18.辿る
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「ナメた真似されてthroughしようってのか、小十郎?」
「政宗様…!」
幸村とは対照的な全体的に蒼い色を纏った男。
片目には無骨な鉛の塊があてがわれており、どうやら刀の鍔らしい。本来の用途と外れ、眼帯の役割としてその右目を覆っている。
刀と言えば、この男…よく見れば左右の腰にそれぞれ三本ずつ刀を携えているように見えるのだが……それは常識とかけ離れているために是非とも見間違いであってほしい所だ。
伊達軍大将、伊達政宗。
戦場で負傷し今は眠っていたはずでは?
「真田幸村、俺の馬は何処だ」
呼びかけられて腕の中の朱音は離さぬまま幸村は政宗をもう一度凝視した。幸村の表情には焦りが浮かんでいる。まるで『傷を負った身体で“何処か”へ行こうとしているのか』と訴えようとしているみたいだった。
今この間で一同の前に現れた意味。仮に政宗が今までの話を全て聞いていたというのなら……
彼が、朱音や幸村の様にその判断に異を唱える気持ちがあるというのなら。
「伊達殿…」
「政宗様!」
この場にいる者の中で一番動揺しているであろう、政宗の家臣である小十郎が声をあげた。
「Don't worry.」
対して流暢な異国語を紡ぐ政宗の表情は怪我人とは思えぬ涼しさすら感じられた。
「人質に取られた連中を取り戻せすだけの話だろ。―――俺が行って助け出す。その松永ってのは、何処にいる」
やはりその意思は小十郎とは正反対のものだった。異を唱えるばかりか自ら人質を助けに乗り込む気らしい。負傷しているはずの政宗は堂々と言い放つ。
「なりませぬ!」
当然小十郎は政宗の容態を気にかけているのだろう、従者として主である彼を守ろうとする為に制す。
「伊達軍は誰一人欠けちゃならねぇ。―――you see?」
「…行かせるわけには参りませぬ!」
言っても無駄だと判断したのか―――小十郎は腰に差す刀に手をかけた。
「……!そなた!」
何を考えたのかわからないが朱音の身体が反射的に動こうとしたが、立ち上がってすぐによろめいた。
すぐにその身体を幸村が支えたが、朱音は呆然としていた。
「なにゆえ、身体が…」
「朱音、……」
(気付いて、おらぬのか…?)
「幸村?」
幸村は何も言わずまたそっと朱音を抱きしめ、背を撫でた。
その激しく震える小さな身体を、“安心”させるために。
「か、片倉様…!?」
小十郎は一瞬、朱音や文七郎に目を向けたがすぐにまた視線を政宗に戻した。
「……小十郎、俺に刀を向ける気か」
「家臣は大事…しかしながら一番の大事は、政宗の御身…!」
どちらも譲らない。互いに引く気はなし。
このままでは、本当に力ずくで押さえつける事態に発展してしまう。
(そんなことになってしまえば怪我をしている今の伊達殿では…)
「片倉殿!」
誰が呼びかけようと小十郎は止まらない。
「今手負いの貴方様を、出陣させることだけは!この命にかえても…!」
完全に刀を抜き、小十郎は政宗と対峙した。
「手負いじゃなけりゃ、許したってのか?」
「、……」
構えられた鋒が揺れたのを政宗は見逃さなかった。
それもつかの間、緩く首を振って不敵な余裕の笑みを浮かべると小十郎を見据えた。
「―――仕方ねぇな。…手加減無しだぜ?小十郎」
そして政宗もまた決してお飾りでは無かった六本の刀の内、一本を抜き取り構えた。
他の者が止める前に、二人の戦いが始まった。
これが真剣同士のぶつかる光景。
空はまだ薄暗い中轟く無数の音。白州の上で衝突する二人の武士。
キン、――ギンッ!と刃同士の哮り。
じゃき、と小石を蹴り飛ばす足音。
刀が振るわれ空を斬る風音。
初めてみるはずのその光景は何故かずっと前から知っているみたいで、朱音の心の奥がざわついた。それが吉と為すか凶となすかはまだわからない。
政宗と小十郎は衝突しては鍔競り合い、離れまた隙を謀ってどちらかが相手に踏み込む。だが少し、小十郎の動きが妙だった。
「…片倉殿――」
「―――もしや、土色のひとは……蒼いひとの右ばかりを、わざと…?」
「…恐らく、そうでござる。気付いたのですな、朱音」
小十郎は政宗にとって死角になる視認しにくい右側ばかりを積極的に狙う攻撃していた。
それはまるで政宗の気を立てようとさせているかのような―――………
人は五感の内もっとも依存するのは視覚だ。元々右目が見えない政宗にとっては右の死角に対しては常に誰よりも敏感であるはずで、今は逆にそれを刺激される苛立ちが生じている。気が立っている状態で精神力を削られる戦い方をされてはそれこそただの消耗戦だ。……むしろ、それこそが小十郎の狙いか。
「一々正しいねぇあの旦那。気に入ったよ」
「何をのんきに!さしけ!」
「大丈夫だって朱音。右目の旦那は竜の旦那を殺したりしないって」
「そうではない!それがしはッ」
「……わかってるって。朱音は、ただ傷つくのも嫌、なんでしょ?」
「…は、はい」
(………まったく。これもこの子の優しさと言うべきか、弱さと言うべきか。とっても“らしい”けど、あんな強さを持ってるくせにこんな様子じゃきっと今まで……)
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