14.ちから
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「入ってもよろしいでしょうか?」
部屋の前の廊下に姿勢よく正座をしているのは、朱音が最も慕う女中のひかりだった。
「…も、勿論で御座いまする」
やはり基本的に女性に免疫が無いのか、先ほどまでの威勢はどこへやら。幸村はたどたどしくひかりに言った。
対照的に慌てふためく幸村を見て佐助は落ち着いてきたらしく頬杖をつき、いつも通りの異性に対する態度に戻った幸村に呆れてため息をついていた。
諸々の様子を観察しつつも、ありがとうございます、とだけ言ってひかりは深々と頭を下げた。間を開けずに部屋の中へ入り、朱音の側へと、己のすぐ後ろで正座をしたところで幸村はハッとした。
「も、申し訳ございませぬ、ひかり殿!某は下がりますので、どうぞ朱音の側に…!」
ひかりより身分が高い自分がいると彼女は朱音の側に近寄れないことに気づいたのだ。
「…とんでもございません幸村様…!―――と、申し上げたい所ですが……」
しっかりと礼儀礼節を朱音に教える立場であったはずのひかりは意外なことに、素直に幸村より前へ移動し申し訳なさそうに呟いた。
「今回だけは、どうかお見逃しください。………朱音様をここまで苦しめてしまったのは、私を護るため、でしたから…」
「ひかり殿……」
ひかりは罪悪感に苛まれるように強く目を瞑った。こらえきれない思いはすぐに形になって零れた。
「私も今日からやっと動けるようになりました。………ですから、一番に朱音様のもとに向かって……朱音、様に…、…お礼と…謝罪を、と……、」
「ひかりさん……」
朱音が刺客と出くわした時、その場にひかりは居合わせた。
そして、先に侵入者の刃に倒れ、それゆえに朱音の本来の『力』を引き出す状況を作り出してしまった一因であると言うこともできる。
ひかりの命の危機は朱音は自らの命の危機よりも重要な理由になった。
ひかりは朱音にとって、『自分』を受け入れてくれる、信頼のできる存在。言葉にせずとも、いつも言いたい事を察してくれて、時に教わり側にいてくれる大事な大事な存在だ。
そんな大切に思う人が傷つけられる事ほど、堪えるものはない。それはひかりにとっても同じ事だったのだ。
朱音は自分を助けようとして、負傷して伏せ続ける状況に陥ったのだ。それだけはあの瞬間からのまごうことなき真実だ。
いざという時に、なんて無力。何にもできない己が恨めしい。
今こうして自分は痛みに苦しんでいるであろう彼女を前にしてただ涙を流すことくらいしか出来ない。これが朱音の何の役に立つというのか。
「申し訳、ございません……、朱音さま…っ」
涙がひかりの頬を伝っていく。
わかってる。泣いたって何も変わりはしない。朱音は目を覚まさない。
今はただ待つことしかできない。待つばかりは、辛い。
ひかりは涙を止められぬまま朱音の顔を見つめる。
先程の幸村とのやり取りのお陰で苦しそうな表情は見受けられない。もしも佐助が部屋に来た直後のような硬い表情のままだったらひかりは更に己を責め続けていただろう。
(旦那が居てくれて良かった……)
少しだけ安堵したところで佐助はある話題を切り出した。
「ひかりさん、……『その時』の事、教えてくれないかな?」
「…その、時」
「この子が、何をしてこんな状態になったのかを、俺達に。ちょっと場所も変えてさ」
「……はい」
朱音を起こさぬようにと、三人はすぐ側の空部屋へと移動する。部屋の中でひかりと幸村は正座、佐助は胡座と各々の姿勢をとった。
ひかりは幸村と佐助に向き直った。
―――――ひかりは唯一、あの場にいて、佐助達が事情を聞ける者だ。
ひかりも話す決心はついているのか、真っ直ぐに二人の目を見る。
「最初から、話しますか?」
「勿論」
「……お願い致す」
幸村と佐助も真剣な表情になった。
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