12.記憶
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目を覚ますと視界に入ったのは灰色の襖だった。
「…ん……」
ぼけっとしている頭を上体を起こすことで無理矢理覚醒させると、ここはいつもの自分の部屋であると朱音は気づいた。
目を覚ましたところで本日の記憶の整理をする。
朝、鯉を掴んだ。胴着が濡れた。朝餉を食べた。
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おわり。
「はて…」
なんとも充実しない一日なのだろう。だいたいまず、今は何時なのだろうか。一体どれだけ眠りに落ちてしまっていたのだろうか。
状況が気になって、朱音は外が見渡せる襖をススス…とゆっくり開けた。
「……わからないでござるな」
ところが空は一面、雲に覆われていた。
だから部屋の中も薄暗かったのか、と朱音は一人納得する。
とりあえず誰かに会って今の時間だけでも確認をしよう、そう思って部屋を出ようとした。そこで朱音はいつも自分の傍にあるものがない事に気づいた。
「…それがしの、木刀……!」
本日の一大事こと鯉を素手掴みする直前、池の脇に置いた覚えがある。
朱音は飛び出して一直線に走って行った。
(幸村がそれがしにくださった木刀なのに…!)
*
「朱音様……?」
そして、眠っているはずの様子を見に来たひかりとは丁度入れ違う形になった。
(何処に行かれたのでしょうか……また屋敷の中を探さなくては…)
ひかりも直ぐに部屋を出ると朱音の捜索を始めた。
突っ掛け草履を履いた足で玉砂利を踏みしめる。
(木刀…木刀…!どうか池にあってくだされ…!)
部屋から今朝の池のまでの長い距離は、体力が完全に戻りきっていない朱音には少し、辛い。
急ぐ気持ちも相成って余計に身体が硬くなっているのか、途中から歩いたり走ったりを交互に行いながら向かわざるを得なかった。
焦ってばかりで、完全に治りきらない自分の身体が恨めしく思えた。
やっとの思いで池が見える最後の角を曲がった。
(―――見つけた!)
今朝自分が置いた所と変わらない、池のすぐ脇に木刀はあった。
視界に捉えてようやく安心して身体の力が抜け、落ち着いてゆっくりと足を進めていく。
朱音は帯刀してはいけない場、時以外では基本殆ど一日中何をするときも持って行動しているほど木刀が気に入っているらしい。
朱音にとって木刀は、自分の好きな音が鳴るお気に入りの玩具のようなものだ。いつだって持っていたい。
その木刀まであと20歩程度の距離になった。
その時に気づいた。
朱音から見て池より僅かに奥にある木々の中の一本が不自然に揺れたのが目に入った。
そちらへ自然に意識を向けると、人間の、一人分の気配を感じた。
そこそこに高所の位置に気配はある。
そういえば、自分は以前登ってみようとした時に佐助に発見され、危ないだの破廉恥だの言い争いになった事を思い出した。
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