。『きょうだい』、『おんな』……とはどういう意味の言葉でござるか?」