ガチでやってみる

[あるビルの屋上]
(ヒュー…ヒュー…)そよ風が吹くある夏の日にビルの屋上に一人の男がいた。
「もう…疲れた…仕事もプライベートも全くうまくいかない…もう死ぬしかない…」そう言って柵を乗り越えてビルの縁に立っているのは「山吹隼人やまぶきはやと」ここ最近仕事をクビになって妻にも愛想を尽かされ離婚した冴えない25歳のサラリーマンである。
「…いざ立ってみると…やっぱり怖いな…でも、覚悟を決めるか…」そう思った時後ろから声がした「ねぇ?そこで何をしてるの?」隼人は後ろを振り向くとそこには20歳ぐらいの女性が立っていた「危ないからこっちおいでよ?落ちちゃうよ?」そう言う女性に向かって隼人は「俺は死にたいんだよ…」すると女性は「ふーん…死にたいなら死んでもいいよ?飛んじゃいなよ。」そう言われて隼人は「…でも…怖くて…」そう言った隼人に向かって女性は「じゃあ、やめれば?無理に今死ななくてもいいでしょ?」隼人はこう言った「…無理に死ぬ必要は無いけど…うーん…」すると女性は「こっち来てなんで死にたいのか聞かせてよ?」と言って隼人に近づいてきた「…分かったよ…死ぬのはまた今度にするか…」そう言って隼人は柵を乗り越えて女性の方に向かった。
「名前は何ていうの?」そう聞く女性に「山吹隼人です、貴方は誰ですか?」女性は言った「私は氷室明ひむろあかり、よろしくね!」隼人は聞いた「氷室さんはどうしてここに来たんですか?」すると氷室は「ここね…時々さっきの貴方みたいな人がいるのよ。それを助けられないかな?と思って時々ここに来てるんだよね…」それを聞いた隼人は「…そうなんですか…あ、その…ありがとうございました…」氷室は「助けるつもりでここにいるんだから当然だよ!でも、自殺の理由は教えてね?」隼人は言った「…俺が、なんで自殺しようとしたか話さないとダメなんですか?」氷室は言った「そりゃそうだよ、原因が無くなれば死ななくて済むもん。」隼人は理由を話した…「なるほどね…そりゃ辛いね…」そう言って慰めようとしてくれた氷室に隼人はこう言った「これからどうすればいいんだろう…」氷室は食い気味に言った「そんなネガティブになっちゃダメ!しっかりしてよ!もう一度就職活動したりしてなんとかするんだよ!」隼人は言った「そんなに簡単な話じゃ…」氷室は言った「確かに簡単じゃないけど、何事もやってみることが大事だよ!だって、どうせ死ぬなら精一杯頑張って見てどうしようもなくなってからでもいいでしょ?まだまだ若いんだから頑張らなきゃ!」隼人は不思議に思った「氷室さんはなんでそんなに見ず知らずの人を応援できるんですか?」すると氷室は言った「…貴方にはまだ生きて欲しいの…ここで死んでいった人を見たことあるから…」それを聞いた隼人は少し考えてこう言った「…はぁ…分かりました、もう一度人生やり直してみます!」すると氷室は「よく言った!じゃあ、時々ここに来てどんな感じか教えてくれると嬉しいな!」そう言った氷室に隼人は「分かりました、これからもここに来て報告します。」そう言って隼人はそのビルを後にした…

[1か月後]
「ここの面接に絶対受かってやる…氷室さんをがっかりさせないためにも…!」そう意気込んで隼人はA社の面接を受けることにした。
(1時間後)
「手ごたえはあり…」面接を終わらせた隼人はあのビルの屋上に向かった。

[あるビルの屋上]
「あ!面接どうだった?」そう言う氷室に隼人は言った「手ごたえはある…たぶん行けるかも?」すると氷室は「おおーいいね!」と喜んでいた。
「それとさ…氷室さんに言いたいことがあるんだけど…」そう言う隼人に氷室は聞いた「どうしたの?」隼人は言った「実は…最近、近くのコンビニで高校の同級生にあってさ…その同級生と実は今、付き合ってるんだよね…」それを聞いた氷室は「え!良かったじゃん!順調に行ってるの?」そう聞く氷室に隼人は「いい感じだね。」すると氷室は「順調に人生やり直せてるね!」そう言った氷室に隼人は「氷室さんのおかげです…あそこで呼び止めてくれたおかげで今があるんです…だからお礼を言いたかったんです。」氷室は「お礼なんていいよ、私が助けた人が今を頑張って生きてる事で十分だし。」そう言って氷室は笑った。
その後少し話をしてビルを後にした。

[1か月後]
「氷室さん!会社の内定貰えました!」そう言って屋上に入ってきた隼人を見て氷室は「良かったじゃん!」そして隼人は続けて「それから、前話した同級生にプロポーズしたらOK貰えました!」そう言った隼人に向かって氷室は「おお!やったじゃん!おめでとう!」隼人はこう言った「氷室さんがあの時、呼び止めてくれたおかげで今の僕があります…本当にありがとうございました!」そう言った隼人に氷室は「…良かった…本当に良かった…」そう言って氷室は泣き出した「氷室さん…なんで泣いてるんですか?」氷室は言った「…いや…少し前まであんなに辛そうだった隼人さんが今の人生をしっかり生きているから…嬉しくて…ごめんね…」そう言った氷室に隼人は「…氷室さんは俺の恩人です…本当にありがとうございました…」そう言って隼人は氷室さんが泣き止むまで一緒にいた…

[数か月後]
隼人は同級生である「井上春香いのうえはるか」と結婚して仕事も順調に進んでおり子供も夏には生まれるらしい…そんな中、隼人は春香にこう言った「なぁ、春香と一緒に行きたいところがあるんだけどいいかな?」そう言った隼人に春香は言った「いいけど、どこに行くの?」隼人は言った「あるビルの屋上なんだけど…そこに俺の恩人が居るんだよ」そう言って隼人は春香と一緒にあのビルの屋上に向かった。

[あるビルの屋上]
「こんにちわ…あれ?氷室さん居ないのかなぁ…」いつもならいるはずの氷室さんがどこにも見つからなかったからここのビルの管理人に話を聞いてみた…「すみません、ここのビルの屋上に氷室明って人が時々出入りしてませんでしたか?」すると管理人は言った「へ?ひむろあかり?誰だそりゃ?ついでに言うと、お前さんよくここに来てるがいつも誰と話してるんだ?」それを聞いた隼人は走って屋上に向かった「嘘だろ…ありえない…確かにいたはずなんだ…」呼び止める春香の声を無視し階段を駆け上がりそして屋上の扉を開けた…すると少し離れたところに氷室の姿が見えた…「氷室さん!」そう叫んだ隼人に氷室はこう言った「…はぁ…正直に言うね、私はここで過去に飛び降り自殺した人なんだよね…」そう言う氷室に隼人は「そんな訳ないだろ!今、目の前にこうしているじゃないか!」と言ったが氷室はこう返した「…貴方以外には見えてないのよ…そして貴方を呼び止めたのは…私の様にまだある命を無駄にして欲しくなかったのよ…」それを聞いて隼人は「…そんなのはあり得ない…氷室さんが死んでるなんて…」氷室は言った「隼人さんは大丈夫…私が居なくてもきっと生きていけるから…だからさ…最後に一つ言っていいかな?」隼人は静かに頷いた…そして氷室は言った「今の君の人生はきっと素晴らしいものになってるはずだから…もう自殺なんて考えないでね?」そう言われて隼人は答えた「勿論だよ…氷室さんに助けてもらったこの命…氷室さんの分までしっかり生きるよ…!」氷室はこう言った「ありがとう…それじゃあ…さようなら、また会えるといいね。」そう言って氷室は笑ってから白く優しい光に包まれて光が消える時にはそこにはいなかった…
その後に春香と管理人が心配になって見に来て隼人は状況を説明した。
すると氷室さんについて話した時に管理人が言った「氷室ってやつは20歳ぐらいの女性なのか?」隼人は言った「そうですが、どうかしましたか?」管理人は言った「それがなぁ…前の人が描いていた住人の記録を見てた時に、5年前に20歳ぐらいの女性の人が入居してたらしいんだよ…それで、その人の説明に何かに思い詰めていたらしく数日後にここのビルで飛び降り自殺したって書いてあるんだよ…」それを聞いた隼人は聞いた「その人の名前は…?」管理人が言った「…俺も驚いたよ…氷室明って名前なんだよ…」隼人は言った「…五年前にここに居たんだ…」そして管理人は言った「それから説明を読んだときに一つ気になることがあってだな…最近使った形跡がないのに封筒が挟んであったんだ…しかも宛名が山吹隼人って書いてあるんだ…」そして隼人はその封筒を貰って管理人に今日は帰るように言われてビルを後にした…

[家にて]

「さっきの封筒見てみるか…」そう言って隼人は封筒を開いて中を見てみたら…「これは…氷室さんの写真と一枚のメモが入ってる…」隼人はメモの内容を見た「死にたがりの貴方へ」書いてあったのはそれだけだった…

今を生きている貴方の頑張りはきっといつか報われます。

「死にたがりの貴方へ、希望をこめて…」
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