第2章 九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神
その頃、島原の『トワ・パライソの宮殿』の夜。珠姫は、占い道具が綺麗に置かれた自室に妹2人を呼んでいた。
「姉上・・・大切な話とは?」
三女のつるぎが緊張した表情で尋ねた。
「間もなく、豊臣兵がこちらを攻めて来るわ。球磨を始め、厄介な勇士達も絶対に来るわよ」
少し張り詰めた態度で説明する珠姫に比べ、次女の美羅は動じる事無く、呑気な口調で言った。
「姉さんが心配事なんて珍しいわね。ツクモ様の手にかかれば、お猿さんなんて直ぐに尻尾巻いて逃げるわよ」
「秀吉はともかく、その球磨達勇士は気を引き締め、迎え撃たないとだな・・・。ツクモ様が痛手を負った位なので・・・」
つるぎは思い悩んでいた。神をも超える絶対の力を持つツクモが、かたや九州で有名な程度の傭兵に関心を持つなど信じがたいことだった。それに、紅史郎も球磨を、敵ながらも何故か身近な人物に感じると言っていた。
「つるぎ?もしかして紅史郎に想いを寄せているの?」
「え・・!?突然何を言う・・・」
珠姫はニヤリと頬を緩めながら、つるぎに問いかけた。つるぎは顔を紅くし、驚きを隠せないでいた。
「あなた、紅史郎と行動している時、心が弾んでいるわ。普段、生真面目で勇み立っているのに、この時だけは恋する女の子に感じるわ」
「すまない・・姉上。誤解を招くような事を・・。私はツクモ様の妻という自覚は持っています」
「ツクモ様が知ったら、つるぎ危ないわよー」
美羅は妹の困った顔を見てからかった。珠姫はそんな彼女をたしなめ、ずばりと言った。
「美羅こそ、成政様を気にかけている事くらいお見通しよ」
「うう・・・姉さんには敵わないわ。悟られないように隠していたのに」
2人は珠姫に、ツクモの妻でありながら、他の男に熱い視線を向けていた事を怒るかと思い、ドギマギしていたが、彼女は優しい表情で2人の頭を撫でた。それは、昔の優しく、しっかり者の長女の姿にも見えた。
「心配しなくても、ツクモ様もあなたたちの事をお見通しよ。我が公は、『好きにしてよかとーね』と許していたわ」
「はぁ・・それは有り難いな。ツクモ様は神のように寛大だな・・・」
2人はツクモは優しいのか、私達はどうでも良い存在なのか・・考えが読めず、怖いとも感じた。
「とにかく、姉として2人に言っておくわ」
珠姫は2人をまとめて、腕の中に抱きしめた。
「絶対に死なないで。ツクモ様の命であれど、自分の命を大切にするのよ。それと、本当の幸せを考えて」
「姉さん・・・」
「姉上・・・」
妹達は姉の柔らかい抱擁に涙を流した。
「大丈夫よ。あたし、成政様を父親に少し似ているなって思っただけだから。ツクモ様と姉さんとつるぎが1番大切よ」
「珠姫姉様・・幼い頃から苦労をかけさせて、すまない」
三姉妹は幼い頃の辛い記憶を思い出した。
今から十年以上前、珠姫と美羅とつるぎは、肥前平戸の商家の娘だった。商人の父と、彼を補佐する母は優しく三姉妹を育て、幸せな家庭を築いていた。しかし、悪徳商人に父はだまされ、家は没落し父は病で他界した。母と長女の珠姫は、妹2人の為に身を粉にし働き続けた。しかし、母も過労で他界し、金も底をついたので、三姉妹は路上で暮らすことになった。十を過ぎたばかりの珠姫とまだ幼い美羅は懸命に働いた。そして、まだ物心ついたばかりのつるぎを護るため。時に美羅は自身の可愛さを武器にし、人を騙しスリをしたりもした。珠姫も天性の能力、予言や占術で金を稼いでいたが、それだけでは足りない時は、妹には告げられない仕事もしていた。町外れの閑散とした路上に、集めた木や板を重ねた狭い住みかに三姉妹は住んでいた。体が弱かったつるぎはボロ布の掛け布団を掛け、熱を出して横になっていた。
「つるぎ・・お薬を買ったよ。今、飲ませるからね」
「今日はたくさんお金を取れたから、精のつく物食べられるよ」
珠姫と美羅は疲労困憊だったが、末子の顔を見ると頑張らなくてはと、気が引き締まり笑顔になった。
「お・・お姉ちゃん・・ゴホ!!ゴホ!!・・あたちの為にごめんなさい」
「謝らないで、つるぎ。美羅もゆっくり休んで。私達は3人で生きると決めたんだから!」
珠姫が粉薬を湯に溶かし、つるぎに飲ませようとした時、数人の男と派手な流しや袴を来た商人が住みかを蹴り壊し、美羅とつるぎを捕まえた。男の嫌らしく、たちの悪い姿に見覚えがあった。家を乗っ取った悪徳商人・・・。
「妹達を離しなさい!!下賤の者め!!」
珠姫は男達を睨み怒鳴ったが、首を強い力で掴まれた。
「こんな所でまだしぶとく生きていたか、お嬢ちゃん達。二番目のガキがスリをしていると聞いて、目を付けてたんだ」
男は苦しんでいる珠姫の耳元であざ笑いながら囁いた。
「こんな暮らしまっぴらだろう?3人共俺の店で下働きさせてやるよ。それとも、ここで野垂れ死ぬか?」
男は嫌がる珠姫の首を強く絞め脅した。その時、妹達を捕らえていた男が悲鳴を上げ倒れた。背中を円状の刃で深く斬られていた。妹達は解放され、助けてくれた長身の男の足下に隠れた。
「容姿も中身も醜い商人とーね。美しい乙女に乱暴するのも殿方として恥ずかしくないのかね?」
風変わりな金髪の男性は、髪をなびかせ、澄ました顔で毒舌を振りまいた。
「うるせぇ!!優男が!!この小娘共は、俺の家に連れてって働かすんだよ!!てめーら、この変人を始末しろ!!」
商人は残った配下に命じた。その時、ツクモの額の紅玉が黒く光り、男共を黒い炎で跡形も無く消した。商人は信じられない光景を見て、珠姫を捕らえていた手が緩んだ。その隙にツクモは、彼の股間を蹴り上げ、少女を救い懐に抱いた。
「貴殿はこの世界には邪魔なクズとーね」
商人は涙を流しながら命乞いをしたが、速効黒い炎で、骨も残らず燃やされた。ツクモはのどかな口調で言った。
「君達があんなクズに復讐心を抱いてはいかんとね」
「あ・・あの・・・助けて頂き、ありがとうございます!!」
「お礼は・・人から盗っちゃったお金だけど・・貰って」
珠姫と美羅は体を震わせながら、感謝の言葉を言った。
「お金は要らんけん。余はただ、目障りだと思ったから消したけん。それより君達は・・」
ツクモは熱でしゃがみ込んでいるつるぎを癒やしの術で治した。つるぎは暖かいぬくもりを感じ、熱が下がり元気になった。ツクモは良かったけんと笑いかけ、3人に語りかけた。
「こんなに身も心も美しいのに、こんな所で朽ち果てるのは勿体ないとね。余が君達を原石から宝石へ大変身させるとね」
ツクモは大きく暖かい手を差し伸べると、3人は小さい手を同時に彼の手に合わせた。こうして三姉妹はツクモの妻として迎えられた。
ところ変わり、現在に戻り、つるぎは気持ちを改めた。
(姉上達は私に言えぬ仕事をしていた・・私の薬を買うために。そんな姉上をツクモ様が救ってくれた。私はツクモ様と姉上の為に剣を振う!!)
つるぎは紅史郎へのほのかな恋心を捨てようと決心した。
豊臣軍は徐々に九州に集い、各地に陣を構えている。天下人と邪教との動乱の日は目前と迫っている。
第7話 完
「姉上・・・大切な話とは?」
三女のつるぎが緊張した表情で尋ねた。
「間もなく、豊臣兵がこちらを攻めて来るわ。球磨を始め、厄介な勇士達も絶対に来るわよ」
少し張り詰めた態度で説明する珠姫に比べ、次女の美羅は動じる事無く、呑気な口調で言った。
「姉さんが心配事なんて珍しいわね。ツクモ様の手にかかれば、お猿さんなんて直ぐに尻尾巻いて逃げるわよ」
「秀吉はともかく、その球磨達勇士は気を引き締め、迎え撃たないとだな・・・。ツクモ様が痛手を負った位なので・・・」
つるぎは思い悩んでいた。神をも超える絶対の力を持つツクモが、かたや九州で有名な程度の傭兵に関心を持つなど信じがたいことだった。それに、紅史郎も球磨を、敵ながらも何故か身近な人物に感じると言っていた。
「つるぎ?もしかして紅史郎に想いを寄せているの?」
「え・・!?突然何を言う・・・」
珠姫はニヤリと頬を緩めながら、つるぎに問いかけた。つるぎは顔を紅くし、驚きを隠せないでいた。
「あなた、紅史郎と行動している時、心が弾んでいるわ。普段、生真面目で勇み立っているのに、この時だけは恋する女の子に感じるわ」
「すまない・・姉上。誤解を招くような事を・・。私はツクモ様の妻という自覚は持っています」
「ツクモ様が知ったら、つるぎ危ないわよー」
美羅は妹の困った顔を見てからかった。珠姫はそんな彼女をたしなめ、ずばりと言った。
「美羅こそ、成政様を気にかけている事くらいお見通しよ」
「うう・・・姉さんには敵わないわ。悟られないように隠していたのに」
2人は珠姫に、ツクモの妻でありながら、他の男に熱い視線を向けていた事を怒るかと思い、ドギマギしていたが、彼女は優しい表情で2人の頭を撫でた。それは、昔の優しく、しっかり者の長女の姿にも見えた。
「心配しなくても、ツクモ様もあなたたちの事をお見通しよ。我が公は、『好きにしてよかとーね』と許していたわ」
「はぁ・・それは有り難いな。ツクモ様は神のように寛大だな・・・」
2人はツクモは優しいのか、私達はどうでも良い存在なのか・・考えが読めず、怖いとも感じた。
「とにかく、姉として2人に言っておくわ」
珠姫は2人をまとめて、腕の中に抱きしめた。
「絶対に死なないで。ツクモ様の命であれど、自分の命を大切にするのよ。それと、本当の幸せを考えて」
「姉さん・・・」
「姉上・・・」
妹達は姉の柔らかい抱擁に涙を流した。
「大丈夫よ。あたし、成政様を父親に少し似ているなって思っただけだから。ツクモ様と姉さんとつるぎが1番大切よ」
「珠姫姉様・・幼い頃から苦労をかけさせて、すまない」
三姉妹は幼い頃の辛い記憶を思い出した。
今から十年以上前、珠姫と美羅とつるぎは、肥前平戸の商家の娘だった。商人の父と、彼を補佐する母は優しく三姉妹を育て、幸せな家庭を築いていた。しかし、悪徳商人に父はだまされ、家は没落し父は病で他界した。母と長女の珠姫は、妹2人の為に身を粉にし働き続けた。しかし、母も過労で他界し、金も底をついたので、三姉妹は路上で暮らすことになった。十を過ぎたばかりの珠姫とまだ幼い美羅は懸命に働いた。そして、まだ物心ついたばかりのつるぎを護るため。時に美羅は自身の可愛さを武器にし、人を騙しスリをしたりもした。珠姫も天性の能力、予言や占術で金を稼いでいたが、それだけでは足りない時は、妹には告げられない仕事もしていた。町外れの閑散とした路上に、集めた木や板を重ねた狭い住みかに三姉妹は住んでいた。体が弱かったつるぎはボロ布の掛け布団を掛け、熱を出して横になっていた。
「つるぎ・・お薬を買ったよ。今、飲ませるからね」
「今日はたくさんお金を取れたから、精のつく物食べられるよ」
珠姫と美羅は疲労困憊だったが、末子の顔を見ると頑張らなくてはと、気が引き締まり笑顔になった。
「お・・お姉ちゃん・・ゴホ!!ゴホ!!・・あたちの為にごめんなさい」
「謝らないで、つるぎ。美羅もゆっくり休んで。私達は3人で生きると決めたんだから!」
珠姫が粉薬を湯に溶かし、つるぎに飲ませようとした時、数人の男と派手な流しや袴を来た商人が住みかを蹴り壊し、美羅とつるぎを捕まえた。男の嫌らしく、たちの悪い姿に見覚えがあった。家を乗っ取った悪徳商人・・・。
「妹達を離しなさい!!下賤の者め!!」
珠姫は男達を睨み怒鳴ったが、首を強い力で掴まれた。
「こんな所でまだしぶとく生きていたか、お嬢ちゃん達。二番目のガキがスリをしていると聞いて、目を付けてたんだ」
男は苦しんでいる珠姫の耳元であざ笑いながら囁いた。
「こんな暮らしまっぴらだろう?3人共俺の店で下働きさせてやるよ。それとも、ここで野垂れ死ぬか?」
男は嫌がる珠姫の首を強く絞め脅した。その時、妹達を捕らえていた男が悲鳴を上げ倒れた。背中を円状の刃で深く斬られていた。妹達は解放され、助けてくれた長身の男の足下に隠れた。
「容姿も中身も醜い商人とーね。美しい乙女に乱暴するのも殿方として恥ずかしくないのかね?」
風変わりな金髪の男性は、髪をなびかせ、澄ました顔で毒舌を振りまいた。
「うるせぇ!!優男が!!この小娘共は、俺の家に連れてって働かすんだよ!!てめーら、この変人を始末しろ!!」
商人は残った配下に命じた。その時、ツクモの額の紅玉が黒く光り、男共を黒い炎で跡形も無く消した。商人は信じられない光景を見て、珠姫を捕らえていた手が緩んだ。その隙にツクモは、彼の股間を蹴り上げ、少女を救い懐に抱いた。
「貴殿はこの世界には邪魔なクズとーね」
商人は涙を流しながら命乞いをしたが、速効黒い炎で、骨も残らず燃やされた。ツクモはのどかな口調で言った。
「君達があんなクズに復讐心を抱いてはいかんとね」
「あ・・あの・・・助けて頂き、ありがとうございます!!」
「お礼は・・人から盗っちゃったお金だけど・・貰って」
珠姫と美羅は体を震わせながら、感謝の言葉を言った。
「お金は要らんけん。余はただ、目障りだと思ったから消したけん。それより君達は・・」
ツクモは熱でしゃがみ込んでいるつるぎを癒やしの術で治した。つるぎは暖かいぬくもりを感じ、熱が下がり元気になった。ツクモは良かったけんと笑いかけ、3人に語りかけた。
「こんなに身も心も美しいのに、こんな所で朽ち果てるのは勿体ないとね。余が君達を原石から宝石へ大変身させるとね」
ツクモは大きく暖かい手を差し伸べると、3人は小さい手を同時に彼の手に合わせた。こうして三姉妹はツクモの妻として迎えられた。
ところ変わり、現在に戻り、つるぎは気持ちを改めた。
(姉上達は私に言えぬ仕事をしていた・・私の薬を買うために。そんな姉上をツクモ様が救ってくれた。私はツクモ様と姉上の為に剣を振う!!)
つるぎは紅史郎へのほのかな恋心を捨てようと決心した。
豊臣軍は徐々に九州に集い、各地に陣を構えている。天下人と邪教との動乱の日は目前と迫っている。
第7話 完