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第2章  九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神

別府港から離れた山奥の鬼の一族が暮らす里にて。
夜に桜龍は、鈴虫の心地よい羽音が響く、銀杏の林の中心にある、海地獄の池で瞑想していた。静かに気を集中させ、左の聖龍の瞳に力を注いだ。すると瞳から突然、ツクモの姿が映し出され、黒い炎が聖龍を焼き焦がそうとした。桜龍は「やられる!?」と焦り、気が乱れ呼吸が荒々しくなった。そこを、気高く優しい女性に呼ばれ意識を取り戻した。
「あ・・由布殿。お恥ずかしい姿を見せてしまいましたね・・・」
桜龍は何時ものあちゃーという表情とは少し違い、少し思い悩んでいた。鬼の一族の長、由布は「何を悩んでおるのだ?」と母のように尋ねた。桜龍は彼女には隠し事は通用しないと思い苦笑いしながら、正直に悩みを打ち明けた。
「俺は、聖なる龍の守護者としてまだまだだと、ツクモや奴の妻、珠姫と一戦を交えて実感しました。男として情けないですよね・・・」
桜龍は少し弱気な口調で言ったが、由布はそんなことは無いと諭した。
「自らの力に奢る身の程知らずよりも、己と相手の実力を知り、悩み反省する事は成長に繋がるから良い心がけだ」
由布は少し飲まぬか?と麦焼酎の入った陶器を持ち、おちょこを桜龍に渡した。彼は少し貰いますと、おちょこを受け取ると、由布は酒を注いだ。少しの間、話すこと無く静かに飲んでいたが、由布の方から話し始めた。
「お主も、球磨と一緒で、皆に弱い面を見せたくないのだなぁ」
桜龍は由布の鋭い表情と口調で、「あちゃー見破られたか」と頭を押さえた。
「うう・・由布殿は何でもお見通しですな・・・。正直に言うと、俺はごく普通の隠岐の島民だったんです。ですが、何故か俺に聖なる龍の瞳が宿ったんです」
由布は目をつぶりながら桜龍の話に耳を傾けた。
「お主は、顔には出さぬが、戦国の世を護る覚悟を持っておるのだな。だが、桜龍一人が背負う宿命ではないぞ」
「俺は、地水火風の四つの力を導く聖龍の守護者だから、皆に弱さを見せたくないんです」
桜龍と由布が話を続けている時、鬼の子供達に本を読み聞かせ終わった仁摩が、二人を見かけて「大事な話かしら?」と邪魔しないように退こうとしたが、桜龍が彼女の方を向き、聞こえるように宣言した。
「特に、仁摩殿を危ない目に遭わせちまったのは俺の未熟さだ。彼女を護れるように、強くならないとですぜ!!」
仁摩は顔を赤くし、胸がドキドキするのを抑えながら、桜龍の元に少しずつ歩み寄ろうとした。しかし、直後に桜龍が由布に早口で愚痴を言い始め、仁摩は目を三角にした。
「聞いてくださいよー由布殿。仁摩殿は、俺が羽目を外さないようにと問答無用で付いて来て、寄り道買い食いは神官として許さん、だけど、自分は着物や小物を見る時間は長いわで・・不公平だぜ全く・・・」
その後も、酔った勢いで桜龍は愚痴を続けると由布は、彼の真後ろに仁摩が腕組みをし、ムッとした顔をしているのを、おやまぁと彼女に笑いかけた。仁摩は桜龍のおちょこを取り上げ、一気に飲み干し彼を睨んだ。
「何ともはしたない!!お酒の席で私の愚痴を由布様の前で言うなんて!!恥ずかしい・・・」
「ほえ?に・・・仁摩殿?良い飲みっぷりだぜー🎵」
桜龍は陽気な口調で仁摩に拍手をし、直ぐにグーグー眠り始め、由布の膝に頭を乗せた。仁摩は「何と失礼な事を!!」と起こそうとしたが、由布に「このままで良い」と笑顔で止められた。
「仁摩よ。お主は結構酒が強いのだな。少しわらわと酒を飲み交わさないか?」
由布はおちょこを仁摩に渡した。仁摩は、鬼の一族の長と飲み交わすのは恐れ多いと迷ったが、同時に彼女の強さと気高さを見習い、色々な話もしたいと思った。
「ぐっすり眠っているうつけ者は放っておいて、ゆっくりお酒を飲みましょう。由布様」
「お互いに飲みすぎぬよう、ほどほどに飲もう、仁摩」
二人は眠っている桜龍をわら布団に寝かせ、談笑しながら焼酎を飲み交わした。

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