デモンズ・レター
「これ、古いものだけど、しっかりした鏡だから。よかったら使いなさい」
そう言って芹凪にその鏡を譲ったのは、彼女の祖母だった。部屋に鏡がないことを話すと、整理のつかない荷物を処分するついでと言わんばかりに、押し付けるようにしてこの重厚な姿見をおくってきたのだ。
電話越しに聞こえる、心配する祖母の声。
「ずいぶん重そうだよ」
「ええ、少し変わった作りでしょう。でも、悪魔除けの紋様が彫られているから、縁起はいいはずよ。今度はいつ会えるの。仕事が落ち着いたらまた来なさいな。待ってるね」
一人暮らしの狭いワンルームにはいささか不釣り合いな、圧倒的な存在感。
芹凪は携帯電話をベッドに放り出すと、重い足取りでその『鏡』の前に立った。仕事の疲れがどっと押し寄せ、肩が重い。
「悪魔除け、ね……」
祖母の言葉を思い出しながら、黒いオーク材の扉に触れてみる。ひんやりとした木肌は驚くほど滑らかで、彫り込まれた蔦の模様は生き物のように指先に絡みつく感覚があった。
パチン、と小さな金属音が響き、観音開きの扉が左右に開く。
現れたのは、歪みのない、あまりにも澄んだ鏡面だった。
そこに映る自分は、心なしかいつもより顔色が悪く、目の下に濃い隈を作っている。
「はぁ……。悪魔を追い払う前に、この疲れをどうにかしてほしいわ」
自嘲気味に呟き、クローゼットから部屋着を取り出そうと鏡に背を向けた。
そう言って芹凪にその鏡を譲ったのは、彼女の祖母だった。部屋に鏡がないことを話すと、整理のつかない荷物を処分するついでと言わんばかりに、押し付けるようにしてこの重厚な姿見をおくってきたのだ。
電話越しに聞こえる、心配する祖母の声。
「ずいぶん重そうだよ」
「ええ、少し変わった作りでしょう。でも、悪魔除けの紋様が彫られているから、縁起はいいはずよ。今度はいつ会えるの。仕事が落ち着いたらまた来なさいな。待ってるね」
一人暮らしの狭いワンルームにはいささか不釣り合いな、圧倒的な存在感。
芹凪は携帯電話をベッドに放り出すと、重い足取りでその『鏡』の前に立った。仕事の疲れがどっと押し寄せ、肩が重い。
「悪魔除け、ね……」
祖母の言葉を思い出しながら、黒いオーク材の扉に触れてみる。ひんやりとした木肌は驚くほど滑らかで、彫り込まれた蔦の模様は生き物のように指先に絡みつく感覚があった。
パチン、と小さな金属音が響き、観音開きの扉が左右に開く。
現れたのは、歪みのない、あまりにも澄んだ鏡面だった。
そこに映る自分は、心なしかいつもより顔色が悪く、目の下に濃い隈を作っている。
「はぁ……。悪魔を追い払う前に、この疲れをどうにかしてほしいわ」
自嘲気味に呟き、クローゼットから部屋着を取り出そうと鏡に背を向けた。
