ガチでやってみる

[ある日の朝]

「今日も学校休みなのか…」そう言って部屋から起きてきたのはつい最近一人暮らしを始めた「山田輝人やまだてるひと」最近学校がコロナなどのせいで臨時休校になってしまって少し憂鬱になっている。
「そうだ!気分転換に山でも行くか!」外出自粛要請はまだ出ていなかったころだから外出もそんなに長時間じゃなければいいと思っていた。

[近くの山の山中]

「あれ?こんな道あったかなぁ…」よく通るハイキングルートに知らない道が増えていた、それはしっかりと舗装されたうえで近くに看板があった…「思い出の品と共に進んでください」看板にはその文字と道の先を示す矢印が書いてあった。
「思い出の品…そうだ、俺がずっと持ってるこの母親がくれたキーホルダーとかどうだろう?これをもって進めばいいのかな?」そう言って輝人はその道を進んだ、すると一つの廃駅を見つけた。
「思い出急行「メモリアルスカイライン」」という名前の路線が走っているらしい。
「こんなのあったんだなぁ…まあ、今日は帰ろうかな」そう思って振り返ったらそこには来たときに通った舗装された道はなかった…「な、なんだこれ…どうなってるんだ…」
その時、駅の中から駅員らしき人が出てきて輝人にこう言った「どうされましたか?」輝人はこう言った「なぁ、なんで道が消えたんだ?どうなってるんだ?」すると駅員はこう言った「道…ですか…?それならきっと、あなたは選ばれたんでしょうね…」
「選ばれた?何に?」そうやって訪ねたい気持ちもあったが、ぐっとこらえて「どうやったら帰れるんだ?」と聞いた…すると「それならここの列車に乗って行けば帰れますよ。」色々聞きたいことはあったが列車に乗れば帰れるという事が分かっただけでも少し安心した。
すると駅員が「申し遅れましたが、私はこの駅の駅長を務めさせていただいております浅田史郎あさだしろうと申します。」やはり、この人はここの駅長らしい。
輝人は浅田駅長にこう聞いた「列車に乗る為にはどうしたらいい?」すると浅田駅長は「お客様の思い出の品が切符の代わりです。」と答えて続けざまに「お客様もここに来るときに思い出の品を持ってきたはずです、何かございませんか?」そう言われた時に輝人は「母親がくれたキーホルダーなんですけど…」輝人はそれを浅田駅長に見せた「ほぅ…これはどのような思い出があるんですか?」輝人はこう言った「…母親は俺が子供のうちに病気が原因で死んだんです…それからは父親が育ててくれました、このキーホルダーは母親が俺にくれた最初で最後のプレゼントだったんです…」すると浅田駅長は「なるほど、母親がくれた最初で最後のプレゼント…ですか…いいでしょう、この切符を持って改札を越えてください。」
輝人はどうしてこの思い出の品が必要だったのか…それを聞こうと思ったが、気が付くとホームの中にいて浅田駅長も見当たらなくなっていた。
その時アナウンスが流れた「まもなく、思い出急行「メモリアルスカイライン」が到着いたします、白線の内側に下がってお待ちください。」こんな廃駅に列車などくるのか?そう思っていたが、遠くの方から汽笛の音が聞こえてきた…次の瞬間、空に何かが飛んでいるのが見えた…鳥でもなく飛行機でもなくそれは紛れもなく列車の見た目をしていた…その列車は空高くからなだらかなカーブを描き駅のホームに向かって降りてきて停車した。
「これは…夢なのか?」そう思った輝人は静かに列車に乗り込んだ、中は昔ながらの木造の列車でつり革などもかなり古いタイプだったが列車自体が一切の損傷や劣化の兆候を見せていない。
なかにはほかの乗客は一切乗っていないし周りの雑音も聞こえずにただエンジン音と駅員の安全確認の声だけが聞こえていた。
しばらくたってアナウンスが流れた「本日は思い出急行「メモリアルスカイライン」をご利用いただきありがとうございます。ここから次の駅までに10分、終点までの所要時間は1時間ぐらいを想定しております。」といった感じでアナウンスが流れていてそれを聞き終えたときにドアが閉まった、それと同時に列車がゆっくりと発進した。
「これに乗って本当に良かったのだろうか?」そう思った輝人は外を見てみた…すると驚いたことに、そこは雲の上だった。
「揺れも上昇していたことも感じなかったのに…!」そう驚いていたときにアナウンスが流れた「まもなく、「思い出」、「思い出」となっております、当駅につきましては一度ホームの方に出ていただきますのであしからず。」ホームに出る必要があるのか?そして思い出という駅の名前…これが何なのか分からなかった輝人は駅に着いてからとりあえず降りてみることにした。

[思い出到着]

「着いたのか…確か降りるんだったよな…」輝人が列車がから降りた瞬間に反対側のもう一つのホームに列車が来た、そして中から降りてきた人をみて輝人は思わずこう言ってしまった「まさか…母さん…?」降りてきた人はこう言った「そうだよ…輝人」輝人は今すぐ向こうに行きたかった、でも母親はこう言った「輝人は私のことを覚えてくれいたのかしら…ずっとそう思っていた、まだ子供のうちに病気で亡くなった母親のことなんて忘れているのかもしれないって思ってた…」その言葉を聞いた輝人はこう返した「忘れてないよ!忘れるわけなんてない!だって、俺の大切な母さんだったんだ!」涙ぐみながら輝人はそう言った、そしてその言葉を聞いた母親も涙をこらえながら「ありがとう…輝人は私のことを覚えていてくれたんだね…」輝人は母親にこう言った「母さん…俺、また母さんに会えて本当に良かった…」突然アナウンスが流れた「まもなく、列車が発車いたします、お乗りの際はお足元にお気をつけてお乗り下さい。」母親は「お別れの時間ね…輝人」輝人は「でも、母さんは…?」母親は「私はもうそっちの世界には行けないのよ…でも、輝人の思い出の品のキーホルダー…そこに私はいるから、安心してね…」輝人は何とかしてあげたかったが、間もなく発車してしまう列車に乗り込むしかなかった…そして列車に乗り込んだ輝人に向けて母親は「またね…輝人」と言って笑顔を見せた。
その瞬間に輝人の目からは涙が溢れだした…そして、涙が収まるころには列車はもう終点まで10分だった…「終点に着いたら帰れるんだったな…」

[終点にて]

「ようやく着いた…ここが終点…」一言で表すとそれは透明な壁と床と天井で出来た駅のようなところで空や雲、太陽などがハッキリと見えた。
すると聞き覚えのある声が聞こえた「いかがでしたでしょうか?」浅田駅長の声だった、すぐに辺りを見回すがどこにも姿は見えなかった。
すると浅田駅長はこう言った「そういえば、当駅のご案内を忘れておりました…当駅は皆さんの思い出などの行きつくところです。思い出は誰かの記憶に残ったものたちですが、いつかはそれも忘れ去られてしまう…そんな思い出の為に当駅を作りました。」
輝人はそれを聞いて一つ疑問に思った、俺はなぜここに来れたのか、それを浅田駅長に聞いたところ「忘れられない思い出がありましたでしょう?私はその思い出を少しでも長く思い出として残せれば…と、思いそのお手伝いをしたまでです。」浅田駅長は続けてこう言った「お客様のキーホルダーをもう一度見てもらえますか?」輝人はキーホルダーを見た…浅田駅長は「ふふっ、お客様の母親は随分といい人だったんですね…輪っかの部分を見てください。」輝人はキーホルダーの輪っかの部分を見た…そこには「一人じゃないからね」そう書いてあった…
輝人はまた涙が出そうになった、しかしぐっとこらえて浅田駅長に尋ねた「どうやったらここから帰れるんだ…?」浅田駅長は「そこの改札を先ほどの切符をもって越えてください、それでは本日のご利用ありがとうございました。」そう言って浅田駅長の声は聞こえなくなった…。
輝人は「…ありがとう、母さん…」と言って改札を出ると、そこは廃駅に行くための道があったところだった。
しかし看板も道も無くなっていて何よりも時間が全く進んでいなかった。
「思い出急行「メモリアルスカイライン」…ね…」そう言って輝人は家に帰った、母親との思い出とともに…

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