15.いきぬき
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「「ぅおやかたッさばぁああああああ!!」」
「うむ!楽しんでくるのじゃぞ!」
「「ぉぉおンやかたさばぁああああ!!」」
「あー、もう、本当にうるさいったら…」
繰り広げられているのは殴り愛……ではなく拳を交えぬ叫び愛。
普段より1.5倍増のうるささにいい加減うんざりしたのか佐助は耳を塞いだ。
躑躅ヶ崎館内での一番豪勢な部屋……すなわち、お館様こと武田信玄の部屋。現在そこには4人の人物がいる。
まず当然この部屋の主のお館様。お館様に向き合う位置で感激で拳を固く握りしめているのは、今日も今日とて真っ赤な幸村。今日はいつもの甲冑は脱ぎ軽装を身に纏っているのだが、それでも全体的に赤いコーディネートだ。
幸村よりも更に後ろで控えているのは、こちらはいつも通りの迷彩忍服の佐助。
そして、事情を詳しく知らない重臣の者共に見られたら大問題であろう、お館様の腕に包まれその足の間に身体をちょこんと置いているのは――居候少女、朱音だった。
事のきっかけは幸村だった。
『身体の炎症が引いた頃に、朱音を城下に連れて行きたい』
この乱世に、各国も気が立っているような今この状況でよくぞそんな呑気な事を言えたものだとは思ったが、確かに今の朱音にはそういった休息を兼ねた気晴らしも必要なのだろう、と佐助は理解していた。
先日の件で身体を休めることに専念させた朱音はだいぶ良くなったものの、まだ完全に不自由なくは動かせない。
身体が使えないなら自然と考え事位しかする事がなくなる。普段から落ち着きなくあちこち散策して、物思いに耽るのは得意ではなさそうな朱音が考え出せばきっと己に対しての疑問しか湧いて来ないだろう。それがまた彼女を苦しめかねない。
そこで憩いを狙いとした城下散策願いだ。
……というのは半分は建前で、幸村はずっと前から朱音と一緒に城下に行きたかった模様。
(大方、茶屋に一緒に行きたいんだろうなー)
朱音の事情を聞き及んでいたお館様にもあっさり許可も貰えて、朱音の身体がほぼ回復した頃合いをねらって行こうという話が立っていた。
そんな訳で今日は待ちに待った遠足よろしく城下に降りるのだ。
きゃいきゃいお館様の腕の中で戯れていたパッと見親子のようにみえる朱音だが、がふいにぴたりと動きを止めた。
「お館様。幸村と………むぅ…」
「む、どうした朱音よ」
「……じょうか、は………ぬぅぅ」
少し身体を硬くした朱音の視線がちらちらと『そちら』へ移る。それを察した幸村が言う。
「佐助か?」
「!!」
朱音が肩を派手に揺らした。どうやら図星らしい。
「ん?俺様の顔に何かついてんの、朱音」
どういう事なのかわかっていないらしい佐助は不思議そうに言う。
「つ…いてなどおりませぬ!それがし、はじょ、じょうか…とやらに……さ、さし……」
ほぅ、とお館様が朱音の言いたい事を察したらしく深く頷くと朱音に言った。
「朱音よ、自分で言わぬと何事も伝わらぬぞ?」
「!!お、おお館さま…」
途端に顔を真っ赤にして俯いた朱音に佐助は意味がわかってなさそうに首を捻り、幸村は朱音のそういうところは前々から承知していたので状況を見守っていた。
幸村たちの留守に朱音が暴れてからのここ数日間。
実は彼女の看病は何故か女中よりも佐助の方が多かったのだ。
何故なら最も仲の良い女中のひかりはあれから負傷のせいで本調子とはいかず暫く休むように言い渡されていた為に、自分の代わりを彼女が佐助に申し出たからだ。
『貴方なら、幸村様と共に朱音様の支えになれるはずでしょうから』
そう言われて佐助は懇願する彼女に根負けして引き受けた。知ってか知らずか彼女の人の弱みを的確に突いてみせる話術は恐れ入った。
そして、何処からその情報が漏れたのか途端に佐助の忍の任務は全て他の忍に回された。おそらくあっという間に幸村の耳に届いたのだろう。よって、朱音の看病の他にする事が無くなってしまったのである。なんてこったい。
俺様忍なのに…忍なのに…忍なのに……と突拍子のない展開と待遇に混乱せずにいられるものか。
そんな彼の嘆きを通りすがりに聞く者はまちまちに居ても聞き入れる者は居なかった。
「ついでにこの期に朱音と仲直りすれば良いではないか」
しれっとそんな事を幸村にも言われてしまった。
尾張やその辺では何かしら動きが忙しないというのに、自分は小娘の世話をしないといけない、という面白くない言い回しを思いつくくらいお暇を堪能している。
「最早忍じゃない…」
だがしかし、この忍は任された事とは真摯に取り組みとても甲斐性があったりする。
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