16.気づく
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それは、やはりいつも唐突に終わる。ふらふらと身体が傾いていた。
「朱音?」
「……む、なに、ゆえ…」
幸村が縁側から庭の方へ躓くように傾いた朱音の身体を慌てて支えた。
強烈に襲い掛かってくる眠気に吞まれそうになりながらも朱音はギリギリで思い出した。自分が彼に伝えたかった言葉を。
(……いくさ)
「ゆ、き……いくさ…いく…いやで………」
「………」
「いなく……みな…」
それ以上朱音の言葉は続かなかった。
ずるずると縮こまるようにしゃがみ込んで完全に意識を手放したようだ。
幸村が身体を支えたまま顔を覗き込めば眠りに落ちたのが確認できて、朱音は深い呼吸を繰り返していた。
(みな、いなくなる…と言おうとしたのか?)
記憶を失ってから戦場を目の当たりにしたことはないはずなのに、そう考えた彼女の背景には何があったのだろうか。
彼女にまっさきにそう考えさせるような過去があったのだろうか。
「……俺は、決して居なくなりはせぬ。朱音」
如何なる相手との戦でも必ず帰ってこよう。揺らがぬ誓いを立てる。
生きて帰って、また皆で穏やかな日常を過ごすためにと。
***
幸村達はまた戦に赴くという。
城下へ遊びに行って数日後にはすぐに武田軍は戦支度にかかり(佐助は城下から戻るともうすぐにあちこち飛び回っていた)、屋敷はまた騒がしくなった。
今度は長篠という場所で行うらしい。
地名を聞いても当然ぴんと来ない朱音は、今まで戦事はからっきしだったが先日の自身の“暴走”により何かを悟り、そして今度はじめて準備の様々な運び物などを手伝ったりした際、直感的に―――理解した。
『戦』
触れれば肌を引き裂く、刃物は他人を傷つけるためのもの。
身体に纏うとても重い鎧は攻撃から身を守るもの。
戦とは人を傷つけるもの。人同士の争い、であると。
(どうして、そんな事をするのだろうか)
今の日の本の乱世事情を明確に知らない朱音は疑問に思うばかりだ。
ただそれでも今回新しい発見があった。
武具のなかに見つけた、無数の弓矢たち。なぜかそれらだけはまたあの懐かしさを感じられ戦への一際の不安や不快感とともに別の感情も確かに己の中にもたらした。
あんな事態も起きて、やはり人を傷つけることを朱音は恐れている。
けれど以前幸村は戦の事でお館様と話していた時は嬉しそうな、楽しそうな様子であったしお館様自身から話を聞いた時も―――
(けれど、やはりわからぬ)
この違いはなんなのだろうか。何が違うというのだろうか。
朱音の人を傷つける事に対する想いと、幸村達の人と争い奪う事に対する想いとの、違い。
(いつか、それがしにわかる日が来るであろうか…)
見上げた空はよく晴れていた。
朱音は縁側からゆっくりと眺めていた。
その手には城下で買ってもらった矢羽を握られている。自分はなぜこの矢羽が気に入っているのかはわからないままだったが、あの日以来常に肌身離さず持っている。
……自分の行動ってよくわからない。自分、なのに。相変わらず謎多し…。
そしてこんな疑問に悩めるのも関係なく、また今日の夕方くらいには幸村達はこの甲斐を出発してしまうだろう。
佐助にいたっては暫く顔を合わせていない。みんな忙しいのだろうな。
また、居なくなってしまう皆…
……朱音、ちょっと寂しい。
「…ぐぃ、寂しいないでござる!」
誰も朱音の考えなど聞こえていないというのにうっかり大声で否定しまった。
「~……、ッ!!」
そして我に返った時には後ろから人の気配がして慌てて振り返った。よく知った人物だった。
「何をしておられたのだ、朱音」
紅蓮の戦装束に着替えた幸村がやって来ていた。
「ぃ、いいい!なななんでもありませぬ!」
「?、何やら叫ばれていたでござろう」
どうやら直前までの朱音の百面相(?)は幸村に気付かれなかったようだ。
朱音は必死にぶんぶん首を振った。こんな自分がバレたら恥ずかしい!……と、なんとなく感じているらしい。
踏み込まれる前に急いで話題を変える。ただ急ぎ過ぎて話す気はなかった他でもない戦の話題を切り出してしまった。
「ゆ、幸村、いくさの用意は……」
「大方終わっておりまする。以前のような失態は二度とせぬ!」
幸村はきっと今から人を殺めに赴くはずなのに、やはり拒否感を示したり辛そうな素振りは全く見せない。
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