[三十日目]
「今日で由衣と暮らして1か月か…今思うと由衣もかなり心を開いてくれたな…」そう思いながら風太は朝食の準備をしていた。
「先生、おはようございます。」そう言って起きてきた由衣に風太は「おはよう、朝食の準備手伝ってくれるかな？」そう言うと「勿論です、牛乳とかは持っていきますね。」そう言って手伝ってくれるようにもなった。
「由衣はもう体の傷とかなんとも思ってないの？」そう聞いたら由衣は「なんとも思ってないって訳じゃないです…でも、この苦しんだ過去があって今の私があるんですから少しは悪く思わなくなりました。」それを聞いて風太は「そうか、いいんじゃないか？過去に囚われずにしっかりと前に進めてるからな。」そう言った。
そして二人は朝食を食べ終え風太は診療所に行く準備をしていた。
すると由衣が「私も診療所の仕事をお手伝いしましょうか？」自らそう言ってくれた由衣に風太は「いいのか？」そう聞いたら「勿論です！これまでの恩返しとしてやってあげたいんです！」そう言ってくれたから一緒に診療所に行って仕事を手伝ってもらうことにした。

[診療所内]

「じゃあ、由衣はこの書類をあの棚にしまってくれるかな？」そう言ったら「了解です！」と言って書類の整理をしてくれた。
「ありがとうな、由衣」そう言って由衣の頭を撫でてあげたら由衣もすごく嬉しそうにしていた。
しばらくして昼休憩中に人が入ってきた「こんにちは、本日はどうされましたか？」と聞こうと向かうとその人を見て風太は「あれ？もしかしてあの時の商人さんですか？」そう聞くと「覚えておられましたか、申し遅れましたが私は白井一郎（しらいいちろう）と申します。」続けて一郎はこう言った「1か月前のあの少女は元気にしておりますかね？」と聞かれたので「勿論元気にしてますよ？何なら呼んできましょうか？」そう聞いたら「いえ、元気にやっているならそれでいいのです。」そう言って一郎は帰って行ってしまった。
その後診療所から帰った二人は夜飯を食べることにした。
夜飯を食べているときに由衣が言った「先生、一つ聞いていいですか…？」珍しく真剣な顔で聞いてくるものだから風太は「どうしたんだ？改まった顔して。」と聞いたすると「先生はなんで見ず知らずの奴隷の私にここまでよくしてくれたんですか？」そう聞かれて風太は迷わず答えた「奴隷とか見ず知らずとか関係ないよ、困ってる人がいたら助ける、医師だからとかでもなく一人の人間として当然のことだろ？」そう言ったら由衣は「でも、私は何か裏があるかもしれない…って不安になってしまったんです…それでもいつも私にやさしくしてくれました。」続けて由衣は言った「私が感情を表に出さないようにしていた時に先生は言ってくれましたよね、「由衣はもっと笑ってもいいよ」その言葉は私には本当に嬉しかったです。」そして由衣は続けてこう聞いた「感情を出せるようになった私から先生に聞きたいんです…私はせめて人らしくなれましたか？」それを聞いて風太は「…ああ、勿論だ…由衣はしっかりと人としての感情を取り戻せたんだよ。」そう言って風太は由衣を撫でてあげた。
「先生のおかげで私は感情を取り戻せましたし、そしてまた人を信じることが出来ました…ありがとうございました。」そう言って由衣は笑ってくれた。

これは先生がまだ生きていた時の日記の一部です。
あの時先生が私を引き取ってくれたおかげで今の私がいます。
そして私は先生がいなくなった個人診療所を経営しています。
先生との思い出を忘れないためにもこの診療所は残していきたいと思います。
先生…最後にひとこと言わせてください。
先生、あの時から私は…

「せめて人らしくなれました」



END